ナツノキセキ#12

そんな楽しい日々が続いていた夏のある日

優花はこんなことを言い出した。

「最近ね。島に展望台ができたの。島の景色が見下ろせるんだって!

 でもパパが一人は危ないから行っちゃダメっていうから冬弥くんと一緒なら大丈夫だよね!行ってみようよ!」

「僕はいいけど大丈夫かな?優花ちゃんあとでマスターに怒られたりしない?」

「大丈夫だよ!冬弥くんと一緒だもん」

優花は強気に言い放った。

そして今日も僕らの大冒険が始まる。

祖父の家の近くに細い山道がある。そこから登っていくのだという。

山道は意外と険しかった。簡素な木の棒が等間隔に並んだ階段らしきものが

山頂に向かって伸びているだけだった。

子供の足ではすぐに疲れてしまう。途中休みながら徐々に登っていく。

先に音を上げたのは優花だった。

「冬弥くーん。もう歩けないよー」

そう優花が喚いている。僕は近づき

「じゃあ僕がおんぶしようか?」

僕はそう優花に提案した。

「ダメ!優花はお姉さんだがらそんなことしません!ちゃんと自分で登ります!」

優花の自尊心を傷つけてしまったのだろうか。

その不機嫌そうな顔に僕は笑ってしまった。

「もう冬弥くんのいじわる~」

そんなやりとりをしながら徐々に頂上が近づいてくる。

最後の階段を上りきるといきなり視界が開けた。

そこは全方向から島を見渡せるいわば絶景であった。

「わー聞いてた通りすごい景色だねー」

さっきまで不機嫌そうだった優花の顔はいつしか笑顔に変わっていた。

「ほんとに奇麗だねー」

僕も続けるように相槌を打つ。

とはいえここに来るまでにずいぶん疲れた。どこか休める場所がないかと

辺りを見渡すと片隅に屋根のついたベンチがあった。

「ねぇ優花ちゃん!あそこにベンチがあるから少し休もうよ」

僕は優花に手招きをしながら呼び寄せた。

「そうだね。いっぱい歩いたから疲れたね」

そういうと二人はベンチに腰を下ろした。

しばらくベンチから見える絶景に僕らは見惚れていた。

そんな中優花が僕にこう切り出してきた。

「ねえ、冬弥くん。私のこと優花って呼んでくれない?」

僕は咄嗟に

「えっなんで?」

と素直に答えてしまった。

すると優花は続ける。

「だってさ、私ももう中学生だよ。お姉さんなんだよ!優花ちゃんって何か子供っぽいじゃない。

 だから冬弥くんには優花って呼んでほしいな」

優花はそう言い終わると僕に向かって微笑んだ。

僕は

「じゃあ僕のことも冬弥って呼んでよ」

そう優花に呟いた。

「ダメ!冬弥くんは冬弥くんなの!」

とよくわからない理屈で跳ね返された。

「なんだよそれ・・」

そう俯く僕に優花は笑っていた。

そんな他愛のないやりとりの後僕は優花に語り始めた。

「ねぇ優花ちゃ・・・優花にお願いがあるんだけど」

「冬弥くん、なぁに?」

「いつかさ、僕が大人になったらさ。優花に都会を案内してあげたいなって思っているんだ。

 いろんなものを一緒に見て見たい。それがいつになるかわからないけどその時まで待っててくれる?」

そう話すと優花は

「冬弥くんが迎えにきてくれるの?うん!私ずっと待ってるよ!いつか一緒に都会にいってみたい!」

そう答えてくれた。僕は

「じゃあここで約束しよう。大人になったら優花を迎えにくるって!!」

「うん!約束だよ!」

子供同士の小さな約束。それは価値は僕たちだけが知っている。

日が傾く前に帰らないといけない。僕たちは下山を始めていた。

行きとは違い帰りは下りだ。足取りも軽やかに進んだ。

山道を抜け海岸沿いの道を二人で歩いていると優花が

「喉乾いたねー」

と呟いた。たしかに僕も喉が乾いている。

僕は少し遠回りをしようと提案し商店へと足を運んでいた。

商店につくとおばさんが出迎えてくれた。

「あら冬弥ちゃんと優花ちゃんじゃない。いつも仲がいいわねぇ」

そう声をかけると優花が

「おばちゃん!ラムネあるー?」

と催促した。

「はいラムネね。優花ちゃんはラムネが好きねぇ」

「うん!大好きなの!あのシュワシュワがいいんだよね!」

そんなやりとりの中僕も

「おばさん!僕もラムネください」

そう答えた。おばさんは奥の冷蔵庫からラムネを2本取り出し

「はいラムネね」

と二人に渡してくれた。お会計を済ませると僕たちはラムネをもって歩き出した。

「気を付けて帰るのよー」

と遠くでおばさんの声が聞こえた気がした。

日は傾き辺りが赤色に染まる頃僕らはラムネを飲みながら歩いていた。

ラムネをおいしそうに飲む優花の横顔がとても奇麗で

僕は顔を赤らめていたと思う。この時ばかりは夕日に感謝せねばと思った。


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