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「ムーンライト」からみる繋がりのわずらわしさ


2016年に公開されたアメリカ合衆国の映画、「ムーンライト」。

同年に公開され、話題を呼んだ「ラ・ラ・ランド」を抑えて第89回アカデミー賞作品賞を受賞したということからも、注目を浴びた作品だと言えるのではないでしょうか。


今回はこの「ムーンライト」から

人間関係や、自己を取り巻く環境、過去と今の自分...

その「繋がりのわずらわしさ」というものを考察していきます。


(以下ネタバレあり)

この映画は

1.リトル

2.シャロン

3.ブラック

の三部構成になっております。

演じている役者は違いますがすべて1人の同じ主人公の物語であり、主人公(シャロン)の少年期、青年期、成人期を描いています。


まず、第1章の「リトル」では自分の居場所をつくってくれたフアンとテレサが自分の母親に麻薬を売っている売人であった、という「繋がり」が明らかになります。

自分に「与えてくれた側」の人間が、自分から間接的に「奪っていた側」の人間であったということです。

ここに、「繋がり」の存在ゆえのわずらわしさがみられました。

自分の居場所を肯定することも否定することもできず、ただその残酷な運命によって縛り付けられ、身動きがとれない。

また、それに追い打ちをかけるように薬物中毒である母親は、シャロンに対して「愛してる」、「どこにもいかないでくれ」と度々口にします。息が詰まるような環境で、母親の愛への執着が、いったい彼に何を与えることができたというのでしょうか。ここにも、親子という「繋がり」がわずらわしく絡んでいます。

それでもシャロンは、そんな母親に対して反抗することもなく、ただ自分の運命を受け入れ生活していきます。どうして、彼は自分の幸せや喜びを自分で選ぶという選択肢を奪われてしまったのか。これもやはり、自分にまとわりつく「繋がり」の存在が彼にそうさせていたのではないか、と思います。自分の喜びを素直に受け入れられない状況になってしまっていたのです。

このような状況がまた、シャロンの恋にも関わってくるものだから、もどかしいのです。

シャロンが恋した相手は、少年期からの友人のケヴィン(同性)でした。しかしその感情、ときめき、喜びさえも、彼は躊躇ったのでしょう。シャロンは、それを表すかのようにシャロンへのいじめの主犯(テレル)に命令されたケヴィンがいやいやシャロンを殴り続けたときも、崩れ落ちるのを拒み、何度も何度もケヴィンに殴られます。

そして、トドメと言わんばかりに翌日、テレルを椅子で殴りつけたシャロンは、警察がきてパトカーに乗った際、ケヴィンを睨みつけます。


自己を取り巻く環境や過去が自分の気持ち、選択肢とリンクして、感情をぐるぐる巻きにして縛り付けてしまう。そんな経験が、私自身にも幾度かあります。人はこれを「諦める」と言いますが、選択肢によってはものすごく辛いです。しかし、そのような自分のわずらわしい感情を一掃したときは、清々しくもあります。

それが、このシーンからひしひしと伝わってきて、なんとも言えぬ感覚に陥りました。

それから、第3章の「ブラック」ではまるで別人のようになった逞しい姿のシャロンが登場します。しかし、驚いたのはそんなシャロンも母親やケヴィンの前だと、第1章や第2章で観たあの「シャロン」だということがわかる、ということです。役者さんの演技に圧倒されました。

ケヴィンの前で、なかなか自分の気持ちをさらけ出すことができないシャロン。これは、過去と今の自分との繋がりを色濃く表しています。彼は「ブラック」になったものの、「リトル」でもあるし「シャロン」でもある。このような過去と今の自分の繋がりが、先述したように自分から選択肢を奪ったり、自分の感情を縛り付けることがあって、過去の嫌な経験の記憶はリセットされるような仕組みになればいいのにって思うことが自分自身もあります。


しかし、この一見「切り離せないもの」のように思えることがらは、実は見方を変えれば切り離して考えることができるのではないでしょうか。と、言うより、過去の嫌な経験の記憶をリセットするのではなく、「切り離して考えられない」という自分の思いをリセットするということです。

いつだって、わずらわしい繋がりは自分を縛り付けてきます。そのようなときは、勇気を出してハサミで「えいっ!」とその繋がりを切ってしまえばいいのです。

フアンの「人生は自分で切り開かなくてはならないものだ」という言葉が胸に響きます。

あらゆる選択肢や感情の揺さぶりの中で、わずらわしい繋がりを切る勇気こそが自分の人生を豊かにする鍵になるのではないかな、と感じました。

本作でも、ラストでは少年期のシャロンがムーンライトに照らされていました。「自分だけど、自分じゃない自分」を駆け抜ける時間がこれからの人生の中でシャロンにも、そして今を生きる私たちにもたくさんありますように、と強く思いました。



余談になりますが

この映画は、映像や撮り方が本当に綺麗で圧巻でした。映像だけでも十分楽しめる作品だと思います。まだ観ていない方は是非...














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