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レインカープ:前編【NFシリーズ】

<あらすじ>宇宙維持局捜査官、孤島アツシ。彼の任務は地球に侵入した超常的存在(ナンセンス)を拘束または殲滅すること。これはそんな彼が大雨の日に遭遇した宇宙生物との物語だ。

-1-

夏が終わり秋もそろそろ終わろうかと言う神無月。事務所で気だるげに頬杖を付いているとけたたましくサイレンが鳴り響いた。久々のナンセンス反応だ。

「よりにもよってこんな日に......」

この時期になると天気が崩れることもあまりないはずなのだが、今日はあいにくの大雨だった。「バケツをひっくり返したような」とはまさにこの事だろう。奴らにしたって何もこんな日に現れなくても良いのに。まさにナンセンスだ。おっと、シャレを言っている場合じゃない。警戒レベルはそこまで高くないのがせめてもの救いか。

俺の名は孤島アツシ。宇宙維持局サーモスタット マドカ市駐在捜査官だ。

宇宙維持局とは、宇宙のバランスを保つための組織であり、地球に不法侵入してきた宇宙人や怪獣などの超常的存在、いわゆるナンセンスを拘束するのが使命だ。時と場合によっては対象を殲滅することもある。さっきのサイレンはそのナンセンスが現れたことを知らせるサイレンだったわけだ。

対象の現れた場所はどうやらここからそう遠くない様だ。俺は車の運転が得意ではないため普段なら両手を上げて喜ぶところだが、この天気では流石にそうもいかない。仕方ない、傘を差して歩いて行くか。傘を差すのも片手が埋まってしまうからあまり好まないのだが車を運転するよりはよっぽどいい。

思考を巡らせたのち頭をポリポリと掻くと重い腰をあげる。そして「THT」のロゴが入ったジャケットを羽織ると傘を手に取った。

「さぁて、行くか」


-2-

(何が悲しくてこんな土砂降りの中外に出なきゃいかんのか......)

位置情報によると対象がいるのは、よく俺がサボってベンチでくつろいでいる近所の公園のようだった。普段であれば学校終わりの子供や子連れのママさん達で賑わっているところだが、今日のこの天気ではれはなさそうだ。この点だけは雨に感謝するべきか。

そうこうしているうちに目的地へたどり着いた。既に雨水が靴下に浸水していて気持ちが悪い。ボロ靴で来るんじゃなかった。あぁ、早く帰りたい。

ぐるっと公園を見渡して見るが、特におかしいところはないように思う。水たまりのできた砂場に、色のハゲた滑り台。老朽化で使用禁止のロープが巻かれているシーソー。いつも通り......いやまだだ。ブランコを忘れていた。

どうか厄介なものがそこに居ませんように。俺はそう願いながらゆっくりブランコの方へ振り返った。すると確かに厄介なものの姿はなかった。その代わりと言っちゃ何だが、赤いレインコートを着た子供らしき姿がそこにあった。鎖をしっかり両手で握りしめ、ゆらゆらとブランコを漕いでいる。

いくら雨具を着ているとはいえ、こんな日に1人で? 俺は少し怪しみながら恐る恐るそれに近づいていく。そして声をかける。

「おい。こんなとこにいたら風邪引くぞ。はやく帰ったほうがいいぜ」

黄色いレインコートのそれは俺の声に反応してブランコを漕ぐのをやめるとゆっくり振り向いた。そこにあったのは人間の顔ではなく、牛のようなカエルのようなヌルッとした何かだった。ナンセンス反応はこいつだ。間違いない。俺がギョッとはしつつも敵意を示さないのを確認するとそれはゆっくりと口を開いた。

「帰る場所、ないんだ。おじさんだあれ? 」

意思の疎通ができるタイプか。おそらく外見どおりまた子供なのだろう。どこか暗い影を落とすその大きな瞳に俺は興味をもった。

「俺はコトーだ。それとおじさんはやめろよな。まだ28になったばかりだぜ?」

「28さい? 何だ、ぼくより全然年下なんだね」

しまった。またやってしまった。宇宙人の年齢感覚が地球人と違うのは毎度のことなのだがいつも抜けてしまう。まぁこんな些細なことはどうでもいいんだが。奴はゆっくりと話を続ける。

「ぼくの名前はパルジニア。こういう所に来れば誰か友達になってくれるかと思ったんだけど誰も居なくって 」

パルジニアは残念そうに俯いた。こいつは遊び相手を探してたのか。

「まぁ、こんな天気だからなぁ」

「そっか......。コトー、君、雨は好き?」

パルジニアは首を傾げた。

「雨か。正直にいうとあんまり好きじゃねぇな。じめじめ湿っぽいし、洗濯物も乾かねぇ。外に出るにもこうやって傘を差さなくちゃいけないしな」

「そっか。そうだよねぇ......。雨が好きな人なんていないよね」

パルジニアのテンションが明らかに落ちた。どうやら俺は回答を間違えたらしい。子供の扱いが苦手なのがこんなところで裏目に出るとは。俺はとっさに思いついた励ましの言葉を掛けようとしたが、何者かの声がそれを遮る。

「見つけたぞパルジニア! 貴様、こんなところにおったのか! 」

広いつばの大きな帽子にコートを羽織ったずんぐりむっくりな中年の男。帽子のせいで顔はよく見えないが声からそう察せられる。それにパルジニアのことを知っている時点でどうやらカタギの者ではなさそうだ。

男がこっちに近寄ってくるにつれ、明らかにパルジニアが怯え始めた。そしてそのヌルヌルした手で俺の腕を握ると、パルジニアは何も言わずに目で訴えるようにじっと見つめるのだった。

男はその様子を見ると俺にぐっと詰め寄った。

「何だお前は? 」

俺はこれ見よがしにジャケットの背中のロゴを見せる。

「それはこっちのセリフだぜオッサン。俺は宇宙維持局捜査官、コトーだ」

-つづく-

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