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【ウクライナ戦況記事和訳】アウジーウカ市街戦後:防衛態勢について(Frontelligence Insight 2024.02.29)

ウクライナ東部ドネツィク州のアウジーウカ市を占領したのちも、ロシア軍は同市の西方で前進を続けています。

上記の英文記事は、このアウジーウカ方面の情勢を、ウクライナ軍が抱える問題も明らかにしつつ、分析したものです。この分析記事はウクライナを拠点とする戦争・紛争分析チーム「Frontelligence Insight」が執筆しています。

以下は、この記事の日本語訳になります。なお、画像は英文記事原文のものを転載して、使用しています。

日本語訳「アウジーウカ市街戦後:防衛態勢について」

はじめに

ロシア軍は、アウジーウカ占領後、その西方へと攻撃を進める機会を手に入れた。Frontelligence Insightは、衛星画像・公開されたデータ等の各種情報を用いて、しっかりとした分析を行った。分析の目的は、この地域における情勢に関する重要な知見を示すことにある。それに加えて、近いうちに起こりうると予想されることについての見解も示していく。

アウジーウカからの撤退

アウジーウカからの撤退が時宜にかなったものだったと指摘する専門家・情勢ウォッチャーもいるが、私たちの評価は、撤退開始がもっと早かったならば、損失を減らすことができただろうというものだ。実際よりも早く撤退していた場合、将兵が現実に直面した状況は回避できた。その状況というのは、望まぬ犠牲を払ったうえでの包囲の突破であったり、負傷者を置き去りにしたりしたという、不名誉なかたちで有名になったゼニト陣地の状況のようなものを指す。ただし、アウジーウカからは、2023年のバフムートよりも迅速に撤退がなされたという点は指摘しておく必要があり、ここにある程度の向上がみられる。

第3強襲旅団とほかの特殊部隊の極めてプロフェッショナルな行動のおかげで、一部の撤退部隊の退路は整えられたし、敵の追撃部隊にかなりの損失を与えつつ、円滑な撤退を進めることもできた。その一方で、私たちが取材した個々の将兵のなかには、正式な撤退命令を受けとっておらず、撤退の決定は正式命令ではなく、戦術的必要性によってなされたと述べる者もいた。正式な命令を待っていたら、これらの将兵は包囲され、壊滅したかもしれない。ただし、この種の事態がどの程度生じていたのかに関して、私たちのチームは評価判断を示すことができない。

迅速な進撃

アウジーウカ陥落後もロシア軍は前進を続けた。この分析を行った時点で、シェヴェルネ、ラストチキネ、ステポヴェといった集落はすでにロシア側支配下にある。オルリウカとベルディチを含むほかの集落は現在、攻防戦の最中にあり、この分析記事を公開した時点で、これらの集落がすでに陥落してしまった、もしくは集落のほとんどの範囲が占領されてしまったことになっている可能性がある。

ウクライナ領ドネツィク州オルリウカ
2024-02-27 | 48.160503, 37.634539
©️Frontelligence Insight

2月27日以降に撮られた衛星画像に示されているように、火災と焼け跡がオリヒウの西方へと広がっており、この集落につながる連絡線を断ち切り、守備部隊に損害を与えることを、ロシア軍が迅速に進めている様子が示されている。それに加えて、セメニウカがKAB(空中投下型誘導爆弾)を用いた攻撃にさらされていることが、いくつかの報告に示されている。

ウクライナ領ドネツィク州オルリウカ
2024-02-27 | 48.160503, 37.634539
©️Frontelligence Insight

上記の見解は、NASAのFIRMS(火災情報リソース管理システム)データによっても裏付けられている。FIRMSは、地上の「熱異常」を特定し、それをマッピングしているものだ。このFIRMSデータを活用して、私たちは上の画像を作成した。ここに示されているのは、過去24時間の、火災・爆発といった「熱異常」箇所である。

結局のところ、私たちは、これら集落群を長期にわたって守り抜き続けることが難しい可能性を予期している。これら集落群の西方に存在する地形や河川等は、防衛を容易にする、もっと有利な地点を確保する機会を、ウクライナ軍に与えている。

防御陣地と防衛態勢

Frontelligence Insightは、コンクリートと木材で構築された頑強なウクライナ側防御陣地が、目を引くほどに不十分である事実を確認している。戦闘に深く関わっている複数の旅団が、自部隊の後方で、この種の陣地を構築する任を負っていることを示す報告が繰り返されている。

このようなやり方は危険であり、有害でさえある。ウクライナ軍の最前線での兵力不足が知られていることを考えると、とりわけそういえる。戦闘任務に従事している旅団に陣地建設をさせることは、極めて重要な戦闘任務から、貴重な人的リソースを割くことになる。戦略的防御陣地の構築に必要とされるのは、複雑で専門的な手法であって、それは軍単独の努力の範疇を超えている。基本的な必要物には、ブルドーザー、パワーシャベル、油圧式クレーン、コンクリート製造設備、トラック、そして、材木のような材料が含まれ、これらは特殊な装備やアセットといえる。そこに、各種装備・アセットを前線まで運送するロジスティックも要求される。必要とされる建設の規模を考えると、ウクライナ軍には、軍単独でこの任務を遂行する工兵能力もリソースも十分にない。この状況から導き出されるのは、本件の対処には、民間リソースを動員するという政治的意志と、そのための国家指導部の関与が必要であるということだ。さらにいえば、このような重大なプロジェクトに要求されるものの調達に必要なリソースを確保するために、国防省との連携した取り組みが必要となる。軍事費内に存在する予算上の制約を考えた場合、特にそれがいえる。

ここで示した見解は単なる憶測ではない。私たちのチームは、ウクライナ南部でロシア軍が防御陣地線を構築する様子を細かくモニターしていた。この構築の期間、ロシア軍は、ロシア本国と占領地域の企業を下請けとして積極的に使って、建設資材、車両、各種装置・設備のオペレーター、運送支援を確保した。不足を補うため、ロシアはさらに、盗んだり、「没収」したりした民間の機器を使った。このようなアプローチは、ロシア国内における軍民当局の連携した取り組みと結びついており、これには占領地域の対露協力者が積極的に参加したことも含まれている。資金の着服、製造物の質といったさまざまな問題に関する不満やクレームが多くあったにも関わらず、ロシアが行ったプロジェクトは全体として成功したとみなすことができる。

直近の展望

ウクライナ領ドネツィク州ベルディチ
2024-02-27 | 48.193407, 37.662927
©️Frontelligence Insight

私たちのチームの見解によると、比較的乾燥した気象状況によって、地面の乾燥が早く進んでおり、このことがロシア軍の前進を容易にしている。泥濘期がロシア軍の前進を阻害するかもしれないという予測もあったが、残念なことに、現時点ではそうなっていない。弾薬・兵力不足・準備不十分な防御陣地等々のさまざまな理由により、ウクライナ側の情勢は厳しいものである。とはいえ、ロシア側の展望がかなり楽観視できるとは必ずしもいえない。前線の各所で前進するロシア軍の状況に関して、重要なポイントをいくつかここに示していく。

  • ロシア軍は、アウジーウカ攻略の期間、不釣り合いなほど甚大な損失を被った。位置情報に基づいた情報を観察した結果、アウジーウカ攻撃の期間にロシア軍が失った車両数の私たちのチームによる試算は、300両超の損失という数字になった。OSINTアナリストのNaalsioは、動画・画像資料に基づいて損失数を試算しているが、Naalsioは損傷・破壊・遺棄された車両数が600両を超えることを確認している。なお、後日、修復された車両もこの数に含まれている。人的損失の試算はもっと難しいが、戦場復帰不可能な損失の全体数は、今は亡きロシア軍事ブロガーのモロゾフが示したように、16,000人であると報じられている。なお、モロゾフは損失に関する投稿の消去を強いられたのちに自殺した。

  • 私たちのチームは傍受した通信記録の内容を調べる機会を得たのだが、その通信記録から分かるのは、2023年夏以降、活発な戦闘に加わっている部隊の多くの士気が低下しているということだ。その理由は、甚大な損失、不適切な給与支給、不十分なローテーション、上官からの、特に将官からの思慮に欠ける態度にある。小・中隊規模の小規模部隊のなかには、戦闘参加を拒否している部隊もある。だが、知っておくべきなのば、ロシア軍には、このような行動に対処するための、効率的で、非合法的な制度が存在しているという点だ。つまり、ロシア軍が抱える問題は一時的なものに過ぎず、この種の問題が軍全体に深刻な状況をもたらしているとみなすべきではない。

  • 新兵の質は継続的に低下している。以前報告したように、アウジーウカ戦の最終段階である2月に捕えられた戦争捕虜の一団は、1月中旬に募兵された者たちだった。このことは、適切な訓練が欠けているにも関わらず、投入できる人的資源を前線に送り、それによって目標を満たそうというロシア側の拙速な取り組みを示している。新兵として加わったばかりの人々の消耗率の大きさは、差し当たりロシア軍に大きな悪影響を及ぼさないかもしれないが、今後の数カ月間の戦闘即応態勢には、大きな影響を及ぼすことになることが予期される。

  • 防御陣地構築のスケジュール設定に失敗したとはいえ、進捗がまったくみられないと主張するのは適切とはいえないだろう。工兵部隊は、防御陣地を整備するという現在進行中の作業に積極的に取り組んでおり、それらの陣地は、いくつかの場合、木材・コンクリート・金属を組み合わせた構造物になっている。私たちの分析が示したのは、このような取り組みの規模の不十分さが、それは工兵部隊、装備、人員それぞれの不足という状況を示しているのだが、その不十分さが国家規模での連携のとれたイニシアチブの欠如に起因しているという状況だ。このような状況は、ロシア軍がいずれかの時点で強力な防御陣地に遭遇することになる可能性は高いということを、それとなく示している。そして、ロシア軍が今後、突破して、さらに別の大規模居住地域を包囲できるかどうかは、今のところ不明だ。

最後に

ウクライナ軍にとって情勢は依然として極めて厳しく、それを示す要因は重層的なものだ。それは動員実施の遅れであり、不十分な防御陣地建設であり、2023年攻勢期間の判断ミスでもある。これらの要因以外で特筆すべきものに、支援諸国が、約束したにも関わらず、確約した数の砲弾を送ってくれなかったという致命的な事態がある。12月に私たちのチームが強調したように、ウクライナはさらなる領土喪失を経験することになる可能性が高く、特に2023年夏季に取り戻した地域で領土を奪われることになるだろう。そうであるとはいえ、戦線全体の完全な崩壊は予想していない。なぜなら、ロシア軍はリソースを浪費し続けているが、その浪費の規模は、相対的にみて小さな戦果と比べて、不釣り合いなほどに大きいからだ。2022年以降、最も好ましい状況のなかで、ロシア軍は自軍の優位性を最大化しようと試みているけれども、ロシア軍の進撃には、ウクライナ軍の崩壊を引き起こすのに必要な規模がない。このことが示唆しているのは、今後起こるであろうロシア軍攻勢の減退ののちに、ロシア軍は防衛態勢に入らざるを得なくなるだろうということだ。このシナリオは、もし西側諸国がウクライナの動員実施を支えるのに十分な軍事支援を送ってくれるのなら、ウクライナ側に好ましく動くシナリオになりうる。

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