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【英文記事和訳】「ロシアに対抗するための2024年ウクライナ戦略として最善なのは防御戦略だ。では、なぜ反転攻勢が議論されるのか?」(ミック・ライアン豪軍退役少将)

ウクライナの戦場においてロシア軍が主導権を握っている現状下で、ウクライナ側から2024年反転攻勢に関する発言が出ています。その理由は何なのかについて、オーストラリア軍退役少将ミック・ライアン氏が上記リンク先の記事で解説しています。

この英文記事(“A defensive strategy is Ukraine's best plan to confront Russia in 2024. So why is a counteroffensive being discussed?”)は、オーストラリアのABCニュース・ウェブサイトに2024年3月12日に公開されたものです。以下は、その日本語訳になります。

日本語訳

2024年のウクライナ軍反転攻勢の可能性は、ウクライナ大統領ウォロディミル・ゼレンシキーによって公に議論されており、同様に、ウクライナ陸軍司令官オレクサンドル・パウリューク中将によってもなされている。

2月末のインタビューで、ゼレンシキーは2024年反転攻勢に関するウクライナ側のプランに触れており、そのなかで「我々は新たな反転攻勢、新たな作戦の準備をしていくつもりだ」と述べている。

さらに最近にことになるが、パウリューク将軍は、ウクライナが近い将来に戦力のローテーションを行い、そうすることで、「反転攻勢行動」の遂行に必要な新たな部隊集団を創設することに関する説明を行った。

2024年の大規模反転攻勢の計画・準備・遂行は、ウクライナにとって、とんでもないほど大変な仕事になるだろう。ウクライナが抱える困難のなかで鍵となるのは、以下の3点だ。


① 軍の人員不足

まず、ウクライナは軍の人員不足の問題を抱えている。前線における兵士不足は最も深刻なもので、ここ数カ月間、ロシア軍がウクライナ東部と南部でゆっくりとだが前進できている要因の一つが、この人員不足だ。

この問題の解決にはウクライナ国内でのより広範な動員が必要になるだろうが、このことの解決なしで、攻勢行動に必要な予備地上戦力をつくり上げるのは、極めて困難なことだろう。


② 砲火力の不足

二つ目の困難な課題は、砲火力の不足だ。ウクライナは目下、砲弾不足に直面している。これは旧ソ連製火砲と西側製火砲の双方で起こっていることで、対空兵器用弾頭に関しても同じことがいえる。この事態は、最近起きたアウジーウカからの撤退を招いた一要因になっていた。

米国からの新たな支援パッケージがない場合、現在の不足が解決される希望はほとんどなく、どのような大規模反転攻勢であれ、それに必要な備蓄ができる見込みも、かなりわずかなものだ。


③ マンパワーを有するロシア

三つ目にして一番の問題は、ロシア地上軍が現在、優勢であるということだ。リトアニアの国家安全保障局が最近示した評価に示されているように、「ロシアは、少なくとも短期的には、今と同様の強度でこの戦争を継続していくだけの、財政・物資・技術面でのリソースを保有している。(…)軍需産業は、他の分野を犠牲にしているが、ロシア経済の牽引力になっている」のだ。


防御戦略が現実的な選択だとして、それではなぜ反転攻勢なのか?

どのようなものであれ、2024年反転攻勢の主要要素となる部隊と火力をウクライナが集めることができるようにする前に、大きな障害が立ちはだかる。ロシア軍の戦果を最小化し、ロシア軍を攻め、ウクライナ軍組織の再建を進めるため選択肢として、ウクライナにとって唯一現実的なものは、防御戦略だ。

これが事実だとして、なぜ政軍指導者は、今年のウクライナ軍反転攻勢の可能性を公に仄めかしているのか?

これにはいくつか考えられる理由がある。


① ウクライナには戦う覚悟が今でもある

まず、この戦いは、たとえ西側支援国の一部が手を引いたとしても、ウクライナから消え去るわけではない。この戦争から得られた大事な教訓の一つは、ある国が支援されるには、まずは自分自身で立ち向かう必要があるということだ。

それを踏まえると、2024年反転攻勢に関する憶測を発する際、ゼレンシキーはウクライナの支援者に向けてメッセージを送っているのかもしれない。特に気持ちが揺らぎつつある人々に向けてだ。そのメッセージとは、ウクライナは諦めていない、そして、ロシアに占領された領土を解放する計画を練り続けているというものだ。このことはまた、友好国と敵対国の双方に、ウクライナがこれまでも不可能を可能にしてきたこと、そして、今後再びそれを成し遂げようとしていることを意識させている。

戦争研究所の最近の報告に、ロシアのウクライナ占領地域施策が説明されているが、それは「ロシア占領下ウクライナ領を強制的にロシアに組み込むことで、ウクライナとしてアイデンティティを、社会的に、言語的に、政治的に、経済的に、宗教的に、行政的に」抹消しようとする方策として指摘されている。


② ドンバスとクリミアに希望を与える

反転攻勢を仄めかす二つ目の理由に、ゼレンシキーが、ロシアに占領されている地域の人々に向けて、この状況はずっと続くものではないという希望を届けたいと思い、ロシアへの完全な統合に抵抗したいと考えていることがあるのかもしれない。反転攻勢を仄めかすことで、ゼレンシキーはまた、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンはそう述べたけれども、ドンバス地方、クリミア、ウクライナ南部地域はロシアに組み込まれた一部ではないということを、世界に思い起こさせてもいる。

しかし、外国の人々にこのメッセージを送ることには、ある危険性が存在する。

結果的に失敗に終わった2023年反転攻勢に関して、期待が高まったことは、ウクライナ軍にとって有益な教訓として押さえておくべきだ。今年遂行する攻勢的行動が何であれ、それに伴う期待感の管理は、必ず行わねばならない重要なことだ。


③ ロシア軍指導部に疑いの種を蒔く

三番目の理由として、ウクライナ軍がロシア軍指導部の心に疑いの種を蒔いておきたいと願っていることが考えられる。可能性は低いとはいえ、ロシア軍指導部は、あらゆるウクライナ軍反攻にしっかりと備えておかねばならなくなる。

2024年ウクライナ軍反転攻勢の可能性は低いにも関わらず、ロシア軍司令官たちは、分別がほとんどない者でも、ウクライナ軍がこの戦争を通してロシア軍を驚かせてきたことを、思い出すことになるだろう。ウクライナ軍が逆境にめげず、攻勢作戦を発動する可能性があるという場合に備えるだけのために、ロシア軍上層部は予備兵力を使わずに置いておかねばならなくなるだろう。

ロシア軍がそうすることに続くかたちで、ウクライナ軍はロシア軍集結地点を特定し、長射程打撃兵器を使用して、その地点を攻撃できるようになる。ウクライナ軍に複合的なメリットが生じる。


④ 防御戦略をとったとしても、受動的であるわけにはいかない

このような憶測は、ウクライナが今年、どのような防御戦略を遂行するつもりなのかに関する、意図された洞察を与えている可能性がある。人員と火力の不足は防御的な軍事戦略を示しているが、完全に受動的な防御戦略はありえない。

この目的のために、ゼレンシキーとパウリュークはコメントを出すことで、攻撃的な防御を行うつもりだというウクライナの意図を暗示している可能性がある。攻撃的防御において局地的な反撃は、ロシア軍の弱い地域につけ込むために、また、ロシア軍の攻撃の機先を制するために遂行される。このようなアプローチは、昔からある非対称的なアプローチの一つであるのだが、この戦争中一貫してロシアの軍事能力を弱らせようとウクライナが取り組んできた方法と一致する。


優位に立つロシア

現状、ウクライナにおいて戦略的主導権を握っているのはロシア軍だ。ロシア地上軍は、同軍が望む場所と時期に、攻撃を仕掛けることができる。ロシア軍は東部地域と南部地域での作戦で、小さな戦果を得ているところだ。このような戦果は、ゆっくりだが時間とともに確実に拡大している。

ウクライナ軍は反転攻勢について、色々と考えを巡らせているのかもしれないが、短期的な視点でみると、ウクライナのどこかで大規模な攻撃を実施できる可能性が高いのは、ロシア軍のほうだけだ。そうであるがゆえに、今後の数カ月間、戦争がかなり流動的に行われる様子が示されることになるだろう。

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