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秘密の賞味期限 #15分note

「今日の主役は、キョーリキレッド、オマエだ。お持たせも作るからいつもより量が多いぞ。心してかかれ!」

「光栄です!出動します!」

説明しよう。キョーリキレッドとは、ねこのてベーカリー戦隊のリーダー、”強力粉”のヒーロー名なのだ。本日は久しぶりに息子が帰ってきたので、自宅で待つ彼の奥さんと一緒に食べてもらうために、いつもより多めにパンを作るぞということなのだ。

実は、キョーリキレッドには内緒にしていることがある。他の戦隊メンバーよりも賞味期限が近いのだ。通常は製造から6か月程度なのだが、この強力粉は先月購入したものなのに今月末が賞味期限になっていた。割引シールがついていたわけでもないのに、だ。

だから、息子夫婦へのお持たせだからいつもよりいいパンを作ろう、いいパンを作るならキョーリキレッドだな、と抜擢したわけではなく、単に早く使い切ってしまいたくて強力粉を使うレシピを優先していただけなのである。

もちろん賞味期限が過ぎたからといってすぐ食べられなくなるわけではない。ただ、味が落ちてきたりカビやダニが発生するリスクも増えてくるので、なるべく早く使い切るに越したことはない。

今回のパン作りで使えば、残りはあと1回分くらい。賞味期限内か、さもなくば1〜2週間のオーバーで使い切ることができそうだ。

そんなことを考えていたら、サラリーマンとしての賞味期限切れが間近に迫っている自分の姿とダブってきて、なんだか身につまされる思いがした。一応会社とは雇用期間を半年延長するということで合意したんだけれど、それこそ「賞味期限が過ぎたからといってすぐに使えなくなるわけじゃないからね」と言われているようで、安心なのか悔しさなのか、複雑な思いが心の中をただよう。

ちゃんと人生設計ができていれば大見得切って辞められるんだけれど、何も決まってないので弱いよね。


賞味期限のことは、強力粉の在庫が切れそうになって新しい粉を買ってくるまでは、キョーリキレッドには決して伝えずに心のうちにしまっておこう、そう決意した。君はまだまだ活躍できるんだから。

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