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終わらない2023年と、「這い回る」経験主義

 気がついたら2023年が終わっていて、2024年も始まって久しい今日を迎えている。何が起きたのかをようやくふりかえりする気持ちになれてきた。

 2024年はいつになく心穏やかではない始まりとなっているが、私自身は今年を迎える以前から気落ちする日々を始めている。昨年末のきわに、不注意から足を骨折するという終わり方をしており、この年末年始は常にソファーの上の人。全く動けないときこそ、普段考えないことに頭を働かせよう。俯瞰してモノを考えよう…なんて気にもなれず、悶々と時を過ごすのみ。

 やっていたことは、「この骨折がどういうものか」、「何をしたらだめで」、「どう直すのか」、「どのくらい時間がかかるのか」、スマホと首っ引き。ネットにチャットGPTに、と自分で調べる手段は昔に比べて格段にある。そうか、これは下駄骨折か、などと、勝手に分かった気にはなれる。コロナ禍の期間中からちょくちょく見ていた、医療のQAサイトにも課金して装備は万端。「この瞬間の下駄骨折患者として一番情報量持っている!」という気にはなれた。
(が、結局、手術になり病院に完全に身を委ねることになったため、これらの情報が活躍するということはほぼ無かった…)

 何を知りたかったかというと「松葉杖はいつ手放せるのか」。とにかく松葉杖歩行が筋トレ以外の何物でもないから、とても付き合っていける気がしない。「ちょっと近所の神社に初詣でも」なんて距離もとてもじゃないが、やり通せるほどの見積もりも、仮説も立たないし、体力もない。Problem-Solution-unfit。この状況課題に対するソリューションとして合っていない。松葉杖がソリューションになるのは、きっと下駄骨折患者のうちの13%、アーリーアダプターに該当する人たちだけなのだろう…(そう価値とは相対的に決まるものなのだ)。

 その後、年始の診察で思いがけず即手術・入院となった。あまり痛みがないので「ひょっとして今日から踵歩きくらいできるのかも?そうしたら1月中にある合宿にもいけるかも?」と健気にも描いていた青写真は、もちろん八つ裂き。もう腹をくくるしかない。今後は松葉杖と首っ引きになるしかない。

 ただ、先生の話を聞いている分には、ボルトを入れることでかえって早く歩行を取り戻せそうな気がしている。確かに、ボルトを入れない場合は、骨が転位しないようケンケン歩きのまま、不安とともに永遠とも思える時を過ごすことになる。手術は伴うが、一本筋を通しておいたほうが人生同様安定性が増すかもしれない。

 しかし、手術は手術。局部麻酔だってするし、麻酔が切れた後は足の八つ裂きのような痛みに向き合わなければならない。なんだかんだ言って、ひとの手術や入院には何度もつきあってきたが、自分自身が当事者となるそれらは初めてのこと。スクラムが経験主義に則っているように、経験が新たな知識を生み出すのだと自分に言い聞かせ、あるいは、手術入院の実地の貴重なリサーチなんだと自分を言いくるめて、臨んだ。

 極めて短い期間だったが、体験としては新鮮だった(もちろん、麻酔が切れた後の八つ裂きの痛みも味わえた)。

「そうか、病院内も役割(外来担当、手術担当の医者と看護師、入院担当の看護師、リハビリ、薬担当など)が明確にあって、クロスファンクショナルなチームなんだなー」

「役割を越えたところでの情報のやりとりが結構曖昧になるんだなー。むしろ情報のハブは受け取る側の患者になるんだな(例:「先生なんて言ってました?」)。でも、患者も情報量多くて受け止め切れないよね(例:シャワーは術後いつから使って良いの?)」

「現場でのコミュニケーションがマイクロな単位で必要だから口頭やメモに頼らざるを得ず、スマホに何か打ち込んでとかやっている場合ではないよな」

 など、当事者そのものとしてのエスノグラフィー業に務めた(そうでもしないと気が紛れない)。やはり、読んだり見たり聞いているだけでは得られないものが、当事者経験と渦中の観察にはありますね。経験主義バンザイ。これからの仕事にいかしていきます(ただし、退院後も引き続き二足歩行は困難なため、文字通り「這い回る」しかない)。

 私などはほんのわずかな滞在期間でしかないので察することもできないが、この院内の日々を回し続けるにはさぞかしチームワークを必要とするのだろう。必要というか、前提に置けないと、何も始まらないのだろうなと思う(病院の皆さんには本当に感謝します)。

 ということで、しばらくケンケン歩きとの付き合いが続くことなり、いまだ2023年が終わった気がしていない。とかく、日々の時間はソファーにただ転がっていても、teamsに齧り付いていても過ぎていく。一日一日を自分の思うように生きていくことが何より大事なのだろうと思う次第だった。

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