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透明性、検査、適応を3ヶ月やり通した先に得られるもの (ただし骨折において)

 左足第5中足骨骨折から実に10週が経過した。

 ようやく、2本だった松葉杖が1本になり、装具(ギプスの代わりになるもの)を外し、よちよち歩きを始められたところだ。2ヶ月以上固定していた足を生脚で地面につけるのは勇気が要る。自分の足でありながら自分のものではないような感触。ちょっと踏み損ねただけで、いろんなところに影響がでそうな繊細な足になっていた。

 この骨折からあらためて思ったことがある。人間のからだはブラックボックスで、外部からはフィードバックを頼りにするシステムになっていることだ。どういうことか?

 まず、肉に埋まった骨がどう折れているかというのは当然ながら、からだの外からは判別できない。レントゲンやCTを用いる。骨折の経過観察にはレントゲンのほうを用いる。
 この間、自分の左足のレントゲンを何度も見た。何度も見たが、白黒の画像を見せられたところでどれが骨折線で、それが回復しているのか、正直言ってよく分からない。うっすらと線が入っている、あるいは線が消えてきているということが医者に言われなければそうとは見えない。とはいえ、素人とプロの歴然の差があり、医者はレントゲンでも一応具合が分かるらしい。

 問題は、治癒のほうだ。骨折の回復期間中、本当に骨が癒合するのか(くっつくのか)は医者から断言はなかった。そういうものなのだという。7割はくっつく。3割はくっつかないままになる(ので別の手段がさらに必要になる。骨移植とか)。
 なお、この7割3割の数字は「ボルト手術」をした上で聞かされた見立てだ。ボルトは何のためにいれるか? もちろん固定するだめだ。ギプスではどうしても転位(ずれる)がおきる可能性がある。ボルトはなにしろ骨にそのまま打ち込むのだ。ずれるはずないだろう、と素人的には思う。ところが、そうまでしてまだ3割癒合しない可能性があると言っている(どういうことよ?)。
 「ボルトが身体に埋まっています」と武勇伝的に語る人たちを人生の上で幾人も見てきたと思うが、そのさらりとした報告とは裏腹に、ボルトを入れることは相当な所業だ。異物を身体に埋めることがどれだけQoLを下げることになるか。二度とやりたくない。

 実は手術後最初の外来でレントゲンを取ったところ、さっそく経過が良くない(また手術になるかも)という絶望的な宣告を受けていた。この宣告の直後に(本当に30分後くらいの距離感で)、RSGT2024でセッションをやらねばならない事情があり、その役割は務めたが、最初から私の声はからっきし乾ききっていたのだった。その時話した内容がこちら。

 自分のメンタルの限界がどのあたりになるか、よく分かった。

 やれることは何でもやるしかない。カルシウムを摂っていく、どのくらい摂っているかきちんと計測して把握する、というのは当然として、超音波治療も導入する。1日20分毎日、自分で超音波をあてる。3-4割、回復が早まるエビデンスがあるそうだ。絶対やるでしょ。
 あとは、足を決して地につかない。原則つかないではない、一切だ。自宅にいるというのに、私は海原で一人ぽつんと佇んでいるような気分になる。何をするにも片足で移動する。少し先にあるモノを取りたくても、海を渡っていかねばならない。それは危険を伴う。
 実際、ケンケン歩きを多用していると、ぎっくり腰を併発した。骨折とぎっくり腰は、最凶の悪魔合体だ。人類にはなすすべがない。これからも、われわれ人類は何本もの第5中足骨を折っていくことになるだろう。私からの唯一の警句は「ケンケン歩きはするな」だ。家の中でも松葉をつけ。

 という極めて繊細な日々の果てに、それでも癒合するかどうかは、確実ではない。特に私は、「再手術必要かも…」とあらかじめの未来を予知されているのだ。そんな日々がウキウキするようなもののはずがない。そうして、その結果はというと、だいたい癒合ができて、子鹿のように足を震わせながら歩き始めているという次第だ。

 レントゲンやCTで透明性は確保できるものの、肝腎の「何をしたら治るか」については身体任せになる。「何をしたらダメか」のやらないことリストはまあまあある一方で、できることは少ない。治るのを待つ。ひたすら、検査(まさにレントゲン検査)を繰り返すしかない。検査しても、透明性は確保されるが適応は身体に委ねるしかない。左足頑張れ、しかない。医者も、私も。何のことはない、不確実性とは自分の間近に存在しているのだ。

 透明性、検査、適応(実際には身体任せ)を3ヶ月繰り返すことで、どうにか第5中足骨基底部という小さな骨が癒合する可能性がある。いわんや、見ず知らずの他者の課題やニーズを扱うプロダクトをや。と、締めるのはさすがに引き寄せ過ぎかな。

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