Guinessビールをグラスに注ぐと泡が下降して滝のようにみえる理由

ビールをグラスに注ぐと、液面に泡ができますね。
Guinessビールでは、グラスに注いだとき、泡がグラスの下方向に移動することで滝のようになる現象がみられます。

動画 Supplementaly Video S1

不思議な動きですね。この現象を理解したら、Guinessビールを注ぐのがもっと楽しくなりそうです。
Guinessビール特有の泡の滝がみられる理由を調べた論文を紹介します。
Bubble cascade in Guinness beer is caused by gravity current instability | Scientific Reports (nature.com)

この記事では、論文の図表を取り上げて、順番に読み解いていきます。
図表は、一部抜粋しています。
図表の横の文章は、私の解釈を踏まえた説明です。
論文の内容を理解する助けになればと思います。

figre 1

調査方法は、ギネスビールとギネスビールを模した液体(泡と同じ大きさのガラス粒子入り)を用いて、figre 1 a,b,cの形状の容器に注いで、その様子を観察します。どのような条件で泡の滝がみられるのか調べています。

figre 2

泡の運動を観察するのに用いられた手法は、photo-bleaching molecular tagging method(フォトブリーチング分子タグ法)です(fig2)。
蛍光分子に強い光を当てると退色して暗い色になる性質を利用して、あるタイミングで強いレーザー光を当てた後、時間の経過に伴う暗い色の粒子の移動を記録することで、粒子の動きを観察できます(fig2 a)。
レーザー光照射と写真撮影を一定のタイミングで行うことで、暗い色にした粒子の移動を、液体の中での波として観察できます(fig2 b)。
泡の速度を測定するのに用いられた手法は、蛍光分子を利用したPIV法です(fig2 c)。

figure 3

ここから実験結果です。
ビールを飲むときに使うパイントグラス (fig1a)にギネスビールを注いだ時の泡の様子です。 (fig3)
Fig3 bはaで示された白い破線部の写真を撮って、時系列で並べたものです。Fig3bのt=-10~0では、ビールが注がれて液面が上昇していき、t=0~60では、グラス内の灰色の部分が、底から液面付近へと移動していき、t=60で液体と泡の様子が落ち着いています。泡は全体として底から液面方向へ移動するようです。
しかし、t=10~20を拡大すると、グラスの液面から底へ向けて灰色の部分が移動しているのが筋としてみられ、bとは逆方向の運動をしています(fig3c)。

figure 4

泡の滝が起こるグラスの条件と泡の運動の様子を、直方体の容器にギネスを模した液体を注いで調べています。(fig4)
fig4aで、容器の角度が5~20度のときに泡の滝がみられます。
ビールを注ぐときのグラスの壁の傾きによって、泡の滝が発生するかどうかが変わるようですね。
fig4bの動画です。

動画 Supplemantary Video S2


bでは、台形の容器を用いて、泡の移動をカメラで撮影して各粒子の速度ベクトル(グラス縦方向Vx、グラス横方向Vz)と明るさ(B)を計測しています。
bの計測結果が、cのグラフです。
fig4cで、粒子のBが大きいときは周囲に粒子が密集した状態、小さいときは周囲に粒子が少なく液体が多い状態です。
Vxが負の値の時、粒子は底方向に移動します。
BのグラフとVxのグラフが強く相関していることから、泡の少ない溶液部分は下降の速度が速く、泡の多い溶液部分は下降の速度が遅いことがわかります。
泡が密集した液体部分のなかを、泡の少ない液体部分が降下していくと、降下する部分が波として観察できるというのはあり得そうに思えます。

figure 5

泡の滝が観察できる溶液の条件を、台形の容器を使用して調べています(fig5)。
すべての濃度で泡の滝がみられます。
ギネスを注いだ時の様子の動画です。

動画 Supplemantary Video S3


bは、容器を横から見た図で、cはグラス壁面から離れた場所(y=0.1, 0.5, 1.0mm)における泡の動きです。
fig5cで、グラス壁面からy=0.5mm離れると泡の下降が盛んにみられます。
グラス壁面近くを、fig2のフォトブリーチング分子タグ法を用いて観察したものです。
fig5dは、灰色の筋の、Vの字の先端になっている部分は速く下降している溶液部分です。
グラス壁面のすぐ近くよりも、少しだけ離れた場所で落下が盛んになっていることが分かります。

figure 6

グラス壁面近くの泡の速度をfig2cのPIVの手法で調べています(fig6)。
aは、グラス壁面から3mm(y=0~3)、グラスの高さx=100付近の写真です。
bはaの範囲の速度ベクトルです。青が下向き、赤が上向きの速度です。
グラス壁面近くでは下降、壁面から離れたところでは上昇していることがわかります。
上段のギネスビールと下段のギネスを模した溶液は、同じ傾向になっています。
cは、X=100、y=0~3における速度ベクトルを、縦軸を時間(t=10~60)として示したものです。
フォトブリーチング分子タグ法で得たfig5の結果と一致しています。
ビールを注ぎたてのときはグラス壁面近くの下降速度が大きく、時間がたてば上昇する泡の溶液部分が少なくなるのに伴い下降速度が遅くなっています。

figure 7

グラス壁面近くの泡のない溶液部分と少し泡を含む溶液部分の速度の揺らぎを調べています(fig7)。
速度の揺らぎがある状態がwavy(a右)のモデル図です。
グラス壁面から1mm(y=1)の距離で下降速度が大きくなっており、揺らぎも大きいことがわかります(fig7b)。
fig7cでは、Re Frの条件と一致したタイミングで速度の揺らぎが変わっていることから、泡の滝が起こるのに重要な条件はRe, Frに寄与する条件であることが示唆されました。

Guinessビールをグラスに注ぐと泡が下降して滝のようにみえる理由は、グラスの形や注ぐときのグラスの角度、溶液の泡の多い部分と少ない部分が存在している条件がそろったとき、泡が多い部分と少ない部分に速度の差が生まれて、泡が少ない部分が下降するときに速度の揺らぎが生まれ、その揺らぎが泡の滝として観察されるからです。

元の論文も無料で読めますので、ぜひ読んでみてください。



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