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しがつじゅうよっか ⑵

えーと、物語の続きを書いてみました。
もしよかったら、のぞいてみてください。

「4月14日」

 私は木が好きだ。
できれば1日中、木のそばで過ごしたい。
でも人々が集う公園の木の下に1日中居たら
変な人がいると怖がられるかもしれないので、
がまんしてきた。

この春に34歳になった。
やりたいことに、少しでも手が届きそうな生き方をしたいと思った。
せめて窓のすぐそばに木々がある部屋に引っ越そうか。
アパートの大家さんのさわ子さんに相談してみた。  
さわ子さんは、
ご主人が生前アトリエに使っていた小さな家が
屋敷の裏庭の森の中にあること、
そこには電気とガスが通ってないこと、
時々お孫さんのトキちゃんが寝泊まりしていること、
今のアパートはそのまま住んで、週に何日か
お泊まりに来てみてはどうか
と提案してくれた。

話を聞いているだけでドキドキして手に汗をかいていた。
お泊まりに来たい。はい。お泊りでじゅうぶんすぎるくらいです。

一週間のうち4日は人間界のアパートで、3日は森の家で
過ごすことになった。

トキちゃんに森の家を案内してもらい薪ストーブの火のくべ方を教わった。

「大丈夫?一人で出来そう?」
「あ はい。出来そうかな。あの できると思います。」
「あ そう。家の中散らかさないでね。」

びっくりした。私の部屋は とっ散らかっている。

「ね 水泳できる?」
「え? えーと、浮かんでばしゃばしゃ進むことは出来ます。なんですけど、息つぎが
できないから、水泳はできません。」

「そう。なんだかね、できないこといっぱいありそうだなって。
そこに執着して縮こまってるように見えたから。
だから疲れちゃって、こんな森の中に来たんでしょ。」
「ああ。そうかも。だいたいそんな感じです。」
「できないこと いっぱいある人 嫌いじゃないよ。
私もそうだし。
ま ここで英気を養ってよ。なんか困ったことがあったらメールして。
急ぎの時は電話ね。勝手に一人で頑張らないこと。」

トキちゃんは ツンとした感じだけど、優しい。
男の人が持っている威圧感が全然なくて、ほっとする。

4月14日 朝。
薪ストーブに火をくべる。
トーストと目玉焼き、プチトマト、インスタントのスープで
朝ご飯を済ませて、ハーブティーをいれて
窓の外の木々を眺める。

いろんな鳥の鳴き声
リスの鳴き声
木の葉が風にそよぐ音
ここに居ることがうれしい。
涙がぽろぽろこぼれてくる。

ストーブの薪も いい感じに燃えて部屋が温まる。
薪が燃える音、におい、秋の寒い日に
はじめてストーブをつけたときみたい。

冬がはじまりそうな 春の朝。