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【アラサーとアラカン】親子3人すったもんだの岡山旅行

7月某日、父母と旅行へ行くことになった。次男(私の弟)夫婦に会いに、岡山へ行こうと誘われたのである。
私は社会人になって10年強、一人暮らしを続けている。実家へは盆と正月くらいしか帰らない。
帰省したとて、「恋人、まだ」「結婚、まだ」「飯、食ってる」の報告義務を済ませたらとんぼ帰りするのみである。
ところが今回は、1泊2日の家族旅行。
私、両親となにをしゃべってたっけ・・・?
期待と一抹の不安を胸に抱きつつ、私はJR西明石駅へ降り立った。

さて、新幹線に乗る前に2人と落ち合おう。

父母と会ったらなにから話そうか?やはり弟夫婦の話かな?
いや、まずは「おはよう」とか「久しぶり」だよな、うんうん。

などと考えながら待ち合わせ場所であるカフェを探してキョロキョロしていたら、10m程向こうから声がする。母が改札の前まで迎えに来ていた。
私、笑顔で駆け寄る。おはよ
「なんか痩せた?!」
「えっ」

「スッキリしたやん!肌がキレイなったんちゃう?私肌荒れがひどくて昨日から口内炎もできてさあ、なんでやと思う?あ、お父さん待ってるで。ほんまに痩せたな!ちゃんと食べてるん?!」

母、止まらない。
正月に帰省した時の母とは別人のようである。親戚の手前、遠慮していたのだろうか。
ハッと気づいた時にはカフェの前だった。
「あとちょっとしたら改札行かな。なんか飲む?」と言われ
「じゃあ、別にいらない」と答えたら「なんも頼まんとおってええんか分からへん!」と言い出すので、茫然自失のままアップルジュースを飲み干す。

新幹線のホームへ。自由席の車両を探す。
父「去年は、あの辺から乗った気がするな」
母「え!新幹線のホーム、柵がないやん!いまJR明石駅にもあるのに!」
私、口では母に「そうやなあ」と言いながら頭では父と同じく乗車場所について記憶を辿る。
三列席をなんとか獲得し、腰を下ろした。

これから2日間、この混戦状態の会話を聞き続けるのだろうか・・・?
窓の向こうへため息をついたが、明石の空は何も答えてくれなかった。

さて、弟に会う前に、まずは3人が宿泊するホテルへチェックイン。
ホテルの食堂で夕食を食べる。
刺身に炊き物、天ぷら、鍋…続々とご馳走が運ばれてきた。
極めつけはお酒が飲み放題。父のテンションはMAXだ。

ワイン、ウィスキー、焼酎、岡山フルーツのチューハイ
ぜーんぶ飲み放題

とはいえ、60も半ばを過ぎた父の胃袋は、本人が思う以上に容量が小さかったらしい。開始30分ではやくも箸が止まった。

「勿体ない!煮ダコだけでも食べたら?残したら料理長さんがなんて思うか」

なぜかタコを推す母。前日から口内炎が酷い彼女は、タコの柔らかさにいたく感動したらしい。

「いや、俺別にタコがどれだけ柔らかかろうが、興味無いし
酔っ払ってきた父が半笑いで意見する。

母はどうやら、隣席で料理を絶賛している会話が気になるようなのだ。
「作ってもらったご飯ってありがたいわあ」
「残したら勿体ないわ」
しきりに言い合っている、とても感じの良い年輩のご婦人達である。

そんな微笑ましいやり取りの隣で、我が夫がビールで顔を赤くしながら
「ここの店は、はよ食うてはよ帰ってくださいみたいな雰囲気やな」
などと大声で話すものだから、妻としては気まずいことこのうえない。

諸々の気持ちを「タコを食べろ」に集約して熱弁する母。
「かぼちゃも柔らかく炊いてあるよ。食べないと料理長が」なおも食い下がる。
実は私もかぼちゃを残したのだが、何とか言及は免れた。


「花籠御膳」
父が断り続けた「タコ」は中央奥の小鉢の中。

食後、母と共同浴場へ。
お風呂ももちろん素晴らしかったが、私たちの狙いは浴場手前のマッサージチェアである。
マッサージチェアは感動的な気持ちよさだった。全身マッサージできて15分200円とは、格安だ。
母が半分寝ながら「もう1回する」と言い、私は先に部屋へ戻る。

入室すると父はもう布団の中。8時だぞ。病室かここは。
「お母さん、マッサージチェア2回目やってくるって」と報告すると「あの人はほんまにマッサージが好きやなあ」と笑う。

「お母さんと結婚する前、初デートで遊園地に行った時、「足揉んで」って言われたわ。初デートやで。普通、そんなん頼まへんやろ。
変わってないなあ。あの時に足揉んで、俺の運命は決まったな。

母が変わってないのは確かだが、運命云々がよくわからん。
詳しく聞こうとしたら寝落ちされた。

父と母は7歳年が離れている。
結婚して35年、父は今でも母のことを「ちょっと世間ずれした年下の女の子」と思っているふしがある。

しばらくすると母も戻ってきた。
帰りの新幹線で席に座れるかどうかを、しきりに気にしている。
私が前日に指定席がいいと駄々をこねたせいである。
母の中では、父のことも私のことも弟のことも、みんな「自分のこと」なのだ。
彼女の気が多いのは、母が今でも母である証拠なのだな。

「ウチって、そういえばこんな感じだったな」
父を起こさないよう、そっと部屋の電気を消しながら私はひとりごちた。

父の抑揚豊かな高いびきと母のスマホのリズミカルな通知音に苛まれながら、岡山の夜は更けてゆくのであった。

後半へ続く。

うらら、うらら~♪


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