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水はどこから?

「雪線(せっせん)」とは?
 
桜前線とは逆に、深まる秋とともに南下する初雪のライン?
 
ありそうだけどそうではなく、これは天文用語。
 
太陽のような恒星の周囲では、恒星からの距離が遠くなるほど温度と圧力が低下し、ある程度低下すると水が気体でなく固体として存在するようになります。
 
その境界が雪線。
 
我らが太陽系ではこの雪線は、太陽からの距離約2.7天文単位に存在(1天文単位は太陽から地球の平均距離)。


岩石主体の地球型、ガス主体の木星型

これはメインベルトとも呼ばれる小惑星帯に位置します。
 
火星と木星の間ね。
 
太古の昔、星間分子雲から太陽系が形成される時、雪線の内側では水は気体(水蒸気)として存在するため集まることなく散逸し、そのため岩を主体とした地球型惑星が形成されました。

それに対し雪線の外側では、氷として存在する水はチリよりも豊富に存在し、それが多くの固体物質を凝集させ大きな天体の形成を促進するため、惑星は木星型へと。
 
他の恒星系の雪線を直接観測しようとしても、通常はそれが恒星に近すぎて解像度が足りないのだが、オリオン大星雲にある恒星ではその爆発とともに雪線を押し広げ、初めて観測することができた、とアメリカ国立電波天文台が2016年ネイチャーに発表(※)
 
この雪線は前述のように水が気体として存在する領域と氷として存在する領域を分けるものですが、その境界がくっきり輪っか状に撮影できましたよ、と(参照先をご覧ください)。
 
その押し広げられた雪線の、中心の恒星からの距離は約40天文単位、太陽系に当てはめるとほぼ冥王星の位置。
 
やはりメインベルトよりはだいぶ遠い。
 
ちなみにこれを観測したのは、南米チリの標高5000メートルの高地に設置されているアタカマ大型ミリ波/サブミリ波アレイ(通称アルマ望遠鏡)。
 
66個のパラボラアンテナで構成されるこの天文台には、日本の技術が多く使用されています。

水起源の二説

ところで地球表面は、よく知られるようにその7割強を海が占める。
 
この水はどこからやって来たのか、は実ははっきり分かっておらず昔からの難題。
 
これに対しては、大きく分けて二つの説があります。
 
第一の説は、太陽系形成段階で地球が形作られるときに、原始太陽系星雲からダスト、微惑星を経て地球が形成される過程で周囲の水を取り込んだ、という説。
 
なんとなーく、すぐ思いつく答え、と言えなくもない。
 
でもこれ、現在では否定的な意見が多い。
 
なぜって、前述のとおり地球のある位置は雪線の内側。
 
もともと水が少ない領域なのです。
 
水の起源に対するもう一つの説は、地球が形成され今の大きさ位になった後、彗星や小惑星などとの衝突で供給されたとする説。
 
細かく見ると彗星説と小惑星説があるのだけど、彗星説については現在では否定的。
 
水の中の水素原子の同位体の比(D/H比、詳細は割愛)の測定から、この測定値が色んな彗星に含まれる水と地球の水とでは違いが大きすぎるので。

はやぶさプロジェクトが暴く小惑星の組成

残る可能性は小惑星なのだが、これについてはみなさんご存じ「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから持ち帰った砂や石の解析が大いに役に立ちました(※2)
 
そこには明らかな水の痕跡が存在し、小惑星との衝突が地球に水をもたらした可能性がクローズアップされることに。
 
今では小惑星帯にある彗星も発見され小惑星と彗星の境界もあいまいになりつつあり、小惑星か彗星かという議論自体が今後どうなるのかとも。

太陽系の歴史をたどると別の可能性が

これで一応小惑星ということで論争にケリがついたかのようにも思えるのだが、事はそう単純ではない。
 
こんな小惑星がボンボンぶつかって地球ができたら、水はもっと多いはずだ、と。
 
北海道大学の香内晃教授らの研究グループは、水が太陽系形成時の星間分子由来とする説を提示、これはどちらかというと第一の説
 
「さっき否定されたと言ったじゃねえか」と言われそうですが、このグループの説には裏ワザが。
 
太陽系形成時、雪線内側の地球近傍は、確かに太陽に近すぎて水そのものはほとんどなかったのだが、有機物を見落としていた!
 
原始太陽系星雲にそれはなんと全量の1/3と、膨大に含まれていたのです。
 
これはもともと少なかったとしても、星間分子中の水や一酸化炭素、アンモニアに対する太陽からの紫外線照射により、どんどん生成されるんですね。
 
微惑星・小惑星が衝突して地球が形成される時の高温で、これらの有機物からの化学変化で水が形成されることが、実験的に分かったのでした(※3)
 
そしてまた、同時に石油が生成されることも判明。
 
現代生活に欠かせないあの「化石燃料」、実は化石だけじゃなかったのかも。
 
ひょっとしたら近傍の地球型惑星や小惑星・衛星の地下には石油があるのかも知れません。
 
だからと言って温暖化が叫ばれるこのご時世、今さらそれを持って来て使うかどうかは考えどころだけどね。
 
 
(※)”Imaging the water snow-line during a protostellar outburst”, Lucas A. Cieza et al., Nature 535, 258 – 261 (2016).
DOI : https://doi.org/10.1038/nature18612
解説記事:https://public.nrao.edu/news/2016-alma-water-snowline/(英語)
 
(※2)”The surface composition of asteroid 162173 Ryugu from Hayabusa2 near-infrared spectroscopy”, K. KITAZAWA et al., SCIENCE, 19Mar2019, Vol. 364, Issue 6437, pp. 272 – 275.
DOI: 10.1126/science.aav7432
 
(※3)「星間有機物が地球の水の起源に」
https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/20200512_pr4.pdf
 
 

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