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月に天文台を

月面探査と言えば、昭和世代が真っ先に思い浮かべるのは米アポロ計画でしょうか。

当時の世界は冷戦まっただ中。

宇宙開発は当然軍事技術にもリンクするので、アメリカと旧ソ連は互いに機先を制しようとつばぜり合いを繰り広げました。

アポロ計画に先立ち、旧ソ連はルナ計画をぶち上げ月探査を実施。

アポロ11号月面到達の10年前となる1959年から、

ルナ1号は地球重力圏を脱し、
2号は月面衝突、
3号は月の裏側の撮影に成功、
9号は軟着陸に成功、
10号は月周回軌道に投入成功、

などの成果を上げました。
 
満を持して(かどうか知らないけど)アポロ側は1969年7月、11号の乗組員、アームストロング船長とオルドリンの人類初となる月面歩行に成功。
 
時代はずっと下って2023年8月、インドが探査機「チャンドラヤーン3号」の月着陸に成功し、これで中国と合わせ4か国が月面着陸成功となった訳です。


日本参戦

さて、我が日本はどうか?
 
ご存じのように2023年4月、ベンチャー企業が月着陸に挑みましたが失敗。
 
これは着陸船の月面からの高度認識にエラーがあったことが原因でした。
 
一方、本丸のJAXA(宇宙航空研究開発機構)は2023年9月、種子島宇宙センターから月探査機”SLIM”を打ち上げ。
 
主な任務の一つは「ピンポイント着陸」。
 
従来の月面着陸では目標地点から数キロメートル離れるのは普通だったところ、100メートル以内を目指す、と。
 
そのために画像認識の技術を駆使し、リアルタイムで月面のクレーターや凸凹の情報を取得し、それを元に方向や速度調整を行いつつ月面へ降下する技術を開発し採用。
 
当然軟着陸は平坦なところほど容易なのですが、傾斜があっても着陸できる二段階方式を開発し、必ずしも平坦でなくても着陸できるように計画したところがミソ。
 
要はスキーのジャンプ選手のようにきれいにテレマークを決めに行くのではなく、パラシュート部隊の兵士のよう最初からにゴロンと転がるのをデフォルトとする、と。
 
狙ったところに降りるピンポイント着陸技術、もし確立すれば今後の月面開発に向けての重要な技術となります。
 
2024年1月25日現在のデータ解析から、SLIMはどうやら目標から55メートルの地点に着陸したらしいことが判明。
 
「ピンポイント着陸に関しては100点満点」(プロジェクトマネージャ・坂井真一郎)。

自己採点ちょっと微妙

実際には高度50メートルのところまで誤差3~4メートル程度だったのが、何らかのアクシデントでエンジン2基のうち1基が脱落。
 
推力半減の中、横方向にドリフトしつつ適正な降下速度を保ち、制御された軟着陸には成功した、ということです。
 
そう考えると惜しかったのだけど、画像認識に基づく障害物回避は順調に機能していたので、上記のように自己評価は100点。
 
ただ、二段階着陸方式が成功したかどうかは分からない、想定外の姿勢で着陸し太陽光パネルが発電できない、などの難点もあり、トータルでは63点(細かい!)のギリギリ合格、と。
 
まあしかしこれで、人類の月面開発にさらに弾みがつくのは間違いないでしょう。

月面開発の夢:天文台構想

月面開発の目的の一つが月面天文台の建設。
 
望遠鏡や地球周回衛星、惑星探査機など多様な手段を用いてきた宇宙観測・探査にあって、今注目されているのが月面からの宇宙観測。
 
まず、月面であるということで人工衛星に比べ大規模な施設を建造でき安定運用が期待されます。
 
月は地球と異なり空気がないのでそれだけでも観測に有利ですが、実はもっと大きなアドバンテージが。
 
遠方宇宙から飛んでくる「宇宙背景放射」
 
これは、宇宙が生まれてから約40万年後、ビッグバン以後の温度低下で宇宙の温度が3000度くらいまで冷えた頃、「電子と光子の脱結合」を経て光が宇宙を自由に飛べるようになった、いわゆる「宇宙の晴れ上がり」の頃の光が地球に届いたもの。
 
光と言っても波長は約2㎜、電波の一種・マイクロ波ですね。
 
これはこれでビッグバンをはじめとする宇宙論モデル構築へ向けて大きく貢献しました。
 
月面天文台では、これよりもっと長波長の領域を射程範囲とします。
 
宇宙の誕生から1億年後、最初の星がこの宇宙で輝き始めたと言われます。
 
これが「宇宙の夜明け」(ネーミングセンスいいよね)。
 
宇宙の晴れ上がりから宇宙の夜明けまで(宇宙誕生から40万年後~1億年後)の期間は、宇宙は水素とわずかなヘリウムガスが漂うだけで、星もなく真っ暗闇の空間が広がっていたと考えられます。
 
この暗黒時代の観測をしようというのがこの月天文台の目的の一つ。
 
そのために、水素原子から発せられる波長21㎝の電波(21㎝線という)を使います。
 
波長21㎝というのは地上にある水素の場合。
 
宇宙のかなたにある水素の場合、宇宙が膨張している影響で波長は引き延ばされます(「赤方偏移」)。
 
暗黒時代に発せられた21㎝線の波長は、余りの遠方ゆえ6m越え。
 
そして10mを越える長波長成分は、電離層の影響で地上からは観測できません。
 
対して月の電離層、無いわけではないが十分薄い。
 
ならばこの好条件の月面から21㎝線を観測してやろう、と。
 
2次元の宇宙背景放射と異なり21㎝線は情報が3次元的。
 
より小スケールのゆらぎの情報からより多くの宇宙論情報を得ることができます。
 
宇宙初期のインフレーションに関する情報、さらには未だに謎の暗黒物質についても新たな知見が得られると期待されています。
 
月面天文台なんて、手塚治虫の漫画に出てきそうなものが、いよいよ具体的に構想の段階に入りつつある。

ワクワクがとまらん(生きているうちはムリか)。

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