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赤耳デニム

ジーパンの耳が大好きである。
パンの耳はそうでもないのに。

デニム生地の「耳」と言ってすぐにわかってくれるのは、ファッション&テキスタイル業界人か、デニムオタクの人くらいか。

日本にはデニムにこだわりのある人も多い(いまや上質デニムのトップ生産国だし)けれど、フランスではデニムの耳の存在すら知らないのが多数派と感じる。ジーンズなんてどれも同じ、と考えている人の方がこの世では一般的なのであろう。私にもそういう時期があった。

ファストファッションメーカーの作る安価なストレッチデニムパンツは、半年も履けば擦り切れて、みごとに型くずれする。

伸縮性を優先させるとどうしても生地が薄くなるので、そこそこ値の張るブランド品も例外ではない(というか、デニムのパンツがドライクリーニング指定ってなんやねんといつも思う)。

上に着るのがカットソーでもシャツでもニットでも、下にデニムを合わせるなら、私はデニムの裾を必ず折り上げる。スニーカーとパンツの裾の間に、くるぶしがのぞくようにする。

なぜかと訊かれると答えに困る、毎度ためして実際に見て、折った方がアカ抜けると判断している。

ボトムスと靴が唐突に直線でぶつかり合うよりも、くるぶしでひと呼吸おいて、双方が自然に寄り添う感じが好きなのだ、たぶん。靴下の色でも遊べるし。

さて、パンツの裾を折り上げるなら必ず見えてしまう、縫いしろ部分。どうせ見えるならば美しい方がいい、昔ながらの織機で織られたデニム生地の耳なら最高だ。

ヴィンテージ服屋のデニム売り場では常に自分のサイズがないかチェックするけれど、私の好きな1970年代後半の品物は、近年どんどん品薄になっている。そりゃそうだ、古い物は今からは作れないもんね。

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ならば、赤耳デニムを作っている現代のメーカー... A.P.C.にならあるだろうと、久しぶりに店舗で試着したのが2年前。ストレートでやや股上浅めのワンウォッシュを買い求めた。ほぼ真っ黒な濃紺で、皮膚が切れそうなくらいバリバリに硬い。おお、懐かしいなこの感じ!ツウぶってしばらくデニムを洗わずに美しい縦の色落ちを「育てて」いた時期が、私にもあった(もうしません)。

どうせ見えるなら美しい方が、と書いたが、見るのは自分だけである。メトロのホームのベンチに座ってふと自分の足元が見えたときなど、赤耳があるとうれしい、ただそれだけのために赤耳デニムを好んで履いている。


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