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オーストリアの寅さんMarkusとのウィーン旅

10ユーロ札をポンとテーブルに置いて彼女はバーを出て行った。

私とMarkusはただ呆然と口を開け彼女がバーから出ていくのを見守ることしかできなかった。
残された我々は、女性がいかに難しい生き物であるかを語り合った。




私とMarkusは今はこうして友達であるが、かつてはベンダーとプロバイダーのビジネスの関係であった。歳も一回り以上離れている。
Markusは元々我々のベンダーでアジア圏のセールスの担当をしていたのだが、突然のクビ(「今日でお前はクビだ」と言われたらしい。欧州恐ろしや)により今はウィーンで職探し中である。


今回のオーストリア出張中の土日を利用し、約6か月ぶりにMarkusに会うことが叶った訳だ。

ちなみにMarkusを一言で言い表すと、オーストリア版の寅さんだと思っている。
テキ屋ではなく、しっかりビジネスをしている寅さん。表面はハイスペな営業マンだが、彼の根本には寅さんが鎮座している。

そんなMarkusは私のウィーン訪問を喜んでくれ、進んで私を引き回し首都ウィーンの観光名所を案内してくれた。


観光名所を巡る途中、お勧めのストリートフードを奢ってくれた。
「これはウィーンの名物のストリートフードだ!うまいぞ!」
(後で調べたら、ハンガリーの名物だった。)

この「名物」の名前は忘れてしまった。
塩が効いたパリパリの揚げたパン生地とチーズがマッチングし美味であった。



更には、スーパーでウィーンでしか買えないビールを大量に買ってくれた。
「これはウィーンでしか買えないビールだ、日本へのお土産にしてくれ。」(その大量の瓶ビールを鞄に背負いウィーン滞在中は過ごすこととなる。肩がパンパンになった。)


夜もおしゃれなレストランに連れて行ってもらい、2軒目まで奢ってくれた。


なんて優しい奴なんだ、Markus。なんでクビになったんだ、Markus。



彼女と会ったのは、ウィーン滞在最終日に、Markusとドナウ川クルーズに参加したのがきっかけである。

彼女は船外で水面をそよぐ風を浴びていた。

ちょうど私とMarkusもその場に居合わせており、Markusの「おい、あの子可愛ね、お前ちょっと声かけて来いよ」と訴えかけてくる目くばせにより、私が声をかけにいった。
Markusは無類の女好きである。そんなMarkusが好きだ。

彼女はウィーンに住む友を訪ねて観光中のブルガリア人だった。
幸い気さくな人柄で、すぐに打ち解けることが出来た。
3人でビールを飲み、ドナウ川に沈みゆく夕日を見て談笑した。


ちなみに3人で飲んだビールは、Markusが私に買ってくれたビールである。Markus「そういえば、俺たちビール持ってるんだけど飲む?」
まさかとは思ったが、彼が指していたビールは、当然僕の鞄に入っているビールだった。
彼は昨日私に言ったセリフを覚えているのだろうか。
Markusはおちゃめである。そんなMarkusが好きだ。


船から降りた後も数軒バーをはしごした。
いったい何杯ビールを飲んだだろう。覚えていない。

しっかりベロベロになった私は、ピザを美味しそうに頬張る彼女に対し、
「君は良く食べるね、見ていて清々しい」と失言し、
「レディーに対して失礼だ」のセリフと10ユーロを残して彼女は席を立ったのだった。

その後、Markusと反省会をしたのがいい思い出である。
Markusからは「お前は何も悪くない。」と励ましの言葉をかけてもらった。
どう考えても私が悪いのに、そんな優しい言葉をかけてくれる。そんなMarkusが好きだ。

安心してほしい、彼女とはしっかりInstagramで繋がっている。
後日、彼女に謝罪のメッセージを送ると「Poor on you」とは返ってきたが、素直になれない彼女なりの友好の印であると一方的に解釈した。




Markusとはビジネスの関係だけに終わらず、こうして全人格的に友達として付き合うことができとても幸せであると思う。
素敵なウィーンの旅であった。


皆が何かしらの肩書を持ちたがっている時代だと思っている。

相手を判断するときも、相手の持つ肩書でその人自身を判断している。
なのでその人が肩書を失ったとたん、嘘のように人は去っていく。


悲しいかな。でも、そのような肩書で人を判断し、損得の算盤をはじいて人付き合いを行う行為が今日ではスマートだと認識されているのだろう。

会社を見てみると、人の交流はあるが、全人格的な交流を行ってはいないと思う。先輩A、後輩Bの役職の仮面をかぶった会社員ごっこに徹しすぎてはいないだろうか。

人付き合いでもビジネスでも、最終的には、会社や役職などの肩書を超えた、全人格的な人付き合いが重要であると思っている。
それが真に豊かな人間関係を構築でき、その豊かな人間関係こそが合理性やコスパやタイパを超えた豊かな人生へと導いてくれるのではないかと思う。




ではまた会社であおう。














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