ON THE WAY TO PARK #013 『黙々と、ちょっといい飯を食べたい日、分厚いトンカツがいい』 (丸五)
「今日は、トンカツを食べよう」
そう思う日は、どんな日か。安価なチェーン店やスーパーの惣菜で買うトンカツしか知らなかったら、あまり思わないかもしれない。
実はトンカツ屋は、ランチにしては比較的値が張る店が多い。とんでもなく高いこともあまりないけれど、2000円くらいが相場になる。そういう「ちょっといい」トンカツ屋に行くと価値観が変わる。
秋葉原電気街の裏道、ジャンク品を売る店(最近はコンカフェやメイド喫茶)が集まる通りの一角にやけに風格のある店構えのトンカツ屋がある。その名も『丸五』。
飾り気のない暖簾の前には、連日長蛇の列ができていて、腹を空かせた近隣のサラリーマンがカウンター席を埋め尽くす。メニューはトンカツのみ。値段はやはり定食で2000円くらい。
初めて訪れたのは、大学3年生のときだった。地元のおじさんが話に出していて、足を運んだ。この手のトンカツ屋にあまり行ったことがなかった私は、最初から面食らった。明らかに知っているトンカツと形状が異なる。まるで厚切りステーキのように、面積はさほど大きくない代わりに重量感たっぷりな分厚いロース肉が皿に鎮座する。
豚の旨味とジューシーさ、日の通し加減、揚げ物というより肉料理。食べたことがないくらい柔らかいのに、弾力もある。
この日以来、「今日はトンカツを食べよう」と思う日ができた。それは例えば、大きめの仕事をやり遂げた日、新しいことを始めて目標を達成した日、新しい会社が決まったとき。個人的にはすごくうれしいけれど、誰かとわいわい祝酒を飲むほどのことでもない日にぴったりだ。
黙々と腹いっぱい、いつもよりちょっといい値段のランチを、いつもよりかなり待って食べる。トンカツってそういうものだと認識するようになった。
今のところそのつもりはないけれど、もし神田を出るとしたら、家の近くに旨いトンカツ屋がある街がいい。
イラスト:あんずひつじ
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