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グループエキシビジョン 『表現と概念』 色の研究レポート (後篇) 2021.03.03 - 03.14

東京・末広町のパークギャラリーで開催中の『表現と概念』。
なんだか小難しいタイトルをつけてしまったなと思いつつも、このタイトルとコンセプトのおかげで、みんながいつもよりもじっくり作品と向き合ってくれてる感じがしています。



「かわいい」とか「すてき」とか、作品やグッズが「売れる」ことももちろんいいんだけれど(買ってよね)、せっかく誰かの感性を刺激したり、うっかり誰かの人生を変えたりできる『場』なのだから、飾って売るだけのカタログみたいなギャラリーでは終われない。

なんとなく、もしくは大きな意思をもって、ここに通ったみんなが「人生よかった」と思えるような、そんな体験を、みんなで共有したい。大袈裟かもしれないけれど、ここまでやってきた以上は、そのつもりで続けますし、がんばりますよ。

というわけでレポート後編です。

レポート前編はこちら
https://note.com/park_diary/n/ndd725a9fd162


④ 色がないと物足りない

日本人は約1000万の色を見分ける機能を持っていると言われています。四季の移ろいによる自然の、繊細なまでの色彩の変化や、日本の芸術、工芸、民藝の緻密すぎるほどの文化が、長年、私たちの色彩感覚を遺伝子レベルで高めてきました(弥生時代にはすでに絹やヒノキといった発光色=パステルカラーを愛用してたというのだから驚きです)。

私たちはそもそも『色を感じる才能』があるのですから、「色がないとなんだか物足りない」と言うのも無理がないわけ。もちろん個人差はあって、同じ色でも人によって見え方が違う、なんてこともあるので、あいまいと言えばあいまいな世界です。僕は色音痴なところがあるので(服でも絵でも)、色をたくさん使って鮮やかに表現できるひとたちが羨ましいな。

今回展示に参加してくれた写真家の星野佑奈さんの写真を見ると、いつも「いろんな色を見てるな」と感心します。例えば同じところにいても目に飛び込んでくる色や情報が人よりきっと多いのでしょう。

彼女の場合、それは目や脳、カメラの機能、フィルムの性質というのもあると思うのですが、感受性が大きく働いてるように思います(近々星野さんとの街歩きイベントの報告レポートも書くので詳しくはそちらで)。


星野 佑奈さんのインスタグラム
https://www.instagram.com/g_b_lastplanet

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先入観なく物事を見てるのか、モチーフや構図に対して、色の配置が明らかにダイナミックで、どういう気持ちで景色を見ていたらこういう瞬間に出会えるのだろうかと不思議に思うばかり。しかもノールックで切り取ったダサいスナップともまた違う。彼女の中でしっかりと腑に落ちているもの、もしくは不思議に思ったものもぜんぶ、そのまままな板の上に「ドンッ」という感じ。普段、そんな色鮮やかな作品を撮る人に『モノクローム』というルールを与えたらどうだろう。と、返ってきた返事はやはり「色がないと物足りない」でした。

では作者が物足りないと感じている作品を展示しているのか、と言われるとそれは違くて、『展示する』という行為でモノクロームの作品に、見えない彩りをくわえることができる、というところまでが今回の作品になっています。星野さんから「どう並べてもいい」と預かった作品は、見に来てくれたひとたちが本能で、無意識に、なんとなく色が浮かんで見えてくるように配置してみました。

色のないところにも色を見る能力があるんです。見てる人はそのモチーフから答えを手繰り寄せるように色を見ようとしますから、その答えとなる色を連想させるヒントを導くように組みました。もちろん星野さんが「モノクロもいいね、えへへ」と言えるように。これは「編集」という作業の話なのですが、この話をしだすと長くなるのでまた今度。

星野さんの色のない写真を見ると、彼女がいかに身体的にダイナミックな構図を生み出しているかがわかります。光とカタチにしか頼ることができないモノクロ写真は素人でもおのずとダイナミックな構図になるのはわかるのですが、1つ突き抜けた感じが見て取れるかと思います。そしてわりと多くの人が口にするのが「色がないのに鮮やかに見える」。この感想が出てくる理由というのはもうすこし分析が必要かと思います。その話は最終日、14日17時からのトークイベントで話せたらと思いますので、気になる人はイベントのチェックをお願いします。


写真の配置と写真の関係は会場でしか楽しめないので、週末にぜひ。

ある日のディスカッション(覚書)
・色がないのに眩しいくらい色が見えてくるのが不思議
・モノクロの写真なのに賑やかに感じる
・モノクロの写真を見たはずなのに後で思い出すと色がついてる
・コピー用紙に刷った写真の質感がかっこいい


ある日のディスカッションは、お客さんの感想の箇条書きです。作品を見るときの参考にしてみてください。

総じて、普段の作品をチェックしてから見た方が何倍も楽しいという感想もあがってるので、ぜひ参加作家さんたちのインスタ等をチェックしてから、もしくはインスタ片手に楽しんでみてください。


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さて、同じ「色がないと物足りない」でも、イラストレーターの suzuki tamaki さんの場合は『差し色』ができない点に、物足りなさ、もどかしさを感じたそうです。

⑤ モノクロームならではの演出

とにかく手を動かしながらものをつくるのが好きだという suzuki さんは、普段は<色紙>やさまざまな質感の<素材>を切り貼りして1枚の作品を作り上げていくイラストレーター。絵の具で色を調合していく作家さんとは少し違って、既存の色や素材を組み合わせる(コーディネートする)ことによって世界を作り上げてくので、差し色を封じられるのはたしかにもどかしいだろうなと思いますが、久しぶりにモノクロに挑戦したとは思えない「お見事!」としか言いようのない作品が届いています。

もはや名人芸の域に達している切り貼りのセンスはもちろんですが、『白』と『黒』のモチーフを自分の好きな(得意な)世界に落とし込んでいく芯の強さ。袴やピアノなど、そもそも黒を基調としているものを描くことによって、モノクロームによる Less をなくすテクニックは見事だなと思います。暗闇に舞う『塩』の臨場感、古いジャズが聞こえてきそうなピアニストの表現は、モノクロームならではの演出だなと思います。すごい。

suzuki tamaki さんの作品からは同じ色でも、重ねたり、紙の質感を変えることで色の表情も変わるのだという発見ができます。例えば白の上に同じ白を乗せられるのは貼り絵の魅力でもありますね(絵の具だと混ざっちゃう)。黒い紙に一筋の切り込みを入れることで、その切り口に色の変化を持たせるというテクニックも、実際に手を動かしてものを作ってる suzuki さんならではの気づきなのだと思います。

色がないからこそ、さまざまな工夫やテクニックが見えてくるというのも今回の『表現と概念』の醍醐味。この貼り絵の気持ちよさは SNS では伝わりにくいので、週末にでも実物を生で見てください。

それにしても貼り絵っておもしろい。
https://www.instagram.com/suzuki__tamaki/

在廊中のメイキング
https://www.instagram.com/p/CMOmwd2jPmI/

ある日のディスカッション(覚書)
・グレーなのにちゃんと肌に見えるのが不思議
・モノクロのおかげで着物や袴が上品に感じられる
・手作り感があるのでモノクロの寂しい感じがない
・切り絵や貼り絵はカラフルという先入観があった



約1000万の色を見分ける日本人が古くから育んできた色彩感覚の1つに『捨て色』があります。捨て色は『色を見るために使う色』のこと。例えば茶室で花を見るための花器が落ち着いた色だったり、茶の深い緑を立たせるための器が宇宙や土のように黒かったり。着物の重ね着の白装束から神社仏閣の局部に至るあしらいまで、『侘び寂び』を感じながら『色』を『捨てる』ことを選んできた日本人。なんかいいですよね『捨て色』。

⑥ 色を見るために使う色

修学旅行ではじめて京都に行った時に、マクドナルドやセブンイレブンが茶色で驚いたんですが、枯山水や松の木、肌の白さを浮立たせる舞妓の紅など、いま思えば『捨て色』の体験だったのだなと思います。京都タワーも夜空を彩るための巨大な捨て色でしょうか。

そんな『色の遊び』が町中に散りばめられた京都の町から参加してくれたのは、イラストレーターのさわともかさん。シュールだけれどクスッと笑ってしまいそうな、泣きっ面もすぐに明るくなるような世界観が印象的な作家さんです。

個人的には空だけじゃあなく、床や服などいろんなところに使っている絶妙にくすんださわさんのブルーが好き。このベタっとした不思議なトーンはどうやって生まれるんだろうと思っていたのですが、元々版画を専攻していた、と聞いて納得。シルクスクリーンっぽい感じ。

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モノクロームから『ストップモーション』を連想したさわさん。実際に体験して衝撃を受けたという『スクランブル交差点』の、見知らぬ誰かと誰かがすれ違う瞬間を切り取ったという作品が届きました。SNS だと伝わりにくいかもしれないんですが、4枚の絵は、1つの世界(交差点)で繋がっていて、それに気づいた人から順番にジワジワと笑顔になっていく感じがとてもいい。

たくさんの種類のグレーを町道して描かれたさわともかワールド、そしてキャラクターたち。ユーモアのある世界はモノクロであることを忘れさせる力があるんだと思いました。ストップモーション感を出すために背景のビル群はあえて描かなかったという『捨て色』ならぬ『捨て背景』のおかげで、この異世界の物語を想像する『余白』をしっかりと感じることができます。都会の要素がないのに都会の交差点だと思わせるのも不思議だなと思います。

とまった時間が再び動き出した時に彩られる色を想像して楽しんで。

東京で原画が見られる機会は今までなかったみたいなので、ぜひこのタイミングで。

さわともかさんのカラフルな作品はこちらから。
ぜひ東京で個展して欲しい。
https://www.instagram.com/sawa_tomoka

ある日のディスカッション(覚書)
・モノクロが自然なのは漫画がモノクロなのを受け入れる感じかも
・グレーのバリエーションってここまで考えたことなかった
・版画の作品かと思った(値段もリーズナブル)
・ここに出てるキャラ本人が一番好きそう


ここでの文章だけでは語りきれない要素がほかにもたくさんあるので、ぜひこの週末は会場でみんなでいろいろとディスカッションできたらいいなと思っています。日曜日にはデザイナーのミウラユウタくんを招いたトークイベントもあるので、話しましょう。

というわけで、長くなりましたが、6人の作家のレポートに変えさせていただきます。実際に見ての感想などあればぜひコメントをください!
加藤でした。

【 イベントのご案内 】

3/14(日)の最終日は、色彩感覚が豊かなデザイナーをゲストに招き、色にまつわるこだわり、日常生活への関係性などを、参加者といっしょに語り合うトークイベントを開催します。
それぞれの好きな色について、その色に感じ得るものを共有し合い、身近な『色』の存在や重要さについて再確認して、これまで以上に色への楽しみをいっしょに見つけていけたらと思います。お気に入りの色が伝わるアイテムの持参も大歓迎!展示作品も楽しみながら気軽にご参加ください。

進行:加藤 淳也(PARK GALLERY)
ゲスト:ミウラ ユウタ(デザイナー兼グラフィックアーティスト)
日程 :3/14(日)17時から
会場:パークギャラリー
開催時間:約1時間(💁🏻‍♀️ ライブ配信も予定しています)
会場限定で質疑応答の時間をもうけます。

* マスク着用、入口での消毒をお願いします。
* 人数制限をする場合があります。あらかじめご理解ください。
* 新型コロナウイルスの影響によって営業時間や鑑賞ルールが変わる可能性があります。お越しいただく際は、SNS 等、ご確認ください。

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