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ON THE WAY TO PARK #011 『春のコーヒータイムは、ポルトガルへ思いを馳せて』(ドース・イスピーガ)

ポルトガルのイメージって何だろう。私の場合、小学生の頃図書館で手に取った小松義夫氏の名著『地球生活気・世界ぐるりと家巡り』に登場した首都リスボンの街並みが思い浮かぶ。狭い路地に石造りの家が並び、曲がりくねった道や急な坂が張り巡らされた迷路のような旧市街。小さな路地が生活の場として定着していて、写真でしか見たことがないけれど、どこか温かいイメージが残っている。

さて、かれこれあれから20年がたち、未だにリスボンには行けていないのだけど、思いもよらぬところで我がホームタウン神田にはポルトガルと接点があった。それは、小川町にある洋菓子店『ドース・イスピーガ』だ。

神田で洋菓子といえば、いわずと知れた名店『近江屋洋菓子店』が真っ先に浮かぶけれど、そこから歩いて9分ほどのロケーションにある。路地裏にあり、カウンターとショーウィンドウだけの小さな店構えで看板も目立たないから、うっかりすると通り過ぎてしまいそうなくらいのこじんまりとしたお店。実はこのお店、都内でも珍しいポルトガル菓子を扱っている。

一見するとごく普通の焼き菓子のような“茶色い”お菓子が並ぶ店内には、卵をたっぷりと使って焼き上げたであろう芳ばしい香りが漂っている。販売カウンターのすぐ後ろが工房で、忙しそうな作業の様子が見えて賑やかな雰囲気。行くたびに、リスボンの路地裏にあるようなお菓子屋さんもこんな雰囲気なのかもしれないと妄想する。

店頭に並ぶのは、エッグタルト、ライスマフィン、その他焼菓子が何種類か。恐らく日本で最も馴染みがあるポルトガル菓子はエッグタルトで間違いないと思うけれど、それ以外にも思いのほかレパートリーが豊富で、素材の味を生かした派手さはないがリピートしたくなる深い味わいのものが多い。

私のおすすめは『マディラ島のはちみつケーキ』。その名の通りはちみつで味付けをして焼き上げた伝統菓子。見た目はシンプルながらも、はちみつの香りとコク、柔らかい甘さが噛むほどに広がる奥深い味わいだ。ずっしりとした質感がまたヨーロッパ菓子らしい。

まだまだ寒いけれど、日を重ねるうち、だんだん暖かくなるこの頃。「今日はいい天気だな」と思ったら、コーヒーでも片手にポルトガルへ思いを馳せて、お菓子をほおばりながらお散歩なんていかがだろう。比較的早い時間に売り切れてしまうようで、選びたいのであれば早い時間に行ってみたい。

ドース・イスピーガ
〒101-0052 東京都千代田区神田小川町3丁目2−5


イラスト:
あんずひつじ

ivy(アイビー)
東京・外神田を拠点に活動。編集・ライター。『ANTENNA』の編集部に在籍する他、カルチャー系の媒体を中心に執筆を手掛ける。あまり役に立たない本、後ろ向きな音楽、胡散臭いメガネ、ジジ臭い服、だらしない酒、意味のなさそうな旅、苦い珈琲を愛する。旅の目的地は、何もないけれど何かが起きる場所。
https://www.instagram.com/ivy.bayside

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