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『わたしのつれづれ読書録』 by 秋光つぐみ | #04 『トマトジュース』 大橋歩

#04
2023年10月5日の1冊
「トマトジュース 大橋歩エッセイ集」大橋歩 著(講談社)

今週も『旅と本と』で展開中の「つぐみの本棚」から1冊選びました。真っ赤なトマトが目に飛び込む、ラブリー&ファンシーな装丁が愛らしい『トマトジュース』。

パッと見てもハートを模したようなフォルムのトマト、はち切れそうなジューシーな果実、白い光の筋が際立ちツルツルした質感を連想させます。
まるで少女から女性へと移り変わる儚い時期を表したような、それでいてドカンと潔さをも感じる装丁です。
とにかく、ピンク×レッドのかけ合わせが、見る者に訳もなく逸るエネルギーを与えてくれる、そんな気がします。

大橋歩さんは60年代から活躍を続けるイラストレーター。多摩美術大学在学中の就職活動時に、ヴァンジャケットにデザイン画を持ち込んだことがきっかけで、64年から男性向け週刊誌「平凡パンチ」(マガジンハウス)の表紙イラストを担当しました。以後、村上春樹氏のコラムの挿絵を担当したり、季刊雑誌「Arne(アルネ)」を創刊するなど、ファッションやカルチャー界で名を馳せる方です。

本書は、72年に発刊された彼女の初エッセイ集。31歳の頃の仕事、生活、子育てなどについて、感じること、考えていることが赤裸々に書き綴られています。
これまでに様々なエッセイを読んできたけれど『トマトジュース』は、31歳女性の等身大の素直な言葉をこんなにも聞いて良いのだろうかと、戸惑い、驚き、微笑み、そして思わず共感してしまう、そんなエッセイです。

お友だちとお茶してるときに隣で聞かされている日常の他愛もない出来事の話。のようでもあり、でもその話の核となるものは、確かに私たちの中に眠る、普段抑えてしまっているかもしれない言葉なのです。
だから、最初はストローからジュースをズズと吸いながら「フンフン」と聞いていたようなものの、気がついたら身体ごと相手を向いて目を見て聞き入っている、そんなふうに徐々に前のめりに読み込んでしまう。

『今の自分にいつも不満なのはいけないことでしょうか?そのくせ結局今の状態しか方法がないのです。』

もがいているし、解決できない。でもこれは諦めではなくて、今だせる答えの一つ。だからそれと向き合って、自分自身を抱きしめてみよう。そんなふうに「今の自分」を肯定できるようになれそう、私はそう思いました。

そして、ちょくちょくと差し込まれるイラストレーションもたまらず素敵。ゆるりと歪む線によって描かれる女の子たちや、お洋服の絵。おしゃれ(なんて言葉を使うことすらも野暮)が大好きで、好きなものを纏う自分が好きで、そういられるための努力を惜しまないことよ。と教えてくれる、一本筋の通った強さも感じます。

そんなメッセージを受け取りながら、20代を終えた私たちも30代を生きていく。先人たちの生きた時代との違いはあれど、一人一人の内側に目を向ければ、根本的な悩みや喜びは近いのかもしれません。

かわいく、パワフルに、グズグズ悩みながらも、歳を重ねることを楽しんで、好きな方へ一直線に歩め、女たちよ。

(本書はつぐみの私物です。販売はしておりません。)

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【 わたしのつれづれ読書録 】
古本屋兼ギャラリーの創設を目指し、パークギャラリーと並行して古本屋でも修行中の秋光つぐみ。
『わたしのつれづれ読書録』はパークスタッフのつぐみが出勤日(主に木曜日)に「今日の1冊」を紹介するコーナーです。
パークで開催中の展示テーマに寄せた本、季節や世間のムーブに即した本、つぐみ自身のモードを表す本、人生に影響を与えた本、趣味嗜好まるだしの本など‥日々積読が増えていく「つぐみの本棚」からピックアップした本をお届け。

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PARK GALLERY
木曜スタッフ・秋光つぐみ

グラフィックデザイナー。長崎県出身、東京都在住。
30歳になるとともに人生の目標が【ギャラリー空間のある古本屋】を営むことに確定。2022年夏から、PARK GALLERY にジョイン。加えて、秋から古本屋・東京くりから堂に本格的に弟子入りし、古本・ギャラリー・デザインの仕事を行ったり来たりしながら日々奔走中。
Instagram https://instagram.com/tsugumiakimitsu

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