『わたしのつれづれ読書録』 by 秋光つぐみ | #16 『リリー&ナンシーの小さなスナック』 ナンシー関 / リリー・フランキー
#16
2023年2月1日の1冊
「リリー&ナンシーの小さなスナック」ナンシー関 / リリー・フランキー (文藝春秋)
今回は対談集。私の「三大好きなおじさま」のうちの1人、リリー・フランキーさん。これまでリリーさんのエッセイや、彼の盟友(と勝手に思っており同じく「三大好きなおじさま」のうちのもう1人である)みうらじゅんさんとの対談も読み漁って来ました。おもしろくて、世の中への絶望と愛を同居させるおふたりの言葉と生き様が、私は大好き。
そしてリリーさんとの対談相手ということをきっかけにもう1人、好きになった方がいます。こんなにも切れ味よく、読んでいてまさに痛快な気分を味わうことができる、それでいて最終的に救いの手を差し伸べてくれる、そんな対談。お相手は、ナンシー関さん。
この対談、目次をサッと見ただけでも香ばしさ漂い、にんまりとさせられます。
「ポジティブ」全盛の世は妄想しつつ諦めていこう
タキシードとVシネマ。それは男の身だしなみ
爪よりハートに火をつけて。心で貯めろ!マネー虎の穴
など‥
これはほんの一部。うん、わけがわかりません。一筋縄ではいかない頭の良さと壊れ具合あいまったワードセンス。なんとなくどんな味のする対談なのかは伝わるはず。
井戸端会議的に唐突に始まる世間話。お正月は実家に帰ったのかという問いから、田舎の同級生たちと自分との現実の差、テレビで芸能人がやってたあんなことやこんなことに例えながら、世の中一般へと視線が移っていき、次第に物事の本質を突き始めます。
世間を冷静に見つめ観察し、その都度自分の頭で考え、冷静沈着に意見を言うことができる。ユーモアを交えながら対話に織り込むことができる「知性」を持つからこそ成立するおもしろさ。そのおもしろさは「笑える」とか「愉快だ」ということだけでなく、「興味深いと思うこと」や「自分の考えを持つこと」を目覚めさせる、そんな種類のもの。
私がこの対談で最も印象に残った言葉があります。
実際に行ったことのある銀座の文壇バー、赤坂の美人バーの話から派生して、もしイラストレーター・バーがあったら嫌じゃない?という流れから生まれた会話。そしてこのパートのタイトルは
インターネット普及で、はいたパンツの返品急増⁉︎
‥なのですが(笑)最後まで予想もつかないほどめくるめく展開される会話から、核心を突き刺す一言があったり、それはふとすると世界で小さく生きる誰かへの救いの言葉だったりする。リリーさんとナンシーさんのフィルターを通して見た、世の中の厳しさ、苦さ、温かさ、甘さ。
「この世界で生きている以上、落ち込んだり病んだりするのは当たり前。そうでない人なんかいない。しょーがないねぇ、それでいいんじゃねーの?俺たちは素直に病める人とは友達でいられる。」
この対談集から、そんなマインドを私はなんとなく拾うことができ、救われたことを覚えています。
この対談連載中、ナンシー関さんは急逝されました。この本のあとがきは、リリーさんによる亡くなったナンシーさんへの言葉で締め括られています。対談の相方への、尊敬と愛情が胸に迫ってくる優しい文章です。人がこの世界で生きるということはどういうことなのだろう、そう思わずにはいられない、そんな1冊です。
PARK GALLERY 木曜スタッフ・秋光つぐみ
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