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issue 55 「東上野の路地裏で。スーパーヘビー級のアメリカ飯を」 by ivy

「疲れていて食欲がない」だって?何を言っているの。

私からするとこれ以上の「謎理論」はない。疲れているときは大抵、腹が減っている。疲れていないのに腹が減っていることはいくらでもあるけれど、疲れていて腹が減っていないことはまずない。人間ってそういう生き物でしょ?と思って生きてきた。

金曜日の仕事が終わって、週末の幕開けを告げる「まずは一杯」は何よりも素敵な響き。でも、身体が求めているのはそれより前に、お腹いっぱい食べること。「もう食べられない!」ってくらいおいしいもので胃袋をぱんぱんにしたい気分、そんなときに駆け込みたくなる場所が東京の東側の片隅にある。

最寄りは上野駅のあまり人が行かない方、入谷口。基本的には住んでいる人にしか用がない。ひと気のない路地裏を徘徊して、場違いなくらいに小粋なネオンサインと星条旗が現れたら、そこが今回の目的地だ。

『American Diner Andra』。ドアを開けたら、そのタフで精悍なシェフに期待値が上がる。筋骨隆々な身体にデニムのエプロンが羨ましいくらい似合っていて、カウンター越しの鉄板がこれまたやけに絵になる。肉汁がはじける音とTVから流れるアメフト中継が賑やかに店内を盛り上げて、目がちかちかするくらいの赤いチェッカー柄も違和感がない。もはや「あちら」にもないかもしれないくらい、「らしい」アメリカンダイナー。

メニューの並びだって、本場さながら。バーガーやホットドッグは勿論、チキンオーバーライスとか、ブリトーとか、特別な日に注文したいステーキとか、現地の大衆食堂的なダイナーの作法を忠実に再現している。ただ、ここが何よりも本場に忠実なのは、そのボリュームだ。

ほら、よくこじゃれたアメリカンダイナー風のお店ってあるでしょ?だいたい都心の公園が近くて、浅煎りの豆を近所のロースターから仕入れていて、犬OK、夕方からマイナーなロックステディが流れてるような。ああいうところも当然、素敵。私は好き。味はだいたいとびきりおいしいし、何より雰囲気が最高 … だけど、何が物足りないって量が少ない!

バーガーを頼んでも、他のご飯ものを頼んでも、何が違うって皿の大きさ。ストーンウェアのずっしりとした皿は、明らかに日本のほかの店より直径が大きくて、その皿からはみ出しそうなくらいに重量感のある料理が載ってくる。

肉汁とバターとチーズと …。こんがり、じゅわっと、こってり、ずっしり。兎に角お腹がいっぱいになりそうなキーワードが太めのフォントで頭の中に並ぶんだ。ジューシーな荒引のパティから滴り落ちた肉汁とバター。その汁を吸ったバーガーのバンズはそれだけで食べられるくらい甘くて芳ばしいし、でも表面はカリッと焼きあがっている。顎が外れそうなくらいの大口を開けて、齧りついたときの幸福感はやっぱり酒に勝る。

皆さん、今週もお疲れ様!お酒もいいけど、お腹は空いていないかい?たっぷり食べて、元気が出るお店、よかったら足を運んでみて。今日の夜でも、週末の金曜でも、頑張って働いた月曜日でも。きっとカウンターに屈強なシェフが立っている。



イラスト:あんずひつじ

ivy(アイビー)
会社員で物書き、サブカルクソメガネ。
自己満 ZINE 製作や某 WEB メディアでのライターとしても活動。創り手と語り手、受け手の壁をなくし、ご近所付き合いのように交流するイベント「NEIGHBORS」主催。日々出会ったヒト・モノ・コトが持つ意味やその物語を勝手に紐解いて、タラタラと書いています。日常の中の非日常、私にとっての非常識が常識の世界、そんな出会いが溢れる毎日に、乾杯ッ!
https://www.instagram.com/ivy.bayside

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