人生で初めて食べたナス天の一口目

人生で初めて、ナス天を食べた。
厳密に言うとナス天を仕方なく食べたことはあったと思うけど、それはあくまでも撮影収録の流れとか、母が食卓に並べてくれたそれをナス天としてではなく、空腹を満たす揚げ物として胃に運んだだけで、要するに自分の意思で、ナス天を味わうために注文した事がなかった。

高校生の頃、大学生の知り合いに教えてもらったそこそこいい感じのうどん屋さんにハマった。
丸亀製麺の存在すら知らなかった当時の僕は、この時人生で初めてうどんの存在に大変深く感動した。美味しいうどん屋さんの味なんて、自宅じゃ絶対に味わえない。しかも、うどん屋さんなんていうのは他の飲食店と比較してもリーズナブルなものが多い。これと競えるカテゴリの飲食店は牛丼かサイゼリアくらいのものだろう。
アルバイトしてるとはいえ、高校生が頻繁に外食するというのも難しく、週2回数時間のスーパーレジバイトをこなすだけの僕には週1回のうどんが限界だった。てか普通にラーメンとか食べたかった。

このうどん屋さんは、毎週月曜日に全ての揚げ物が100円になる。200円以上するあのコロッケも、メンチカツも、ナス天も、かしわ天も。なので、毎週月曜日に通い、ぶっかけうどんの冷とかしわ天を頼み続けるのが僕の月曜日ルーティンと化してた。カレー寿司ラーメン焼肉大好きな僕にとって、野菜の天ぷらは邪道だったから。天ぷらは、かしわ天しか頼まなかった。1度だけ、アホみたいにデカい丸亀製麺の野菜かき揚げを頼んだ事があったが、デカいしなんか食べづらいし刺さって痛いし野菜だしでムカついたから、それ以来頼んでない。ちなみに野菜は好きです。
多分そのルーティンを。何ヶ月かは続けてた気がする。2ヶ月くらいかも。
まあ、割と早く飽きて、通うのはすぐにやめたけど、その駅に降りたら、意識してたまに食べるくらい、そんな感じ。

大人になってから、アクセス的にわざわざここに行かなくても丸亀製麺でよりうどん欲を満たせることに気づいたから、より足を運ぶ事が減ったかな。
そんな中で、数年ぶりに今日、その駅でうどんの気分になったので、行ってきた。
当時の味を楽しもうと思ってまずは「ぶっかけの冷ください」と頼んだ。
頼んだ6秒後くらいに、いや、もう大人だろ?って、心の中の悪魔が囁いてきたものだから、すぐに「あ、やっぱり肉ぶっかけうどんの冷で、ごめんなさい」と訂正。
その後、心の中の悪魔は笑顔でどこかへ消えていった。もう会いたくない。
うどんの注文で背伸びをしてしまった以上、流石に天ぷらも冒険をしたくなる。そういえばナス天が美味しいツイートを見かけたな。さつまいも天も、少し前にリスナーが言っていた気がする。「騙されたと思って食べてくれ」と。
ナス天とさつまいも天をとって会計する。
1450円!?
高すぎる。100円じゃない揚げ物とぶっかけうどんに肉を乗せるだけでラーメン全トッピング特盛みたいな値段になるとは思わなかった。
26歳の僕が、店員さんに動揺を見せるわけにはいかない。
会計後、この価格に見合うリターンが帰ってこないことを確信するが、それでもやっぱり期待はあって、期待があるので、不安も同時にある。

初めて食べたナス天は、感動的なくらい美味しかった。そもそもナスが好きじゃなかった僕にとって、ナスをこんなにも美味しく食べる方法があるのかと、自分は一体これほどまでに、あのナスを美味しく食べるほど成長してしまったのかと。もはやなにが嫌いだったのかすら思い出せない。ナスに関する記憶で思い出せるものは、友達のお母さんが作ったパスタに入っていたナスを大量の水で流し込んだ記憶のみ。その記憶だけを残しナスは完全に俺の中で夏野菜から、神野菜へと昇華した。これはもう最初に食べるべきではない、ナスを一度置き、うどんを啜る。好きなものは最後に食べたい。ナスは食べない。ナスは最後に食す。続いて肉ぶっかけうどん冷、うまい、牛肉のなんたる反則。ずるいずるい!ずるすぎるぜえ!!俺の中のジェイミーが叫ぶ。しかし、重い。最初の一口こそ良かったが普通にさっぱりしたものを食べたくてうどんを食べにきたので、肉はいらん。4口目でアンチシナジーに気づく。ぶっかけうどんは柑橘系をつけるだけで十分。
次にさつまいも天。これに関しては騙された。まあ元々さつまいも料理で好きなものなんてない。甘いものが苦手なんだ。必然といえよう。
それなりのフードファイトをこなし、終盤戦、ナス天に戻ってくる。ここまで温めたナス天。こいつだけで1300円の価値がある。楽しみで仕方がない。
うどん味変への意味も兼ねて、ナス天の2口目へ、時間差で口をつける。
美味しくない。
全然美味しくない。なんかナスってブヨブヨするし、旨みもわからない。かしわ天の方が何倍も美味しい。
不思議だった。あんなに美味しく感じたナス天がものの十数分でこんなにも。
なんだったんだろう。あの感動は。
きっと期待しすぎたんだ。
美味しくないだろうと思ったナス天は、思ったより美味しかったし、神野菜天プラと思って食べたナス天は思ったより、美味しくなかった。
何事も先入観から入ってはいけない。
「清麿が変わったんじゃない。清麿を見る貴様らの目が変わったのだ」
金色のガッシュ1話におけるガッシュの名言を今の状況と重ねながら、お店を出る際に、外国人ばかり並ぶこの店を見て、まあ、こんなもんかと、それでも成長し冒険した注文選択は、1450円の味がしなくても、1450円以上の価値をくれたと思う。
うどん屋さん、感動をありがとう。

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