【司法研修所起案対策】刑裁起案

1 全般

司法研修所の刑事裁判起案につき解説する。

設問ごとに,どこからどこまで手続が進んだか,どこまで証拠が提出されたかが指定される。設問を解く際は,その指示どおりの箇所までだけを読んで解答するのがよい。その時点でまだ提出されていない証拠を引用することが防げる。提出されていないはずの証拠を参照すると教官に怒られる(減点されるのかどうかは知らない。)。

もっとも,先の設問で読んだ記録から,「この発想は第1問を解く際になかった」と思う場合があるから,それを防ぐために先読みをしたくなる。その懸念に対しては,第1問の前提資料のルールに違反しない表現で後から解答に挿入して追記するという対応方法があるから,先読みはやはりするべきではない。後で追記することもある前提であれば,第1問を解く際に先の資料を読む誘惑はなくなるはずである。

2 第1問 追加証明予定事実記載書の間接事実の検討

追加証明予定事実記載書の検察官主張の間接事実の要証事実に対する推認力と,これに対する弁護人の争い方を検討した上,争点整理・証拠整理に関する裁判所としての見通しを解答する。

まず前提として,要証事実は何かを書く。要証事実は,追加証明予定事実記載書では「以下の各事実から,被告人は被害者に意図的に頭突きしたものと認められる。」というように書いてあるから,そこから「被告人が被害者に意図的に頭突きしたこと」という部分を抜出せばよい。当たり前すぎるし,問題文の前提になっているように思って要証事実を省略してしまうと,教官から書くように指摘されるので,忘れずに書く。

次に,間接事実から要証事実への推認力を書く。推認力は,「意味合い」「重み」という枠組みで分析するよう求められており,具体的には第4問の解説で説明する。なお,間接事実は,上記の「以下の各事実」として参照されているとおりの事実であり,例えば「(1) 被告人は,被害者に不満を募らせていたが,●●頃,●●したため,不満が限界に達し,被害者に対し,●●と言った。」という事実である。この(1)全体がひとまとまりの検察官が主張する間接事実であり,前半(不満を募らせていた)・後半(不満が限界に達した)に分断して分析してはならない。

そして,弁護人の争い方を書く。多くは,①間接事実自体を否認する,という争い方か,②間接事実は認められるものの,反対仮説につながる事情があるから要証事実への推認力が乏しい,という争い方となる。

最後に,争点整理・証拠整理に関する裁判所としての見通しを書く。ここは具体的な正解が用意されているものではなさそうである。例えば,推認力が強い間接事実であれば,中心的争点になるだろうから審理のリソースを割く。推認力が弱い間接事実であれば,わざわざ証人を沢山呼んで吟味する必要がないと考えて,検察官に主張を維持するか聞いたりする。検察官・弁護人にそれぞれの主張の裏付けとなる証拠はあるかを確認することもある。人証で裏付けるのであれば,その時間を確保する審理計画が必要となる。間接事実が供述調書で支えられていて弁護人が争っていれば,供述調書は不同意になり,証人尋問請求されるという見通しになる。何か書けばよい。

3 第2・3問 小問

第2・3問は刑事手続の小問であり,例えば以下のようなテーマがあった。

(1) 保釈請求に対する判断

公判前整理手続終了後に保釈請求された場合の保釈の許否の判断につき,結論を示した上で理由を説明する問題である。この時点で存在する証拠(不同意となる供述調書については,公判における証人尋問の主尋問と同じ内容が記載されていた前提)に基づき判断する。

手順としては,まず①権利保釈の要件のうち,検察官が主張しているものに該当するかを検討する。刑訴法89条1号は起訴罪名に照らすと該当すること,4号は罪証隠滅のおそれが認められることを具体的に書けばよい。続いて,②90条の裁量保釈の考慮要素を具体的に検討する,ということになる。

①のうち,89条4号の具体的な書き方は以下である。罪証隠滅の対象としては目撃者の供述である,態様は目撃者への威迫・懇願等である,被告人は目撃者と●●の関係にあるからそのような働きかけは可能である,被疑事実が重い犯罪であることからすると被告人がそのような働きかけをすると疑うに足りる相当な理由がある。答案としては②の90条の裁量保釈を検討してみせたい以上,89条4号の相当な理由は認められると書かざるを得ない。なお,解剖や受傷部位の診断をした医師は,専門家証人であり,合理的な理由なく証言を翻さないだろうから,罪証隠滅の客観的可能性が低いという結論になるはずである。

②の90条の裁量保釈は,「身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情」を前提資料から一通り摘示した上で,後は罪証隠滅のおそれの程度を,導きたい結論に沿うように書けばよい。

(2) 証人尋問請求に対する判断(伝聞)

検察官が,伝聞っぽい供述を引き出す尋問をする前提で証人申請し,それに弁護人が伝聞だ・必要性なしと異議を述べた場合の裁判所の検討内容を説明する問題である。

まず,①当該供述が伝聞か非伝聞かを判定する必要がある。検察官がその供述で直接的には何を立証しようとしているのか,それを前提にすると伝聞か,非伝聞かということであり,司法試験の刑訴をきちんと勉強していれば何ら迷わない。精神状態の供述だから非伝聞である,というような結論になる。

次に,②必要性につき検討する。推認力の高い間接事実を立証しようとするのであれば必要性は高いことになるから,まず推認力の検討,つまり意味合い・重み分析をすることになる。何が要証事実か,どのような経験則でそこに結びつくか,反対仮説につながる事情はどのようなもので成り立つ可能性はどの程度かを検討して推認力を判断し,推認力が高いから必要性がある,というようなことを書く。

(3) 証人尋問請求に対する判断(公判前整理手続終了後)

検察官が公判前整理手続において,他の証拠で立証可能だから証人尋問請求しないと述べたにもかかわらず,公判期日で被告人質問が終了した後になって,うまく立証できなかったから証人尋問をしたい,証人は法廷の外に来ている,すぐ終わる,と言ってきた場合の裁判所の証人採否の対応を問う問題である。

刑訴法316条の32の問題であり,1項の「やむを得ない事由」につきプロシーディングス刑事裁判64頁に解説されているので,それに沿って書く。読んでいなくても,「充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行う」という公判前整理手続の趣旨から,そのようなやり方は認められないことを述べればよい。2項の職権証拠調べができるかについても追加で述べることも考えられる。

(4) 供述の明確化等に関する訴訟指揮

検察官が供述の明確化のために刑訴規則199条の12に基づき再現写真を示したい,と言った場合の裁判所の対応の問題である。

まず,供述の明確化なのだから,明確化の対象となる供述が十分されているのかを検討する。供述が十分でなければ,まず十分に供述を得てから写真を示すよう訴訟指揮することが考えられる。

さらに,写真を示すことの必要性・相当性などを検討することも考えられる。位置関係の説明なら図に書いて示せば必要十分である,証人が目にして覚えていること以外のことも写真に写っているだろうから不相当である,というようなことである。

4 第4問 事実認定

集合・二回試験では,間接事実による要証事実の推認直接証拠による要証事実の認定評価概念である要証事実についての積極的事実・消極的事実による評価,という3パターンの事実認定について区別して書くことがテーマになっていたように思う。

(1) 間接事実による要証事実の推認

間接事実を証拠から認定した上で,間接事実から要証事実への推認力につき意味合い・重み分析で書く。具体的には,①間接事実,②認定根拠,③意味合い,④重みという4項目を立てて書く。項目をきちんと立てて書くのが大事であり,意味合い・重みの検討がルーズになることを防げる。

ア ①間接事実

どのような間接事実を認定したのか,具体的に書く。記録で証明予定事実記載書等に間接事実が記載されていれば,そのとおり書くし,記載されていなくても,他の部分から推測しながら書く。

イ ②認定根拠

どのような証拠から間接事実を認定したのかを書く。
証拠から明らかであれば,「甲1,甲2」と書く。証言に基づくのであれば,「●●証言」と書き,続けて当該証言の信用性を書く。信用性は,証言で具体的にどのように言っているのかを述べた上,信用性の判断のメルクマール(客観的事実等との一致,利害関係,供述経過,供述内容,供述態度,知覚・記憶の条件)に該当する事実をピックアップして信用できることを述べる。詳細は,供述の信用性の記事参照。

認定根拠につき,再間接事実などを駆使して丁寧な間接事実の事実認定をすると,意味合い・重み分析の時間がなくなる。教官としては意味合い・重み分析を書いてほしいようなので,認定根拠は適当なところであっさり切り上げるのが合理的である。

ウ ③意味合い

間接事実から要証事実へと結びつく経験則を述べた上で,だから間接事実から要証事実への推認力(強いかどうかは置いておいて)があるのだ,と述べるパートである。

経験則は,結局,「【間接事実を抽象化した者】は,【要証事実を抽象化した行為】をする」(間接事実が要証事実の原因となるパターン)又は「【要証事実を抽象化した者】は,【間接事実を抽象化した行為】をする」(間接事実が要証事実の結果であるパターン)というような構造になる。

第1問で挙げた例を念頭に具体的に言うと,「相手方に対する不満が限界に達し暴言を述べた者は,続いて相手方を攻撃する」という経験則(間接事実が要証事実の原因となるパターン)を書けばよい。論理が飛ぶようであれば,経験則を二段階にすればよい。

間接事実は,検察官が要証事実を経験則に基づき推認させるものとして主張しているのだから,一応,上記のような方式で逆算して経験則が導き出せるはずである。

エ ④重み

推認力がどの程度あるかを判定するため,「反対仮説(要証事実の否定)につながる事情」は考えられるか,その成立可能性はどの程度かを検討する。上記経験則について,「相手方に暴言を述べればそれで気がおさまり,暴行まではしないこともある」という「反対仮説につながる事情」が考えられる。その可能性が相当程度あるのであれば,上記間接事実の推認力は一定程度にとどまることになる。

なお,要証事実の否定につながる事情を検討するのであって,間接事実自体の否定の可能性を検討するのではない。間接事実自体の有無については,②認定根拠で検討済みであり,ここでは認定できている前提での要証事実の否定につながる事情の検討を行う。

 結論

上記の間接事実による要証事実への推認力を,複数の間接事実につき検討した上で,すべての間接事実の検討結果を総合して結論を出す。表の面からの説明として,間接事実①の推認力が強く,間接事実②③はこれを補強していて要証事実が認められること,裏の面からの説明として,「間接事実①の反対仮説」かつ「間接事実②の反対仮説」かつ「間接事実③の反対仮説」という事態はあり得ないことを述べればよい。

(2) 直接証拠による要証事実の認定

被害者・目撃者供述から要証事実を認定できるかという場合である。供述の信用性評価は,(1)イ及び供述の信用性評価の記事で述べたとおりであり,それに基づき要証事実の認定をする。

(3) 評価概念である要証事実についての積極的事実・消極的事実による評価

ある行為を急迫不正の侵害と評価できるか,正当防衛が認められる状況と評価できるか,被告人に正犯性が認められ共同正犯となるかなど,事実ではなく,法の予定する一定の状態と評価できるかが問題となっている場合である。

積極的な事実と消極的な事実に分けて,それぞれにつきいくつか具体的な事実を証拠から認定し,総合評価する。
この評価に関する書き方は,教官室でもはっきり固まっていないように感じた。

以上

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?