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権力に寄り添え!のキャッチコピーが最低で最高 韓国映画【ザ・キング】

2017年公開作品(日本は2018年)。この映画、序盤がものすごくキャッチ―な作りなのです。喧嘩に明け暮れていた不良少年がいかにして検事になったかという過程が、コミカルかつテンポ良く語られていて。

時代の描き方も丁寧で、なんだかちょっと「サニー 永遠の仲間たち」を彷彿とさせる雰囲気もあって、これはとても楽しい映画が始まりそう…と思ったのも束の間、完全に期待を裏切られます。検事になってからはずっと、正義のヒーローの仮面を被った彼らが金と権力にものを言わせて最低最悪なことをし続けるのです…。

ものすごく簡単にストーリーを説明すると、検事になった野心家の男が、99%の普通の検事ではなく、1%の成功者、絶大な権力を持つ検事になろうとする話。オープニングは歴代の韓国大統領の映像をつなぎ合わせていて、その後も実際の大統領選とリンクするように物語が進んでいき、この映画はフィクションだけどフィクションじゃない、実際に行われていることなんだと匂わせるところが上手いです。

主人公のパク・テス(チョ・インソン)は、元々野心の強い人物ではあったけれど、少しの正義感はあったんです。親の力で不起訴になった婦女暴行の加害者にちゃんと罪を償わせようとしていたし。だけど、絶大な権力を持つ検事、ハン・ガンシク(チョン・ウソン)に出会ってしまってからはもう私利私欲に突き進むだけ。彼ら悪徳検事は社会的に大きな事件をわざと寝かしておいて、一番効果的な時期に世に放つ。それによって、自分が世間の注目を浴びて出世したり、もしくは自分に関係のある人物の罪を世間の目から逸らしたり。

韓国のみならず日本でも本当に行われていることなんじゃないか?なんて疑ってしまうほどのリアリティ。そして、心底腹が立つ。しかも、その権力と金で汚い仕事をやくざ達(しかも幼なじみ)にやらせていく…。やくざと検事、全く区別がつかない。っていうより、やくざより明らかにたちが悪い。

考えたこともなかったけれど、もし検察が悪人だったら本当に怖いことです。彼らは法律のプロフェッショナルで、個人情報をくまなく閲覧する権利も人を裁く権利もある。その権利と知識を彼らは正しく使っていると当然のように思っているけれど、実際の歴史を振り返ってみるとそうとは言えない事例が山ほど思い浮かびます…。司法を中立的な立場で監視する機関がそろそろ本当に必要なんじゃないかと、この映画を観てものすごく不安になりました。

1%の人物を目指した主人公が、一体どんな人間になっていくのか…。それはぜひ劇中で確認していただきたいのですが、一つ言っておきたいことは、この主人公、最初っから最低なのです(笑)。多分一度も「誰かにために役に立ちたい」と思ったことがない。検事になろうと思ったのも、権力で他人を従わせたかったからだし、その後も良心とか罪悪感とかが全く顔を出すことなく、唖然とするような自分勝手な思考回路で権力にすり寄っていきます。

私は主人公に共感するどころか嫌悪感すら抱いていたので(ほとんどの人がそうだと思うけど)、最後までスカッとすることはなかったけれど、最後に心の中で思いっきり悪態ついてやりました。
「テメーは一生、権力に寄り添ってろ!」と(笑)。

悪事を働いて制裁を受けても受けなくても、彼らが最低な場所で生きていることは間違いないでしょう。そんな最低を実際に経験せずに、映画で知るだけで済む私たちは、きっとそれなりに幸せなんだと思います。

あと付け加えることとして、チョン・ウソンの悪人っぷりが良かったです。甘いマスクがうさん臭さに輪をかけていて。めちゃくちゃダサいダンスも最高でした。それと、のちに自殺してしまう盧武鉉大統領の弾劾裁判が可決された際、これまた後の大統領、朴槿恵議員が笑っている映像を一瞬挟んであったりして、監督相当意地悪です(笑)。彼女もその後、過酷な道を辿りますから…。

極私的スキ度 ★★★★★★★(7)

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