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高尿酸血症の意義について

尿酸と聞くと痛風という足の親指の付け根が腫れて非常に痛い発作を伴う病気が思い浮かぶ方も多いかと思います。

尿酸を体内の細胞に含まれる核酸の成れの果て……いわゆる老廃物と考えれば早く捨て去ってしまいたい。痛い思いするのは嫌だし…。健康診断で高尿酸血症を指摘され、治療と称してお薬を飲んでいる方も多いと思います。痛風の発作を起こした方ならまだしも、発作の経験がない方も発作を恐れてお薬を飲んでいる方も多く見かけます。パターンプロセス理論の基本6項目に入っていない、尿酸についての私の考えをお話しします。
ここでひとつ素朴な疑問。なぜ尿酸が高くなるのでしょう? 

尿酸は腎臓の尿細管から排出されますので、腎機能が低下すると高値を示すようになります。また、細胞に含まれる核酸が材料ですので、細胞が壊れやすい状況下でも上昇します。前者は尿酸が体から出ていかない状態でいわゆる腎臓病の方、後者は尿酸が作られすぎる状態で身近な原因としては、強度の運動も含まれます。
ここまでは単純に原因として納得できるのですが、体の中でわざわざ尿酸を再吸収する機能を持っています…尿酸は強力な抗酸化物質ですので高尿酸血症が出現する背景と何らかの関係がありそうです。

健康診断における尿酸値の分布をご覧ください。散布図は全体像の上に尿酸のみ異常の方をプロットしています。

尿酸値と年齢の関係

明らかな男女差があり、尿酸値は男性が上がりやすく女性は上がりにくいのですが全体像の中では加齢の影響は全くなく、上がりたい?方のみが上がっている印象をうけ単独での重症化例は極めてまれです。極端な性差があり、痛風は男性の病気と思われている節もありますが、そもそも性差の原因は何でしょう?

高尿酸を含む異常パターン群別の有所見率の推移をご覧ください。

 もともとの高尿酸血症の方が15〜20%程度存在します。男性では若壮年期に10%程度増加、女性は50歳以降増加傾向を示し、いずれも肝機能異常を持つ群の増加分にほぼ一致します。 尿酸の高そうな方のイメージ、太り気味でお酒好き…肝機能が上がりそうですね。一方で、お酒も飲まないし痩せ気味で神経質そうだったり、夜の遅い方々にも見かけます…時に尿酸の高い方は、全く真逆に見える方々に存在しますので、理由づけや説明に難しい検査でした。 巷では高プリン体食品の制限や飲酒制限が推奨され、プリン体カットのアルコール飲料など健康に良いような印象まで創造されました。しかしながら核酸そのものは多くの食品に含まれていますし、多少嗜好が偏っている方でも尿酸は上がらない方も多く食事の影響は少ないとの印象があります。

パターンプロセスが6項目の異常パターンなら尿酸を加えたならどうなるか。次の図をご覧ください。

尿酸高値の方はパターンプロセスを構成する64群すべてに存在しますので、対象群が高尿酸血症の有無で2つに分かれます。現在の健診では尿酸を含む健診の対象者年齢が10歳ほど高いのでパターンプロセスそのものがやや高齢側に偏移しますが、男性の場合高尿酸血症の有無でほとんど差が出ません。女性の場合高尿酸血症そのものが少ないためばらつきが生じますが、尿酸の高い方は男女共にやや高齢側に移行し、喫煙習慣とは逆の方向となります。

次の図は高尿酸血症の有無で、HbA1c値(糖尿病の検査で1〜2ヶ月の血糖変動を反映します。耐糖能異常≧5.6%  糖尿病≧6.5%  重症糖尿病≧9.0%)の年齢分布の違いを見てみました。一見して高尿酸血症群のHbA1c高値群が少なく見えませんか?

一般的に糖尿病重症例は尿酸が下がるとの話があり,実際軽症の糖尿病に重度の高尿酸血症、の合併のある方は糖尿病の重症化に伴い尿酸値は低下します。しかしながらそれは余程の事例で、健診の現場ではもともと高尿酸血症がある方は耐糖能異常の進展が遅いことが実感されます。

散布図において、母数の違いでプロットの数では比較はしにくいので、耐糖能異常の有所見率をHbA1c値の階級別に示したのが次の図です。尿酸異常の有無別で線の色を変えています。
STP TP は耐糖能異常を持つ異常パターンの略称です。

尿酸が基準値を超えた時点だと、尿酸正常群と比較しても耐糖能異常の有所見率は変わりませんが、HbA1cが糖尿病域の6.5に近づく辺りから、尿酸正常群が優勢となります。
 
 パターンプロセス理論においては、耐糖能異常の生じる過程に肝機能異常および中性脂肪高値を含むもの(生活習慣型)と含まないもの(素因型)があり、おのおの高血圧の合併および糖尿病の悪化に違いが認められます。高尿酸血症を有する方は、生活習慣型異常を含むパターン(インスリン抵抗性の亢進および酸化の亢進を想定)に呼応して上昇する例が多く、耐糖能異常早期には多く見られるものの糖尿病の重症化は少ない傾向があります。私は、インスリン抵抗性亢進時に存在する酸化の亢進状態に呼応した恒常性維持機能(ホメオスタシス)の一環として尿酸が上昇していると考えています。
 高尿酸血症は、痛風や糖尿病性腎症などに至っていない段階では、肝機能異常や中性脂肪等生活習慣関連項目の改善を主眼としたインスリン抵抗性の改善に向けた生活習慣の改善が優先される必要があると思います。

薬頼みよりまずは我が身を正せということでしょうか。

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