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ユーロポールでの独立したデータ保護責任者の役割とは?

※このインタビューは2023年10月16日に収録されました

警察組織内でもデータ保護の重要性が年々高まりつつあります。

今回は弁護士として活動し、現在は欧州刑事警察機構でデータ保護責任者を務めるダニエルさんに、欧州の警察組織のデータ保護に関する取り組みについてお伺いしました。

データ保護監察機関と警察組織の協力関係

Daniel: 欧州データ保護監察機関は欧州刑事警察機構の監督当局として機能し、欧州データ保護監察機関は各国のデータ保護機関とも連携しています。

私たちがインターネット上で消費している情報は知らず知らずのうちに取得され、どこかで情報が処理された後にどこかに情報が移動するということが起きています。

情報が広く流通していく過程で情報のライフサイクルに沿って監督することが重要で、データ保護責任者は前線で協力する役割を担っています。

データ保護責任者は現在の体制におけるデータ保護だけでなく、継続的にデータが保護される環境を整え、データ保護違反が起きないように対策する役割も担っているのです。

欧州刑事警察機構は2017年より監督機関と協力しています。欧州データ保護監察機関は強い監督権限を有し、欧州刑事警察機構が適切にデータ保護に取り組めているのかを監督しています。私たち欧州刑事警察機構も欧州データ保護監察機関の役割は尊重しています。

(動画:Giovanni Buttarelli - European Data Protection Supervisor)

宏平さん。私が伝えたかったのはデータ保護を継続して実施していくためにデータ保護監察機関と連携し、外部の異なる視点や役割を持った機関により監督の下で運営していくことが重要であるということです。

データ保護監察機関は欧州刑事警察機構のデータ保護について調査する役割を担っている一方で、アドバイスを行う役割も担っています。欧州データ保護監察機関で働く同僚からのデータ保護に関するアドバイスやガイダンスをもとにして、運用を進めています。

欧州データ保護監察機関は年に一度私たちのデータ保護状況の調査を行なっています。調査期間は場合によって異なりますが、1日だけでなく2、3日かけて実施する場合が多いです。

欧州データ保護監察機関が単独で調査するだけでなく、各国のデータ保護機関と共同で調査を実施する場合もあります。ここまで欧州データ保護監察機関が警察組織とどのように関わりを持っているのか紹介してきましたが、決して欧州データ保護監察機関が警察組織へ疑いを持ちながら調査を実施しているわけでなく、信頼が置けないので定期的に確認を行っているわけでもありません。

欧州データ保護監察機関によって実施される調査は、民主主義社会において執行機関に対して適切にデータ保護が実施されているのかを確認するために必要な作業なのです。

調査後には結果をレポートで報告することになっています。欧州データ保護監察機関は年間通した活動報告をレポートとして公開しています

画像:監督機関と警察組織の協力関係

欧州刑事警察機構にとっても、データ保護機関の存在は非常に重要なものです。監督機関が警察組織で実施している市民のデータの取り扱いを間接的に理解しておくことが、市民の懸念を解くためには必要になります。

そういった意味でも欧州データ保護監察機関は非常に重要な役割を担っています。そして、私たちが欧州データ保護監察機関と協力する仕組みを持っていることも重要です。 欧州刑事警察機構がデータの取り扱いに対して透明性を持って取り組んでいることは誇らしいことです。

透明性を高めながらデータ処理を実施するためには、連携して物事を進めていくことが必要になります。私たち自身もシステム内で処理されるデータ保護の仕組みを理解しておくことが必要になるのです。

ユーロポールでの独立したデータ保護責任者の役割とは?

Kohei: ここまで連携に関するお話を紹介いただきありがとうございました。社会で暮らす我々にとっても市民のデータを取り扱う際の透明性については非常に関心がありますし、警察ネットワークでのデータの取り扱いについては非常に参考になりました。

ありがとうございました。次の質問はダニエルさんが担っている役割についてお伺いしたいと思います。データ保護責任者は独立した責任者として組織を支えているとお伺いしました。独立した責任者としてどういったお仕事をされているのでしょうか?

今後欧州刑事警察機構では独立した責任者としてどういった未来を描いていく構想ですか?

Daniel: 宏平さん。ご質問ありがとうございます。これはとても大切な質問です。欧州刑事警察機構のデータ保護責任者だけでなく、他の機関で活動されている人にとっても重要な質問だと思います。

一般的にデータ保護責任者と呼ばれる役割があるかと思いますが、私の場合は欧州刑事警察機構のデータ保護責任者としての役割を担っています。ここからは欧州刑事警察機構のデータ保護責任者が担う役割についてお話ししていきたいと思います。

独立した役割としてデータ保護責任者が設置されていると聞くと、データ保護責任者は何でもできるのではないかと勘違いされるケースがありますが、実際は好き勝手に物事を進めることができるわけではありません。私は組織内を統合する役割を担い、組織のマネジメントに対して内部アドバイザーの役割を担っています。

内部の人間として活動しているため、組織内のコンプライアンス制度を整えるような役割も担っています。外部の監督組織とも連携はしていますが、組織内部でデータ管理者を監督するような内部アドバイザーも必要になります。内部アドバイザーはマネジメントに対して検討すべき事項についての助言を行なっています。

画像:警察組織のコンプライアンス体制の強化

私の助言をもとにシステムをデザインしていくこともあります。ここでは独立性についての質問が出てくるかと思います。もしデータ保護責任者として私のように組織内を統合する役割を担っている方がいるとすれば、私が欧州刑事警察機構で働く中で直面する、かつ私自身も当事者である組織のヒエラルキー構造を理解することも必要です。

ここからは質問への解答に戻りたいと思いますが、独立した責任者として特に執行機関のヒエラルキーの中で活動しています。独立した役割は執行機関にとってはとても重要な意味を持っています。

ここから質問に戻りたいと思いますが、警察組織の中で独立した役割がどのような機能を持っているのか紹介したいと思います。

執行機関で働く際には独特のヒエラルキーを理解しておく必要があります。欧州刑事警察機構のデータ保護責任者はマネジメントメンバーに直接アクセスできることが非常に重要なポイントです。

データ保護責任者がマネジメントメンバーに対して、データ保護の懸念点について説明する役割を担うことは非常に重要で、欧州刑事警察機構のエグゼクティブディレクターに対して懸念点を伝えていくことが役割になります。

欧州刑事警察機構の中ではデータ保護責任者の役割が非常に重要であると認識されています。欧州刑事警察機構について定める法で取り決められているだけでなく、データ管理者は独立したデータ保護アドバイザーにデータ処理についての助言を求める必要性があるからです。

実際にデータ保護責任者は内部機能としてデータ処理を行うことによる影響について助言を行っています。例えば、システム開発やデザインを検討する場合が該当します。

データ提供者が被るリスクについてもデータ保護責任者が独立して関わることによって比較的低減されることになります。データ処理を実施する前段階から検討する必要がありますね。それに加えて、内部の独立したアドバイザーが存在することでデータ管理者に対して早期にアドバイスを実施し、懸念点を明確にすることができることも重要なポイントです。

どういったことが懸念点になりうるのか検討するだけでなく、データ提供者の基本的な権利やデータ保護を遵守しつつデータ管理者がどのようなデータ処理のデザインを行っていけば良いのかを考えることが役割です。

それ以外にも独立したデータ保護責任者として警察組織の2つの重要な安全対策を担うことになります。一つ目は欧州圏の公共サービスを司る組織のデータ保護責任者として唯一年間のレポートをマネジメントボードと欧州データ保護監察機関へ報告することが求められています。

定期的にレポートを提出することは独立したデータ保護責任者が安全性を向上させるための役割として担っている重要な要素の一つです。

ユーロポール内で実現する安全性対策

2つ目は法的な安全性についての対策です。データ保護責任者は組織内のトップマネジメントに対して重要事項を説明することが求められます。欧州刑事警察機構であれば、マネジメントボードのメンバーに対する報告ですね。

合わせて、欧州データ保護監察機関への報告も最終的には実施することになります。データ保護責任者が内部で十分にコンプライアンス対策が行われていないことを発見する場合もあります。こういった独立した役割を担っているのも私たちの特徴です。

法的な安全性以外には、データ保護責任者が信頼できる内部のアドバイザーとしてデータ保護対策に向けた役割を担っているということです。私たちのような役割は組織全体のシステムを考える上でも重要な役割を持っています。組織内ではデータ保護責任者を第二の安全性提供者と呼ぶこともあります。

データ保護執行機関は外部のデータ管理者として機能し、データ保護を遵守するためのコンプライアンス対策のために外部専門家として重要な役割を担っています。

私たちは非常に特殊な役割を担っているのです。データ保護責任者はデータ保護についての周知やトレーニング、コンサルティングをデータ管理者に実施するような役割も担っています。内部監査人と少し似ているかもしれませんね。

データ保護責任者は開発やデータ管理者のトップに対して法的な責務や実施すべき項目の通知を実施しています。データ保護責任者は独立した立場でここまで紹介したような重要な役割を担っています。

Kohei:興味深いお話をありがとうございます。ダニエルさんのお話をお伺いして、独立した役割を通して内部のオペレーションや実践的なアドバイスを通してデータ保護に取り組むための礎を築く役割を担っていることがわかりました。

ダニエルさんの役割は基本的な権利を保護するためにも非常に重要であると思います。最後に視聴者の方に向けてメッセージをお願いしてもよろしいでしょうか?

ダニエルさんがこれまでに経験されてきたことはコミュニティの方々にとっても非常に有益なお話になると思います。宜しくお願いいたします。

外部コミュニティと警察組織の連携

Daniel: ありがとうございます。宏平さん。いくつか私から最後にお伝えしたいことがあります。データ保護責任者は監督者として安全性を保護するための重要な役割を担っているとお伝えしたいと思います。

データ保護責任者は法的な確からしさに加え、規制分野の安全性について考えることが求められます。この分野は学際的で洗練された考え方を取りまとめていくことが求められます。

データ管理者は安全なデータ管理を実施する必要があり、グレーなデータの取り扱いは避けなければいけません。データ管理者が投資を検討する際には、法的に明確な基準を設けた上で検討することが必要なのです。

データ保護責任者や監督者はデータ管理者に対して非常に重要な役割を担っています。私からはデータ保護責任者の同僚の人たちに対してグレーな領域を明確にして、データ管理者が適切な意思決定ができるような役割を担ってほしいと伝えたいと思います。

もしこの動画を執行機関で働く人が視聴いただけていると嬉しいです。欧州域内ではこれまでの20年間に警察法のもとで執行機関は活動してきました。日本の警察組織でも同様だと思います。

開始当初は非常に小さな活動でしたが、現在では大きな動きになってきています。現在では警察組織に求められるデータ保護の領域も広がり、独自の対策が必要になりつつあります(対策を実施することが障壁になるとは思っていません)

執行機関は独自の対策を設定し運用していくことが求められます。法的に問題あるか否かに限らず、独自に線引きしていくことが執行機関には必要です。

私は執行機関の役割が他の公のサービスよりも異なるものであると考えています。制度設計に関わる人たちにとっても執行機関は特別な役割を持ちます。そのため、各執行機関は役割に沿った形で独自の対策を検討し、独自性が壁にならないような運用を検討しなければいけません。

最後に警察組織や執行機関におけるデータ保護やコンプライアンスに関心がある人は欧州刑事警察機構データ保護エキスパートネットワーク(EDEN)に参加して欲しいと思います。

私たちのネットワークが欧州域内で活動しているか否かは問いません。ネットワーク参加者の関心がある分野について共有することが重要なのです。関心がある方は、カンファレンスにも参加してみてください。それ以外には、宏平さんのようにまずはメンバーになってもらうことが良いかもしれませんね。

ただ、ネットワークを通してより関心のある分野について深ぼって行って欲しいと思います。基本的な権利におけるデータ保護について検討することが非常に重要で、執行機関においても同様な対策を考えることが必要になります。

Kohei: 貴重なメッセージを頂き有難うございました。データ保護コミュニティと警察ネットワークが連携してお互いの経験やリソースを共有していくことはとても大切だと思います。コミュニティの活動を通して、未来に向けた新しい活動を推進していくようなきっかけになればと思います。データ保護専門家の経験を共有することで、良いものを作っていければと思います。

ダニエルさんから連携についてメッセージを頂けたことはとても光栄です。改めて本日はお時間を頂き有難うございました。今後も連携しながら、議論を続けていきたいと思います。

Daniel: 宏平さん。本日はご紹介いただき有難うございました。執行機関の取り組みとデータ保護についてお伝えできて非常に光栄でした。

Kohei: 有難うございました。

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Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫


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