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Print House Session 藤原印刷で印刷

4人のデザイナーと4つの印刷会社がタッグを組み、横田大輔さんの冊子をそれぞれ作るプロジェクト、「Print House Session」。藤原印刷 x 町口覚チームでは、先月の工場訪問を経て打ち合わせを重ねてついに印刷です。

今回の冊子の印刷を見学する前に、先に藤原印刷さんの新工場を見学致しました。最新鋭のハイデルベルクの印刷機が入っており、ちょうど別途新しい写真集の印刷がされていました。

またその隣にはインクジェットデジタルプレスと呼ばれる製版の必要のない新しい印刷機もあり、こちらでは少部数の冊子やポスターなどにも対応しており、最近では写真家 石田真澄さんのポスターの制作も手掛けたとのこと。従来の版を使うオフセット印刷に比べかなりコストも抑えることが出来るとのことなので、作家の方でもし少部数での作品集の制作に興味があれば相談してみたら色々可能性が広がるんじゃないかと思いました。コストダウンの他に、コート紙だけではく、様々な紙を使って印刷できることも強みです。

今回、町口覚さんがPrint House Sessionの印刷はこれら最新鋭の印刷機ではなく、藤原印刷の工場の中でも最も古い印刷機を使うとのことで、その辺りの話も聞いてきました。

前回の工場見学の際にも少し触れましたが、創業者の藤原輝さんが遺した「心刷」という一文字一文字に心を込めて仕事をするという言葉を守りながら藤原印刷は仕事に取り組まれています。その話も踏まえながら、町口さんが選んだ印刷機は藤原印刷の歴史の始まりとも言える和文タイプライターでした。

町口さんは藤原印刷と仕事をするのは今回が初めてです。
町口さんくらいのキャリアがあると実際に工場に伺わなくてもどういった印刷機があるのかがわかればどういった印刷が可能なのかっていうのはわかると思うのですが、町口さんは最初の打ち合わせの時から、印刷は機械がやるけど最終的には人なんだ。と仰られていました。

最新の印刷機ではなく昔からある印刷機でどういった本が出来上がるのだろうかと思っていましたが、藤原印刷の藤原章次さんにお話を伺ってビックリしました。

まず紙なんですが、本文用紙が竹尾社の「MBSテック」という不織布です。一般的に使われる紙の20倍くらいの価格の紙とのことでそれだけでもビックリです。触ってみると本当に布のようで、まずこの紙に狙った印刷が出来るのか?製本がうまく出来るのか?というところからスタートしました。

印刷が出来ることが確認された後その紙に印刷していく訳なんですが、今回使う色についてもまた驚きでした。
通常の印刷ではCMYKと呼ばれる色の表現方法が持ちいられており、理論上ではCMYによって全ての色を表現できるとのことです。今回使用するのは特色インク。特色というのは、基本のインクでは表現出来ない色を出す為にあらかじめ調合されたインクです。
それらの色も町口さんと藤原さんの打ち合わせの中からこの色にしようと決まったものです。町口さんから原稿をもらった藤原さんは正解のないパズルを解くように何度も試しながら印刷します。
一例を挙げると「B→C→M→Y版をY→M→C→Bにチェンジ」や、「シアンとイエローにインキを混ぜて印刷」、「銀ベタに蛍光プロセス」など。

そして藤原印刷の現場で試行錯誤しながら印刷した何種類もの色校正紙の中から町口さんが選ばれた組み合わせの色は、藤原印刷のコーポレートカラーの「蛍光オレンジ」、名刺に心刷を箔押ししている色の「金(赤口)」そして創業から今年で64年目なので「DIC-64」と「スミ」の4色でした。ちなみに、「DIC-64」という特色はコート紙で印刷した元の色は、今回のMBSテックという不織布に印刷した色の違いは一目瞭然です。

そして、それらの色を使いながらより良い印刷が出来るようにここのインクを盛ろうとかこのインクは下げようとか珍しい紙に何度もテストを繰り返しながら印刷を進めていました。少しでも色の知識がある人には、今回の4色の組み合わせがとんでもないバランスだということがわかると思います。また蛍光色はインクを盛ると滲み、金色は個性を失います。答えのない答えを見つけるべくプリンティングディレクターの鈴木さんは色のバランスを調整していました。

そして、今回もう一つの目玉となるのが、藤原印刷の起源とも言える和文タイプライターで町口さんが敬愛する織田作之助の短い文章も収録されています。和文のタイプライターは欧文タイプライターとは違い平仮名、カタカナ、数字、漢字と文字数が桁違いです。
本社工場の玄関に飾ってある展示用の1台のタイプライターをメンテナンスし、社内で唯一タイピストの資格を持っている社員に依頼して、25年以上ぶりに一文字一文字タイプして組版したと聞きました。
PCで作る原稿と違いタイプライターではどんなに慎重に打ってもほんの少しだけ文字が揃っていないので、それがまた味でもあるように思いました。
なぜ織田作之助なのか、今回の冊子について全ては町口さん自身の書かれた後書きにおいて明かされます。是非手にして確認してもらいたいと思っています。

印刷技術やデザインの新しさ、面白さとは全然違った切り口で作られる今回の冊子。藤原印刷のヒストリー、そしてそれを酌み取って全体のディレクションから構想した町口覚さん、作品を提供してくれた横田大輔さん、製本を担当してくれた篠原紙工さん、まさしく今回のイベントタイトル通りのセッションです。


先月工場見学からの帰りのタクシーの中で町口さんが僕に
「こうやって人と会って、話して、みんなで一丸となって進んでいく、これが人との『関わり』ってことだよ。」
と教えて頂いたことは忘れないと思います。

4デザイナー、4社、それぞれが全く別の切り口で横田大輔さんの冊子を作っています。今から楽しみでなりません。
全て500部限定で、1日1つの作品だけしか配りません。写真集ファンは是非コンプリートしてみてください!

(写真/文章 Photobook JP)

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