見出し画像

日本とカナダの教育の違い~社会教育の目的は?(2023年11月更新)

(写真は11月4日未明撮影のオーロラ!@ Edmonton, Alberta)

歴史と地理が大大大好きだけど数学教師になる筆者のぺいとんです。今回はカナダと日本の学校における社会科の教え方について語りたいと思います。カナダ高校留学に興味がある方にとって参考になるように高校の社会科教育や選択科目の話を主にさせていただきます。

日本の社会教育の特徴

・範囲が広い(詰め込み型)

日本の歴史はみんな石器時代・縄文時代から始まって現代社会まで至る長い範囲をみっちり習いますよね。この範囲を中学3年間でやります。さらに日本・世界の地理、そして公民も広く浅くやります。

・教科書しか使わない

ほとんどの方は時事問題を除けば教科書のみで授業を進めていたかと思います。やはり範囲が広いのでひとつひとつの歴史上の出来事を様々な視点から見ることはなく、次へと進むのでしょうか。

・暗記が多い

塾講師として中学2年生の社会を担当していましたが、未だにテストや問題は人名や出来事の名前の暗記に重点がおかれていることに気づきます。やはり高校入試へ向けてこういうことをせざるを得ないのでしょうか。しかし、2021年から導入された大学入試共通テストの歴史・地理に関しては暗記よりも思考力を問う形になったので、学校での社会の授業もそれを反映するようになるといいですね。

・歴史修正主義(historical revisionism)

南京大虐殺や慰安婦問題、第731部隊の残酷な人体実験という大日本帝国の犯した罪をカナダの社会の授業やネットの情報で初めて見ました。しかしながら、私の日本の地元の中学校の歴史の教科書にはそれらの出来事についてひとことも書かれていませんでした。石器時代や戦国時代をはじめとする、さまざまの時代の騒動や政策、人物と文化については詳しく話しているのに、日本政府にとって都合の悪い内容は含めないようになっています。これを学校でしっかり教えている先生は果たして、いるのでしょうか。それとも入試には出ないし、国にとって悪印象だから無視するのでしょうか。

カナダの社会教育の特徴

・習うことひとつひとつの目的が定まっている

歴史という分野で教えられることは数え切れません。以下の学習指導要領に記載のとおり、カナダでも幅広い年代を扱うのはたしかです。しかし習っていることは今日の社会にも活かせることが多いです。(日本の歴史で人物の名前や戦の名前がいっぱい出てくるのは意味あるのか...汗)たとえば古代文明の暮らしから当時の都市の機能や政治・法律の役割を現在と結びつけることができますし、植民地化や帝国主義の影響は今にも及ぶので習う価値は大きいです。Grade 9 もしくは 10 ではカナダの移民の歴史にも少し触れますが、駒形丸事件や中国移民税・BC州での鉄道建設の過酷な労働環境といったアジア系の方への差別的な政策についても習います。今の世界でも多く見る差別は昔からあるということに気づかせる目的もあってこれを教えていると伺えるでしょう。また、イデオロギーは過去の歴史にも今の政治にもつながるみんなが知っておくべきこと。これをふまえ筆者の通った高校では mock election (模擬選挙)を行って選挙を身近にさせようという働きもありました。

・様々な情報元から物事を見る

教科書は学校にありましたが、それ以外の動画や先生の配布物なども頻繁に使いました。なかでは自分でネットで調べて自分の意見を立てるといった課題もやりました。カナダの社会科教育では様々な視点から物事を見る重要性を教えている気がします。これは「教科書が正解だ」とも思われる日本の教育とは違います。一次資料と二次資料の見分け方も中学生のうちの早い段階で習い、生徒ひとりひとりが信頼できる情報を探すスキルを身に付けることも重要視されています。フェイクニュースが出回る世の中でこそ必要なメディアリテラシーですが、これも身につけるのがカナダの社会科の授業の重要な役割ですね。

・カナダの先住民について教えないといけない

カナダはヨーロッパ系の移民によってできた国であり、元々は今でいう先住民 (Indigenous People) と分類されるさまざまな民族 (tribes) が暮らしていました。しかし、英国移民とフランスからの移民が中心となって建国されたカナダでは先住民・先住民の言葉と文化を排除して「カナダ人化」させるための抑圧的な政策をいくつかしました。例えばですが、
Residential School(寄宿学校制度)
Sixties Scoop (60年代に主に起きた、先住民の子どもたちを家族から奪い、白人家庭に強制的に住ませる政策)

先住民族の子どもたちは親元から奪われ、英語をしゃべることを強いられ、思い返すのが辛くなるような暴力や暴言も日常的に行われていました。家族に返されても母語を忘れてしまい、うまくコミュニケーションをとれない日々も過ごしていました。

政府による謝罪も近年はありましたが、この事実を忘れさせてはいけないということから各州の教育省の定めにより、先住民の教えや先住民の歴史をカリキュラムに入れることが義務付けられています。

ただし、重要なのは先住民の歴史を暗いものとして見るだけでなく、先住民族から学ぼうという動きもあることです。近現代教育で多く用いられる教科書での勉強をせず、先住民族の教え方を使う努力をするのも最近の教育学部の講義で目立つ指導内容です。<口と体で伝える・手を動かす・自然から学ぶ・コミュニティ作り>というフォーカスはみなさんの教室でどう使えますか?例えば、数学では三角形の辺の特徴を糸を使って読み解くアクティビティをグループでやったり、社会の議論では Talking Stick と呼ばれる道具を使って話す場を共有することができます。これらの指導法は先住民族の学び方だからやるべきだけでなく、より engaging で inclusive な学び方だからするべきということにもゆくゆく気づくはずです。

なお、日本にもアイヌの方たちが今でいう北海道にいましたよね。でも、日本政府が同化政策を通してアイヌの文化を消滅させようとした事実は誰も学校で教えてくれません。

BC州における Secondary 社会科の学習指導要領

各学年のテーマ例

Grade 7(~7世紀まで)*Grade 7 はBC州では小学校にあたる
人類の始まり 古代文明の暮らし・政治・文化と地理
Grade 8 (7世紀~1750)
さまざまな社会の仕組み 科学の進歩 貿易 世界探索
Grade 9(1750~1919)
カナダの建国 帝国主義・植民地化・ナショナリズム 移民・世界の人口
Grade 10(1919~)
世界大戦でのカナダ イデオロギー 人権 
国際紛争 カナダ・世界での差別

(2018年までは必須科目の Social Studies 11 が存在しましたが、カリキュラムの再編により廃止されました)

Grade 11・12 になると社会は選択科目になります。社会科の選択肢はたくさんあり、僕は高校で

Physical Geography 12 (自然地理) 
Law Studies 12(法律)
Economics 12(経済)
Twentieth Century History 12(20世紀の歴史)。

Physical Geography ではウィスラーへクラスで修学旅行に行きましたし、なによりも先生が大好きでした。Law Studies 12 ではカナダの法律や国民の権利と自由憲章について学びました。ケーススタディや刑事ドラマを通じて習った法律を応用する形で授業を進めていました。先住民や過去にあったアジア系の移民に対する差別的な法律を習ったのも印象に残っています。Twentieth Century History 12 の先生はナチスドイツとホロコースト、そして太平洋戦争に焦点をあて、ここでは差別的な政策からの教訓や原爆投下が適切だったかの論議が繰り広げられました。

ちなみに Economics 12 は先生が授業中に極小の文字のワードを読み上げるだけでつまらなかったし、テストは過去問をリサイクルしていたので余裕でAが取れたのであまり勉強しませんでした...

Grade 12 の選択科目がこんなに?

さきほどは僕が高校で取った社会科の4つ選択科目について語りましたが、BC州のカリキュラムにはこんなにある!さすがにひとつの高校ですべてが取れるとは限りませんが、高校の社会科がここまで細分化・多様化しているのはすごいですね。

* は筆者の通った高校で教えている科目

20th Century World History 12*(現代史)
Asian Studies 12(アジア学)
B.C. First Peoples 12*(BC州の先住民)
Comparative Cultures 12(文化比較学)
Comparative World Religions 12(宗教比較学)
Contemporary Indigenous Studies 12(現代社会におけるカナダの先住民)
Economic Theory 12*(経済理論)
Genocide Studies 12(虐殺史)
Human Geography 12*(人間地理)
Law Studies 12*(法律)
Philosophy 12*(哲学)
Physical Geography 12* (自然地理)
Political Studies 12*(政治学)
Social Justice 12*(格差や権利にまつわる社会学) 
Urban Studies 12(都市学)

他の州の高校社会教育は?

筆者の大学のあるアルバータ州、オンタリオ州、そしてノバスコシア州の3州の高校社会カリキュラムをBC州と比べていきましょう。

・アルバータ州

アルバータ州ではBC州のように細分化された選択肢はあまりないです。
高3レベルでは Social Studies 30-1(文系・大学進学コース)と Social Studies 30-2(普通コース)に分かれているのみです。しかし学校によっては Aboriginal Studies (先住民学)や AP European History のコースなどがあります。(APについてはこちらの記事をチェック!)

なおアルバータ州の高校社会科のフォーカスはそれぞれ
高1では Globalization
高2では Nationalism
高3では Liberalism   になっています。

こう見ると文系や社会が好きな学生にはアルバータへの高校留学はおすすめできないかもしれません。

・オンタリオ州

(オンタリオ州教育省の定める高校課程カリキュラムの科目の分類上は Canadian and World Studies の分野のみの科目について話します)

Grade 7 と 8 ではカナダの建国期、高1では第1次世界大戦 (World War I) 以降のカナダの歴史を見るあたりはBC州と似ています。そしてBC州と同じく高1まで社会は必須、高2以降は選択です。ひとつBC州との違いを挙げるとすれば、世界史では高2で15世紀、高3で15世紀以降に焦点を当てることでしょうか。

高3ではそのほか、
CGW4U, World Issues: A Geographic Analysis(世界の地理)
CHI4U, Canada: History, Identity, Culture
CIA4U, Analysing Current Economic Issues
CPW4U, Canadian and International Politics
CLN4U, Canadian and International Law

などが選べます。オンタリオ州の社会科目もかなり細分化されていて、学校によっては選択肢がかなりあるようです。

・ノバスコシア州

ノバスコシア州の社会科教育の方針はBC州と似ている部分が多いですが、ノバスコシア州特有と思われるコースは以下のとおり:
African Canadian Studies 11, Gaelic Studies 11, Mi’kmaw Studies 11
スコットランドのゲール系移民やアフリカ系移民に特化した科目とノバスコシアの先住民・ミクマク民族が特徴的です。

まとめ

地域色が大きく表れる科目だったり、生徒個人個人の興味に沿った豊富な選択科目も魅力的ですが、やはり社会で活きるスキルや知識に焦点をあてるカナダの社会教育は日本より優れているポイントは多いと感じます。受験がない分、先生の教え方も人それぞれで情熱を感じられるところが個人的には楽しかったです。

筆者のひとこと

本心は社会の先生になりたいけど、社会の先生は就職難になることが多いらしい(経済で習った需要と供給ですね…笑)あと大学では歴史の授業でのエッセイが大変という印象を持っていた。数学のほうが需要があるので、仕事があるし、やはりニガテと感じる人の多い数学をおもしろくする挑戦のほうが面白いと思った。だから今は数学の先生を目指しています!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?