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「ゲーム」×「EC」研究第三弾 エルデンリングに見る体験創出のヒント 〜出会・共感編〜

皆さんゲームはお好きですか?

カードゲームの「トランプ」や「UNO」、ボードゲームの「将棋」や「チェス」、そして「Play Station5」や「Nintendo Switch」を始めとするビデオゲームなど、世の中には様々なゲームがあり、いずれも楽しい体験を与えてくれます。

そんな楽しいゲーム体験が、ECでの顧客体験にも活かせたら良いと思いませんか?
今日はそんなお話。

こんにちは、ペンシルです✍️
ペンシルの研究開発部門であるヒューマナライズマーケティング研究室特殊研究機関『is』のラボメンNo003、橋本と申します。
日頃はアンケートの設計やデータの集計・分析業務をおこなっています。

この記事はゲーマーでもある筆者が、ゲーム理論や実際のゲーム体験から、ECにも活用できる体験創造のポイントを考察していこうというものです。今日は全4回のシリーズの第3弾です、前回記事をまだご覧になっていない方はそちらも一読いただけると、より理解が深まると思います。

▼前回記事はこちら▼

上記はゲーミフィケーションで有名な『バートルテスト(バートルの4分類)』を元に、エルデンリングに見られる工夫を考察したものですが、今回は右下の『ソーシャライザー』について深ぼっていきます。

※ 元のバートルテストについては第一回記事をご参照下さい。

ソーシャライザー 『出会いと共感』

他のプレイヤーと交流することに価値があり、ゲームはそのためのツールと捉える、それがソーシャライザーです。

このタイプのプレイヤーにとってゲームの中身は実はそれほど重要ではありません。

・ゲームを通してどんなコミュニケーションをとることができるか
・その結果どのような影響力を持つことができるか

これらが彼らにとって重要な問題です。
バートルの論文の中でも「ソーシャライザーは自分の友情、人脈、影響力を誇りにしている」と述べてられています。

そんなソーシャライザーですが、彼らは4タイプの中で最も不安定なグループとされています。
なぜなら彼らはゲーム自体への愛着が強いわけではないので、コミュニケーションをとれる人口(人気)が減ると、面白みがないと判断して去っていってしまうからです。また、キラーのように攻撃的なアプローチを取ってくるプレイヤーが多くなった場合も、プレイが邪魔される機会が増えるので同様にゲームから離れていってしまう傾向があります。

そのため、ソーシャライザーの体験向上のためには

・コミュニケーション活動に参加するプレイヤーを増やす(維持する)こと
・コミュニケーション手段を工夫すること
・他タイプのプレイヤー(主にキラー)との共生を図ること

この3つが重要になります。
ちなみに後者2つに関しては次回解説予定の『キラー』領域と非常に密接な関わりがあるので、今回は「ソーシャライザー人口を増やすこと」にフォーカスして解説していきます。

エルデンリングにおける出会いと共感

ソーシャライザーが楽しめる土壌を作りとして、コミュニケーションを取るプレイヤーを増やすにはどうすればよいのでしょうか?

具体的な考察に入る前に一つ注意点があります。
それは『エルデンリング』は決して「ソーシャライザー」要素が強いゲームではないということです。しかし、アクションゲームでありながらもコミュニケーション領域にユニークな設計がなされている本作には見習うべき点もあります。

1つ目のポイントは「コミュニケーション≠双方向的」です。

コミュニケーションと聞くとチャットのような双方向的なものを想像してしまいがちですが、そもそもコミュニケーションとは『情報伝達や意思疎通を目的とした行動を指す言葉』であり、一方向的な情報発信であっても、それを受け取る者がいて、行動の変化を与えることができるのであれば、それも立派なコミュニケーションです。

確かにチャットのような双方向的なコミュニケーションは、他プレイヤーとの深い交流が可能ですが、同時に負担が大きいというデメリットもあります。そのため苦手とするプレイヤーも一定数存在するのが事実です。これは戦略の問題なので、双方向と一方向どちらが良い悪いという話ではないのですが、コミュニケーションを取るプレイヤーを増やすという視点に立った時、負荷が少ない、一方向的な手段にフォーカスしてしまうのも1つの手です。

エルデンリングのユニークな点は、その一方向的な情報発信にプレイヤーの存在自体を活用することで、情報発信の負担を下げながら、誰もが他プレイヤーとの緩やかな交流を体験できるように設計しているところにあります。

それが『幻影』『血痕』という、同じエリアをプレイしている他プレイヤーの姿やゲームオーバーの痕跡を可視化ことによって、プレイヤーに一体感や緊張感を与えるシステムです。
これらはオンラインでさえあれば自動で実行されるので、プレイヤー側への負担はほぼありませんし、緩やかではありますが全てのプレイヤーにコミュニケーション体験を与えることができています。

【血痕】

「血痕」=「Game overの痕」なので、血痕が多くある場所では緊張感が増す。

【幻影】

ダンジョン内では自分と同じようにプレイしている他プレイヤーの幻が時折表示される

プレイヤーに行動を起こさせるのが難しいのであれば、その存在自体を可視化することで、一種のコミュニケーション体験にしてしまうのは非常にユニークな点です。

2つ目のポイントは「コミュニケーションがゲームプレイの目的に合致していること」です。

バートルの4分類でも示されている通り、ゲームをプレイする目的やモチベーションは人によって様々です。そのため、コミュニケーション行動を多くのプレイヤーに促したいのであれば、その行動がどのタイプのプレイヤーにとっても価値を持つようにデザインする必要があります。

エルデンリングの優れている点は、「広大なゲーム世界を冒険し、高難易度のダンジョンを攻略する」という体験の核に対して、しっかりと噛み合った形でコミュニケーション行動がデザインされているため、ソーシャライザーではないプレイヤーでもゲームプレイの中で自然にコミュニケーション行動を取れるところにあります。

それをよく表しているのが『メッセージ』機能です。
メッセージと言っても他プレイヤーに対して自由に文章を送信するような類のものではありません。用意された単語の組み合わせで文章を作り、落書きのようにフィールド上の建物や地面に書き込めるというものです。ちなみにメッセージに対して評価を行う機能もあります。

 先にこのエリアを通った先人が抜け道を教えてくれる

注目すべきは4タイプ全てのプレイヤーにとってメリットのあるものになっているところです。

【ソーシャライザー】
攻略のヒントなどを書けば間接的に他のプレイヤーに関わっていくことができますし、自身の影響力は評価数で確認することができます。

【アチーバー・エクスプローラー】
登頂した山に旗を立てるように、挑戦の達成や発見の感動を表現・共有することができます。また、彼らにおいては誰よりも早くメッセージを刻むことも1つの勲章になりえます。

【キラー】
あえて嘘の情報を書くことで、他プレイヤーを窮地に追いやり、その様子を幻影を通して楽しむことができます。こういったロールプレイが許容される世界観なのも面白いポイントです。

このようにしてコミュケーションを取るメリットを「ソーシャライザー」以外にも上手く提示できれば、コミュケーションを取る人口を増やしていくことができます。

コミュニティの活性化に必要なのはライト層

前章では「ソーシャライザー」タイプの体験の質を高めるために、そうでないプレイヤーにアプローチすることでコミュニケーション行動を促し、結果として「ソーシャライザー」人口を増やすという話をしました。

では、これをECに置き換えてみるとどのようになるのでしょうか。
「ソーシャライザー」の定義は以下のようになると考えられます。

『商品自体やブランドの世界観ではなく、それらを通して他の顧客と交流することを好み、コミュニティサイトなどを積極的に利用するタイプ』

次にECのどういった領域に関わってくるのかという点ですが、やはり

・コミュニティサービス(サイトやアプリ)

といった部分になってくるかと思います。
とはいえ、コミュニティサイト運営に関する課題やポイントをここで語り尽くすことは、本記事の趣旨から外れるため、今回は『エルデンリング』から見えたポイント1点に絞って深堀りを行おうと思います。

結論を先に述べると

コミュニティを活性化させるにはライト層をいかに増やすかが重要

ということです。

序盤でも紹介しましたが、ソーシャライザータイプはそれ自体の人口に影響を受けやすい不安定な顧客です。そのためコミュニティへの参加ハードルを下げ、ソーシャライザーではない顧客を可能な限りコミュニケーション活動に関与させていくことが鍵になります。

しかしながら、実際にコミュニティサービスを作ろうとするとトークスペースなど、能動的に他者と強く繋がろうとするコアユーザーを念頭に置いたものが先行してしまいがちです。
勿論、コアターゲットを念頭に設計するのは何も間違っていません。ただ、大多数であるライトユーザーにはハードルの高いサービスになってしまうこともあるので、新規が定着しないリスクを高めてることも忘れてはいけません。

ここでエルデンリングから見えた工夫を振り返ってみましょう。

1つ目は「プレイヤーの存在を認識させ、緩いつながりを作る」でした。
これをECに適用してみると、例えば会員の商品やサービスの利用ログが可視化されることで、ユーザー同士が互いの進捗状況を見ることができ、それによってモチベーションの向上や共感が図れる機能になります。

ダイエットのように達成目標を数値的に評価することが可能で、かつ難易度が高めのものに関してはかなり親和性のある仕組みと考えます。

実際の例としてはアメリカの家庭用フィットネスバイクブランド「Peloton」などが挙げられます。

https://wired.jp/article/peloton-lanebreak/

Pelotonではエアロバイク本体だけではなく、インストラクターによるエクササイズ指導がオンラインで受けられるサブスクサービスも販売されていますが、このインストラクターによるライブ配信は1度に数千人もの人が参加し、他の参加者と順位を競うことができます。

体験型のサービスではあるので一般的なECと性質は異なりますが、他のユーザーの存在あるいは履歴が可視化されることで、相互にモチベーションを高めているのは面白いポイントです。

もう少しEC寄りの例を上げるのであればファッション通販サイトZOZOTOWNの提供するコーディネート共有サービス「WEAR」なども良いでしょう。

https://wear.jp/brand/zozo/

これはファッション特化のSNSのようなもので、ユーザーは自身のコーディネートを好きに投稿したり、他のユーザーの投稿から服をECで検索することができます。

投稿者側が自分の意志で画像の投稿をする必要はあるものの、双方向的なコミュニケーションには重点が置かれていないので、記録に近い性質をもっており、ハードルはかなり低めになっています。
また、他のSNS同様フォロワーの概念もあるので、自身の影響力を数値で確認することができるのは、「ソーシャライザー」にとっても良い要素です。


そして2つ目が「コミュニケーションをゲームプレイの体験の核に合致させる」でした。
これをECに適用してみると、例えば商品利用による挑戦の過程を他のユーザーと共有し、励まし合うことでモチベーションが維持できるようなコミュニケーション機能になります。

1つ目と似ており、これもダイエット商材のようなものを例に考えると想像しやすいです。
実際の例としては完全栄養食ブランドの「BASEFOOD」で実施されている「BASEFOOD CAMP」などが挙げられます。

これは目標体重などを設定した上で、1ヶ月間BASEFOODの商品を食べるというものですが、期間中に目標宣言や食べた報告、質問をすると栄養士からアドバイスが貰えたり、他のユーザーから励ましの反応を貰えたりします。

コミュニケーションの目的が他のユーザーと交流することではなく、自身の挑戦をやり遂げるためのモチベーション維持にあるので、ソーシャライザーではないユーザーでもコミュニケーションにメリットを見出すことができ、アクションのハードルを下げています。

まとめ

いかがでしたでしょうか?
今回はバートルの4分類の1つ「ソーシャライザー」という切り口から、エルデンリングを参考に、ECに活用できる体験創造を考察しました。
まとめるとこのようになります。

【ソーシャライザータイプ】
:他プレイヤーとの交流に喜びを感じるタイプ。
 ゲーム自体にはあまりこだわりがないが、ゲームにどのくらい
 コミュニケーションをとれるプレイヤーがいるかには影響を受けやすい。

【交流体験の質を高めるために重要なこと】
:コミュニケーションがとれるプレイヤー数を増やす、そのために
 ・ゲームプレイの目的とコミュニケーションを合致させる
 ・双方向的ではない負担の少ないコミュニケーションも用意する。
  →具体的にはプレイヤーの存在自体を活用し、自動的に緩いつながりを発生させるなど

【ECへの活用】
・ユーザーの行動を一部可視化することで、発信側の負担を減らしつつも、ユーザーが他者の存在や活動を見ることでモチベーションを維持できるようにする。
・他ユーザーとの交流自体が目的ではなく、コミュニケーションの先にしっかりとメリットが存在する体験設計を心がける。


第4回は「キラー」について考察する予定ですので、次回もお楽しみに!

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