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展示会/「シンプルブース」が集客に成功する理由 | 「戦略的シンプル」と「シンプル」の違いとは?

展示会に携わる経験年数が多い方ほど、「ブースは目立つように。形状は派手な方がいい」、そう思われる方も多いかもしれません。

そんな方から見ると、当社のブースはとにかくシンプルで、「こんなブースデザインで来場者が集まるわけがない」、とそう思われるかもしれません。

今回は、そんな「シンプルブース」の話をします。
本稿のポイントは、「ただのシンプル」と「戦略的なシンプル」は異なる、というものです。そのことをお伝えしていきましょう。

「シンプル」。でも、集まる。

当社を知る人は、当社デザインのブースを見て、「とてもシンプルですね」、と表現されています。
でも、周囲のどのブースよりも人が集まります。

基本的に曲線や斜め線は用いないシンプルな形状の展示会ブース
シンプルなデザインでも来場者は安定的に寄って来ています。

なぜ、当社のようなシンプルなブースが、「目立つように」して作ったブースよりも集客ができるのでしょうか。
当社のブースは、一見して形状的な工夫も見られず、至ってシンプルな形状をしています。当社のブースを以前からご存じの方の中には、「こんなシンプルなブースで来場者が集まるわけがない」、「デザインがいいだけだ」。そう思っていらっしゃる方も少なくないのではないでしょうか。しかし、実際には当社のブースは展示会場内において周囲のどのブースよりも来場者を集めることに成功しています。

上記の写真のブースでも、来場者さんは安定的に寄ってきていただいていました。その際の動画、出展者のROSY LILYさんがアップしていただいています。

ROSY LILYさんは、「水を使わない、靴のシャンプー」を扱う会社様。
この商品、個人的にもかなりお勧めです。(HPのリンクは記事の最後に)

「来場者の心理」を基にした「空間デザイン」

では、なぜシンプル極まりない当社のブースが集客出来ているのでしょうか。それは、ブースをデザインする手法が「来場者の心理」をベースにした「空間デザイン」によってブースが考えられているからなのです。

空間デザインの考え方については、別の記事にて詳しくお話ししますが、ブースを考える際に、「形状の工夫」から考えはじめるのではなく、まず「来場者にどう感じてほしいか」を考え、その心理に対して必要な壁、梁などを設けるように考えているのです。

目立つようにして、インパクトがあるようにして、といった手法でブースを考える場合、まずは「形態操作」からブースのデザインを考えることになります。遠目から目立つ形状はなにか、どんな形だったら来場者を引き付けられるのか、といったように。しかし、それだけだと、見込み客を的確に呼び込めるとは限りません。また、見た目的な印象でブースを構築することになるので、必然的にブース形状は複雑になり、記載内容もごちゃごちゃしたものになりかねません。

空間デザインの場合、まずはその場を使用する「来場者の心理」から発想を開始します。来場者にどう感じてほしいのか、そのためには何があればいいのか。来場者にブースでどう動いてほしいのか、そのためにどうすれば、意図したように動いてくれるのか、という感じです。このように「来場者の心理」から考えてブースを構成すると、形状は極めてシンプルなものとなり、掲示する言葉も必然的に最小限のものになるのです。

一見シンプルに見えるこのブースにも、集客のための様々な仕掛けが施されています。

戦略的に配置した集客の工夫とは?

さて。では、このような来場者の心理を基にしたシンプルブースにはどんな工夫がされているのでしょうか。その一部をご紹介しましょう。

1.通路際に配置した展示台

1つめは通路際に展示台を配置することです。来場者は、限られた時間内で効率的により多くのブースを回りたいと思っているもの。その心情には出展者スタッフに「つかまりたくない」と思う心理がある、とみるべき、と考えています。これは、私たちが日頃商業施設で買い物をする時の気持ちを考えるとご理解いただけるのではないでしょうか。展示会でもそれは同じ。
ブースの奥に展示台を置いていると来場者はなかなか入ってきてはくれません。まずは通路から手を伸ばせる範囲に商品を設置し、どんな商品かを探ることができる場が必要になって来るのです。

通路際に展示台を設置すると、来場者は近づきやすくなります。

2.印象良く商品を設置する

2つ目は、商品の設置の仕方。つまりは陳列方法です。展示会は店舗ではないので、商品のストックを大量に置く必要がありません。その商品を印象良く見せ、それが「どんな商品なのか」を分かりやすくすることが大切になるのです。そのために商品を周囲に一定の余白をあけながら丁寧に設置。背景に白い壁を配置し、その商品が印象良く目に入るようにします。この「背景」をつくることは、どんな展示会(例えば機械系など)のどんな商品であっても「印象良く見せる」ことの分かりやすい手法ですので、是非試してみて下さい。
そして、商品の上部にその商品の解説を入れるようにすると、この商品がどんなものなのかが一目で分かるようになります。

商品には「背景」として白い壁面を置くと印象良くなります。

3.「何を扱っているか」を分かりやすく掲示する

3つ目は、このブースが何を扱っているのかを分かりやすく掲示する、というもの。展示会出展時に知っておいていただきたいこと、として「来場者がブースの前を通り過ぎるのは本の数秒」ということです。
今回のブースの場合、横幅は6m、奥行きは3mのブースです。通路に面する6mの前を通り過ぎるのは、何秒程度でしょう? また、向かいや周囲にブースがあることを考えると、ブースを見てくれるのは、ほんの一瞬しかない、と考えるべきだと思います。
そんな「ほんの一瞬」で「寄ってみよう」と来場者に思っていただくためには、わずかな時間で「何を扱っているブースなのか」が理解できなければいけません。

来場者の視線の先に「何をあつかっているか」が分かるように掲示
ブースの側面にも、同じ言葉を掲示しています。大きくなくても大丈夫。

このブースでは、来場者の「頭より上」の位置に「水を使わない、靴のシャンプー」との言葉を掲示しています。この言葉も「瞬間に読める」ように文字組、言葉の選びからなどを工夫する必要があります。今回掲示の言葉。ひらがなの「の」や「を」を少し小さくしていることにお気づきでしょうか。

これらの写真を見ると、「もっと文字を大きく書いた方がいいのではないか」とのご意見を仰る方も出てくるのではないかと思います。もちろん、大きく書く必要がある時は大きく書きます。しかし、ただ「目立たせたい」という気持ちだけで「とにかく大きく」という考えは間違いです。
言葉を記載する時は、まず「どの位置から読んでほしいのか」「どんな状況で読んでほしいのか」を考えます。それにより、文字のサイズが決まってきます。また、ブースの「印象づくり」を考慮することも大切です。商品の特徴上、印象良くする必要がある場合に、闇雲に「ただ大きく」という選択をしてしまうと、出展している商品やサービスの印象を下げてしまう場合もあるのです。

4.「滞留時間」を伸ばす工夫をする

4つ目の工夫として、ブースの内部、つまり奥をどう設えたかについてお話ししましょう。来場者さんの心理として、「誰かがブースにいると近づきやすくなる」というものがあります。誰もいないと、なんとなく「つかまってしまうのではないか」と近づきにくい。でも、誰かがいると近づきやすい。これって皆さんも共感していただけるのではないかと思います。

ブースの奥は、実際に「靴のシャンプー」を試せる場所に。
実際に自分の靴をその場で洗ってみる。「滞留時間が延びる」のが実はポイント。

今回の計画では、ブースの奥に実際に自分の靴を洗うことを試せる場所があります。四角い箱は、当社では「箱イス」と呼んでおり、腰掛けることも出来るし、荷物を置くことも出来るツールとして用意しています。
ここで大事なことは、ブースの奥に「常に誰か来場者がいる状況を作り出すこと」です。ですので、ここで自身の靴で試していただくと、滞留時間が延び、それがブース全体の集客に影響を与えることになるのです。

いかがでしょうか。
これら以外にもこのブースには様々な考えを盛り込んで計画を行っています。一見シンプルでも、全ての箇所が戦略的に考えられており、「ただのシンプル」ではないことがご理解いただけたのではないかと思います。このように戦略的にブースを考えて、その考えをブースに反映すると、自然と「余計な装飾」が省かれてきて、結果として「シンプル」になるのです。このようなブースを「戦略的シンプルブース」と私は呼んでいます。

シンプルブースによるブース構築のメリット

このような「戦略的シンプルブース」、つまり「空間デザインによるブース構築法」には、大きなメリットがあります。それは、形状がシンプルになる分、設営コストを安く抑えることができるのです。
特異な形状、奇抜な形状は当然ながらコストが高くなります。また、シンプルな壁面より、壁面全面に写真が印刷されているとやはり金額的に高くなってしまいます。シンプルに要点のみを抑えた壁面のグラフィックの場合、全面出力した場合に加えて、かなり安価につくることができるのです。

つまり、シンプルなブースには「最小限の効率的な集客の工夫」が施されており、無駄な部分が全くないために、シンプルとなっているのです。実際に、私がデザインしたブースの場合、「この部分はどんな意図でこうされたのですか?」とどの場所を聞かれても明確な意図をお答えすることができます。一方で、目立つようにして装飾的に考えられたブースの場合、「どのような集客上の意図をもってこの部分を考えたのですか?」とお聞きしても、「・・・・デザインです」としか答えられない部分が多く出てきてしまいます。

出展社の方々は多額の費用を掛けて展示会に出展するわけですから、このような意図不明なブースづくりをするべきではない、と日頃から考えています。費用を掛けてブースをつくる以上、全ての場所は集客上の戦略を持ってデザインするべきだ、と思うのです。
このことから、当社のようなシンプルなブースがなぜ集客できるのか、という問いに対しては、「集客に関係がない余計な要素を一切省いて、集客を実現するためにもっとも効果的な戦略要素のみでブースを構成しているから」ということが回答になります。ですので、いわば「戦略的なシンプル」となるのです。
ここで、改めてお伝えすると、注意していただきたい事項は、ただの「シンプル」と「戦略的なシンプル」は全く違う、ということです。
時々当社のことを気に掛けてくださっている同業者の方々が、当社のブースデザインを模倣してデザインをしているのを見かけます。模倣は全く構わないのですが、このような「戦略」が実は大事なんだ、ということを知っておいていただければと思います。
また、おそらくデザイン好きな空間デザイナーが考えたであろう秀逸なデザインの「シンプルブース」も見かけます。これも展示会の世界では要注意。ただただシンプルなだけで集客のための戦略が施されていなければ、やはりそれば「きれいなだけのシンプルブース」となってしまいます。それだと、出展者にとって、出展が失敗してしまう可能性が出てきます。
「シンプルブース」を考える際には、是非この部分の見極めをしていただければと思います。

「目立つようにする」は、間違いではない

さて、これまで「戦略的なシンプルブース」の良さのみをお伝えしてきましたが、これまでのように「目立つようにして」集客する、という手法自体は決して間違いではありません。例えば小間位置が良くない場合など、場合によっては派手にすることも重要ですし、外観的に印象的にすることで集客を行うことももちろん大切なこととなります。

大事なことは、「目立つようにするという集客手法のみでは集客に限界がある」という点で、「最強の結果」を出すためのブースづくりの手法は、「目立つようにする」ことと「来場者心理」をベースにした空間デザインの考え方、この2つのバランスが大事、と言えるのです。このことは、また別の記事でお話ができればと思います。

「戦略的シンプルブース」を印象良く見せる工夫

最後に、「戦略的シンプルブース」をデザインしていく際の注意点をお伝えしましょう。ブースをシンプルにすると、どうしても印象が悪くなってしまう場合があります。おそらくデザイナーさんの中には、「何かが違う」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。シンプルブースにするとデザイン要素が少なくなる分、印象の良さを作りにくくなります。
そのための改善策は、以下の2点が主に大切になってきます。
1つは、ディテールへのこだわりです。シンプルになる分、ブースを見る人にとって、細かな部分にまで目が行き届くようになります。だからこそ、ブースの細かな作りの部分にこだわる必要があるのです。
例えば収納の扉の作り方、倉庫の扉、タペストリーの吊り方、などです。
また、もう1つは「グラフィックデザイン」のレベルです。文字の組み方、フォントの選び方、余白の取り方など、壁面に掲示するグラフィックデザインんはブースの印象を大きく左右する重要な要素です。
まずは、この2点をしっかりと抑えておくことがブースの印象づくり、という視点から大切なことになります。
これら「シンプルブースの印象づくりの手法」については、改めて記載したいと思います。

今回の記事では、展示会ブースにおいて、「ただのシンプルブース」と「戦略的シンプルブース」は見た目は同じでも、展示会出展の結果を出すことにおいて全く異なるものだと言うことを覚えておいていただければと思います。

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