見出し画像

webマガジンに著書の内容が無断で大幅引用(盗用?)されたときに、著者が思うこと。<前編>

ふと見つけたwebマガジンの記事に目を疑った。
それは、以前出版した書籍『「小商い」で自由にくらす』(イカロス出版/2017年)が大幅に無断で”引用”されていたからだ。

『「小商い」で自由にくらす』は、2017年1月に出版した書籍。少し時間が経ったとはいえ、読者の方に支持頂いて、amazonでは経済学と社会の2部門で1位にもさせて頂いた本です。(ありがとうございます)

当該記事は大半が書籍の引用で構成されていて、記事を書いたライター自身が書籍の内容をまさかの一人称で書いている箇所もあった。常識的に見て、もはや引用という域はゆうに超えており、3回くらい繰り返し一気に読んでみたものの、違和感は増すばかりだった。

ぼく個人のSNSページに当該記事のリンクを貼ったところ、書籍を読んでくださった友人らからも「この記事が無断だなんて信じられない」というコメントを多くいただいた。

これはやはり、知的財産権の問題であり、コンテンツを制作する企業およびライターのモラルとプロ意識の問題なのだと思う。

今でもまだ憶えている人も多いと思うが、約1年前に、『WELQ(ウェルク)騒動』というものがあり、運営会社のトップが平謝りする姿などが大々的にニュースになったこともあって、webメディアによる知財権の侵害やモラル低下にかなり大きなくさびが打ち込まれた。
(※簡単に言うと、東証一部上場のIT企業が運営する医療情報サイト「WELQ」が、コストをかけずに記事を量産するために、根拠のない記事やコピペ記事を多数公開したことが社会問題になったというもの)
同じようにパクリ記事を量産していたweb担当者は震えあがったに違いない。悪質なキュレーションサイトの担当者たちは一斉に襟を正すか撤退するかして、特に企業の運営するwebサイトは盗用や裏付けのない記事を無責任に公開するリスクの大きさを知り、webコンテンツはモラルと良識に守られるようになったはずだった。

当該のwebサイトはハウスコム株式会社(東京都港区)という、れっきとした法人が運営しているwebマガジンである。
記事を遡ると、まさにWELQ騒動の直後、2017年3月からスタートしているようで、『「小商い」で自由にくらす』の内容を使って制作したページのほかにもたくさんの記事が並ぶ。記事をチェックする編集者も存在するようで、チェック機能自体はあるようだ。

また、当該webサイトのfacebookページには6229人もの「いいね」がつき(2018/5/22時点)、基本的に読者の信頼を得たしっかりしたサイトとして運営されてきたように見える。余談だが、”6229いいね”とは結構ちょっとした数で、今まさにこの記事で問題にしている『「小商い」で自由にくらす』の公式FBページ、”733いいね”しかなく、悲しいことに雲泥の差である。

この「いいね」の数にも表れてもいるように、それだけ読者に信頼されてきたwebマガジンでありながら、こういうことを行うのである。いや、むしろ最初からふざけたサイトであれば読者もそのつもりで読むかもしれないが、普段真面目な人が何気なく忍ばせるたったひとつの‟背信行為”こそ、見破ることが難しい分だけ悪質である。あるいはたった一度の出来心なのだろうか。

と、ここで今回の無断大幅引用記事はなにが問題なのかを考えてみた。

【問題点】
・書籍を無断で大幅引用し、不当に少ない労力で記事を公開し、当該webサイトがPV(=webマガジンの利益)を集めている。
・直接引用以外の箇所の、あたかもライターが自分で分析して書いたようなテキストにも引用が散見され、知財権の侵害を感じる。

・引用によって書籍の内容が漏れることにより、内容をわかった気になった読者に書籍が売れなくなる可能性がある。

【問題でない点】
・写真は盗用していない。(実際に現地には足を運び、撮影をしていると思われる)

きっと、これまでも今回のぼくのように、無断で、大幅に、著書を引用された著者はたくさんいるのだろうと思う。
なかには直接抗議をした出版社や著者本人もいたかもしれない。しかし、声を上げるのが簡単でない、あるいはそれを黙認するのは、ある一面から見ると盗用サイトが、著書の宣伝になっている一面もゼロではないからだろう。
確かにぼく自身も、違和感を感じながらも、それでも「少しは宣伝になるだろうか…」と考えたのも事実で、それは一生懸命書いた一冊の本への愛情の一片である。

形ある作品、または絵やイラストなどと違って、文章というのはどの程度までが引用として許される範囲なのか、そしてどこからがNGなのか、というのが実にわかりにくい。しかし、そのわかりにくさを逆手に取って、引用する側の人間が都合の良い解釈をし始めると手に負えない。だから今回の件が法的に「クロかどうか」はぼくにはわからない。

それでもやはり現在、率直に感じるのは、「モラルとしてちょっとどうなのかな?」という違和感である。不思議と怒りは無い。

しかし、イチ著者の感情とは別に、編集者でありライターでもあるぼくの職業的責任感として、こうした状況を見逃してもいいのだろうか、という思いもある。そして、WELQ問題で以前より平穏な場所になったwebの世界が、これからもモラルが守られる場所であり続けてほしいという気持ちもある。

あらゆる情報が、ひとつのきっかけで圧倒的に拡散される時代である。だから賛否両論あるかもしれないが、ぼくは今回の件にnoteで声をあげつつも、この時代に「隠す」「閉じる」「取り締まる」という方向に努力するのはかなり難しいと基本的に思っている。
もちろんモラルが必要なのは大前提として、インターネットが普及したときにスタートした「情報は拡散するものだ」という大きな流れに抗うことはできないし、それならば大局的に見て、拡散してしまうということ自体を利用した方が賢明であると感じている。

であれば、である。

「気持よく引用してくれよ」、と思うのである。

そのとき”どんな気持よさ”をアウトプットするかはwebマガジン運営者やライター自身がそれぞれのテーマに従って考えるべきところだが、今回ぼくの立場から言うと、これだけの非常識と言える量の引用をするならば、①一言連絡する、あるいは、②しっかりと書籍のリンクを貼るなどして、全編通じて書籍の内容であることを読者にわかるように書く。などの礼儀を踏むか、③文章として失礼のない書き方をしてほしかった思う。①②はモラルであり、③はスキルであり、その全部を包括するのがプロ意識である。

ベストはもちろん①②③のすべてを網羅することだが、今思うのは、③の部分にもっと主体的にチャレンジしてくれたらよかったのではないか、ということだ。なぜなら書き方次第で印象は大きく変わるはずだからだ。

つまり、当該記事の内容を見て、①②をすっ飛ばしてそのままgoを出した編集者もNG加減と同時に、当該記事を書いたライターのモラルとスキルの不足も感じる。

このライターは、この記事を書くために、実際にいすみ市まで行って、『「小商い」で自由にくらす』に掲載されている場所に来て撮影していることが、記事からわかる。行っているのであれば、自分自身でも書籍と同じ人物たちに会っているはずだし、インタビューができたはずだ。であれば、自分なりの感想や意見を盛り込むことで、書籍をそのまま引用する以上の深みや、あるいは「書籍ではこう書いてあったけど、私はこう感じた」という問題提起もできたはずである。

すると、”まるごと引用記事”という印象から、”書籍の内容に対してのカウンター記事”という仕上がりになって、記事の持つ意味合いや価値も高められたである。それは、しっかりと自分の頭を使って思考を巡らせるということだし、このことを面倒がっては、そこから先の楽しさを得ることもできない。

家にいながらにしてすべて引用で仕上げたのではなく、撮影のためにか、せっかく現地に足を運んだのに、インタビューひとつしないなんてもったいない。ライター自身の自分なりのインタビューを加えるだけで、記事はどれだけ生き生きとしたことか。そうしていれば、書いた記事に対するライター自身の愛着も増したことでしょう。せっかくぼくの書籍を読んでくださって、少なくともいくばくかの興味を持ってくださり、いすみ市に行ってくださったわけだから、”自分なりの思考と体験”を言葉にしてほしかったと思います。それがオリジナルの記事というものです。

そうすれば、webマガジンの記事を読んだ読者に感じてもらう体験も、もう一段よいものになったはずです。

当該記事を書かれたライターの関希実子さんがどこに住んでいらっしゃるかはわかりませんが、ぼくは全国でインタビューとライティングのWS『LOCAL WRITE』を行っていますので、もし機会があれば関さんはいつかぜひご参加ください。そして、このwebマガジンの編集者と思われる高橋将人さんもぜひご一緒に。

ぼくは、誰かの発した声であれ、誰かの書いた文章に触れたときであれ、
人は出会う言葉によって新たな価値観に出会い、人生を変えると思っています。つまり、言葉は人をつくり、未来をつくる。
だから、言葉を扱う人間は誰もが未来に責任を持つ当事者であり、それを生業にする人間は、その言葉を使う時、とくに細心の注意を払うべきであると思っています。

最後に、webマガジン『Living entertainment』さんへ。
前述したとおり、ぼくは怒ってはいませんし、大幅引用を行った該当webサイトを削除してほしいとも思っていません。
ただ、今後のことを考えると、もし別の方が同じように‟引用”された場合、その方がどのように感じて、どのように行動するかはわかりません。
もしもこのテキストをご覧になることがありましたら、御社がどのような運営方針に則ってwebマガジンを運営し、どのような判断で当該記事を公開するに至ったのかをお知らせ頂ければ幸いです。

誰もが自由に言葉で表現できるweb空間が、ルールではなくモラルによって心地よい場所であり続けることを願って。

常識的な範囲での引用は大歓迎の書籍『「小商い」で自由にくらす』著者 磯木淳寛

画像1

◆書籍詳細

■この記事の後編はこちら
結果、良い経験でした。拙著がwebマガジンに大幅引用された出来事を振り返って。

■発起人として、がんばってます。中学生と取り組む、「問い」を起点に地域を発信するプロジェクト『房総すごい人図鑑』

画像2


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?