ミン・ヒジンとヴァージル・アブローの共通点

昨日、急にお腹が痛くなって本屋さんのトイレに駆け込んだんですよ。スッキリしてトイレから出たらちょうどそこにPOPEYEがあったんです。しかもちょうどソウル特集をやってて、表紙がNewJeansだったんですね。

俺も半年前ぐらいにソウルに友達と行ってめちゃくちゃ楽しかったから、また行きたいなーとパラパラめくってたら、ミン・ヒジンさん(NewJeansのプロデューサー)のインタビューがあったんですよ。

そこで結構面白いことをおっしゃっているんです。

Q.新しいプロジェクトが始まる時、どんなところからイメージを膨らませているのでしょうか?
ーーーNewJeansのイメージは4~5年前から構想してきた内容です。人々が好きなものはほとんど、時代に合わせて形が変わるだけで、その本質は同じです。だから私はNewJeansのコンセプトがレトロな雰囲気に感じられることは知っていますが、単にレトロなコンセプトだとか復刻だと規定したくはありません。今、良いものは以前も同じように良いものですし、未来でも好まれるものだからです。私は時代とは関係なく、少女たち、女性、さらには性別に関係なく共感できる「良いもの」の原型に集中してイメージを拡張したりしています。

Q.女の子たちにとって身近なZINEやデコといったカルチャーを取り入れたのにはどんな思いが?
ーーー先ほどお話ししたように、女の子の好きなものの本質は、時代や国境を超えて類似性を持っています。私だけではなく、みんなが経験する幼少期の嗜好や記憶をもとに、できるだけ「私が欲しいもの」を基準に制作します。自分が欲しいものなら、普通は自分の友達や知人も欲しがる確率が高いでしょう(笑)。

POPEYE 2023年7月号 ミン・ヒジンさんインタビュー

NewJeansの動画のコメント欄ではファンの方が「KPOPに新しい風を吹かせてくれる」といつも書いてますし、一方スタイリングに関してはY2Kだと評されています。ただ実際にはもっと深いところで考えられているんですね。

つまり、ミン・ヒジンさんは完全に新しいモノを作っているというわけでも、レトロへの回帰をしているわけでもない。実際にやっていることは、時代を越える「良いもの」の本質を捉えて、それを彼女なりに膨らませるということなんだと。とても面白いですよね。

で、これを読んで思い出したのがヴァージル・アブローさんです。

アブローさんは「Off-White」を立ち上げたファッションデザイナーで、ナイキやイケアとコラボしたり、ルイ・ヴィトンのクリエティブディレクターをやったりしていたレジェンドです。

そんなアブローさんが、ハーバードのデザイン大学院かどこかで特別講義をしたんですけど、その時にこんなことを言っています。

僕には3%アプローチと呼ぶものがある。今では何かを作る時、原型の3%をエディットするということしかしなくなったんだ。疲れてるんだね。もう歳かな。僕としては、既にある形にほんの少し手が加えられた状態が面白いんだ。
(中略)
もちろん、僕には僕なりの思考プロセスや、大切にしている美意識がある。でも、いったんその美意識がなぜ大切なのかというエートスがわかったら、もっと突っ込んだところまで追求するんだ。僕がよくいろんなものを引き合いに出す理由はそこにある。僕らの前の時代にあった素晴らしい瞬間を賞賛するのはちっとも恥じるべきことじゃない。何でもピックアップして、それを2017年に加えたら、そこから違うものが生まれてくるんだ。それは、僕たちみんなが合意できるようなものになるはずだ。

ヴァージル・アブロー「複雑なタイトルをここに」

アブローさんが言っていることも、素晴らしいモノのエートスを捉えて、それを深ぼっていく。そして、それを自分や時代の感性でアレンジしていくということです。これはミン・ヒジンさんの"時代を越える「良いもの」の本質を捉えて、それを膨らませる"というやり方とかなり近いですよね。

ミン・ヒジンとヴァージル・アブロー。出身もキャリアも全く違いますが、この二人が同じような考え方をしているというのは何かしらヒントがありそうな気がします。

ちなみに、我らがジョブズさんもこんな言葉を残しています。

Q.正しい方向か、どうすればわかるんです?
―――究極的には、美意識の問題だね。美意識だ。人類がこれまでに生み出してきた最も優れたものに触れ、それを今自分が進めていることに取り入れていけるかどうかだ。ピカソがこう言っている。「優れた芸術家は真似る。偉大な芸術家は盗む」とね。私たちはすばらしいアイデアをいつも臆面もなく盗んできた。Macintoshがすごい製品になった理由の一つは、Macintoshを作ったチームのメンバーが音楽や詩、芸術、動物学、歴史学の知識を持ち合わせていると同時に、世界有数のコンピュータ科学者でもあったことだ。

Steve Jobs 1995

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番外編(参考文献)

ちなみに、ミン・ヒジンさんはシティボーイについてこんな風に言ってます。

私が考えるシティボーイは自然らしさを追求する人です。トレンディなアイテムでフルに着飾ったり、演出された自然らしさではなく、流行とは関係なく、自分だけのスタイルを持っている人

POPEYE 2023年7月号 ミン・ヒジンさんインタビュー

なんとなく「ぼくは勉強ができない」の秀美くんを思い出します。「ぼくは勉強ができない」にはまさに「自然らしさ」を巡ってバトルする短編がありますね。山野舞子がすごいんだあれは。

そしてアブローさんは、講義の最後に今の若者たちに向けてこんなメッセージを残しています。

普通なら見せないようなものをここで君たちと共有した理由は、これを世界中とシェアすることで、誰かがアイデアやイメージを拾い上げて、その人にとってインパクトのある何かを展開していって欲しいからなんだ。君たちが何を目標に対する測定基準にしているか、僕は知らない。でも、君たちは最高に恵まれた、これまでになかったような時代に生まれてきたんだ。今はルネサンスだと思う。だから、「まるで最低、もうおしまいだ」みたいなメンタリティにとらわれないで欲しい。チルしたいっていう脳内のメカニズムに過ぎないんだから。

ヴァージル・アブロー「複雑なタイトルをここに」

アブローさんは惜しまれながら2年前にこの世を去りました。41歳の若さでした。今の若者たちがアブローさんの遊び心やセンスを自分なりに受け継いで新しい作品を生み出していくことが、天国にいるアブローさんを一番喜ばせるような気がします。


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