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ふたりぱぱの本を読んだ


「ふたりぱぱ、ゲイカップル、代理母出産の旅に出る」がてとも興味深かったので、少し書き留めておこうと思う。

ふたりぱぱの存在を知ったのがYouTubeだった。たぶん私の視聴履歴のお勧めに上がってきたのだろう。時系列をランダムに見ているうちになんだかハマってしまった。ゲイであることを除けば、どこにでもいるカップルと一人息子くん。ほのぼのしたタッチがまたいい。声高にLGBTQのことを訴えるというより、どこにでもいる夫婦(彼らの場合ふたりぱぱ)が、一生懸命子育てに奮闘している、そしてその状態を楽しんでいる様子がほほえましい。

あるいは、私が子育てを終了した身としては、単純に懐かしいという側面もある。子どもってこういうリアクションするよなとか、こんな時は言うこと聞いてくれないものなんだよなーとかね。もちろん編集もうまいし、みつぱっぱの語りとリカぱっぱの優しい表情がいい化学反応を起こしている。スウェーデンのルレオという小さな町の人々の営みもまたとても興味深い。私たちが北欧に抱く勝手な思い込みや偏見のようなものを綺麗にそぎ落としてくれるし、やはり私はその土地、その土地で実際に生きている市井の人々のストーリーが好きなんだとあらためて実感する。

そんなこともあってこの本を購入してみた。実は代理母出産については、私はほとんど無知であった。私の周りにいるゲイの友人たちはもう年をとっているし、そもそも「子どもを持つ」ことをあきらめている人が多い。カミングアウトすらしていない人もちらほら。じゃあなぜ私が彼らのことをゲイだと知っているかというと、どうも彼らもカミングアウトしやすい人にはして、そうでなさそうな人にはしていないみたいなのだ。なぜだか私は前者に見えるらしく、いろんな人に「ボク、実はゲイなんだ。」と打ち明けられた。

私はきっとカミングアウトフレンドリーないでたちや様子なんだろう。自分ではよくわからないけど。

謎。


で、代理母出産(サロガシー)である。日本ではまだ認められていない制度でほかの国にはある。くらいの認識だった。

もちろん大前提として、この代理母出産が倫理的にどうかという議論があると思う。賛否両論あるのがはわかる。でも実際問題、ゲイカップルが子どもを育てたいと思う気持ちは理解できるし、その一つの方法として代理母出産が一つの選択肢としてすでに確立されていることも確かではある。正直にこの代理母出産は非常に手間暇お金とエネルギーがいるなというのが私の率直な感想だった。これがストレートのカップルだったら、ここまで煩雑にはならない。

いくつもの分岐点がこの代理母出産にはあり、何度もパートナーと話し合いをしなければならない。その選択一つ一つの意義を何度も問い直し、話し合い、わからないことは専門家に確認し、前に進む地道で気が遠くなるような作業だ。そしてあらゆる書類に目を通し、あらゆる事態を想定し、膨大な数の書類にサインしなければならない。まるで精巧に作りこまれたRPGゲームのようである。どの段階でどの選択をするかによって結果がまるで変わってくる、それは一つとして同じ結論にたどりつかない世界でたった一つだけのRPG。でもこれはゲームと違って、ボタンを押してシャットダウン出来ないからもっと大変だ。


考えてみてほしい。Amazonで品物を買うのとはわけが違う。人間一人を(医学の力を借りてではあるが)9ヶ月に渡り身ごもり、出産まで導く壮大な旅なのだ。誰かがどこかの段階でもう気が変わった、やめたということは許されない。でも必ずわが子をこの手に抱くという保証はない。これが博打であればずいぶんと歩の悪い勝負だと初めからわかりきって挑む旅だ。

Amazonのお買い物のように「気が変わった」と簡単に返品できるようなものではないからこそ、何度も何度もサインを求められ、時には法律家の力を借りながら進むしかない旅。読んでいて何度も切ない気持ちになったり、心温まるエピソードに安堵しながらも、「誰かの親になる」ということがどれだけ幸せなことか恵まれたことかと再確認できた。

もちろん「親になる」ことだけがこの代理母出産のゴールではない。生まれてきた子どもの出自にかかわることまでこの本ではどこまで開示するのかを前もって決めると書かれている。基本的には子どもの福祉という側面で考えているこのふたりぱぱの決断に私は拍手を送りたい。これもまだ議論の余地がたくさん残っている。日本ではこの生殖医療、生まれてきた子どもの出自を知る権利などがあまり議論されていないように思う。医療技術が発達するスピードと人々の間にある「常識」の乖離が大きすぎて、思考停止になっている部分があるのではないか。

もちろん、20年前、30年前に比べるとずいぶんLGBTQ関連の法整備も進んでは来ている。でもまだまだ遅い。私たちが考える「家族像」がどうしてもパパとママとその間に生まれた子供たちと限定されがちで、それ以外の養子縁組などはやはり圧倒的に数が少ない。同性同士の結婚も法律上はまだ認められていない。

ゲイカップルに限らず、不妊治療で少し行き詰ってしまっている人たちや、ごく一般のこれから結婚を考えているカップル、子育て中のパパやママ。私のように子育てが終わった人でも誰でもいい。こういう本で知識を得ることこそがいらぬ偏見や差別からあなたを遠ざける近道になるよ!と言いたい。

知ることは大事。

知って、自分がその立場だったらどうするだろうと頭を巡らせることが本当に大切なんだと思う。

無知が一番怖い。

著者みっつんさんのあとがきから以下引用。

~~~差別の問題というのは、当事者か否かで語られるものではなく、社会の中に差別が生まれたとしたら、その社会の中にいる人間は全てが当事者なのだ。~~~引用ここまで。

この一文が個人的には非常に刺さった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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