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私の映画鑑賞録2021(ネタバレ感想文)

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2021年新作映画のマイベストは『トムボーイ』。いや、日本公開が今年だっただけで本当は2011年の映画だけど。
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映画『裁かるゝジャンヌ』 (ネタバレ感想文 )Jesus!

「奇跡の映画 カール・テオドア・ドライヤー セレクション」にて、デジタルリマスター版を鑑賞。ザジフィルムズさんありがとう! 私がこの映画を観るのは2003年に上映された「修復無音声版」以来。 その時は(移転前の)ユーロスペースだったけどね。 今回は上述した通りオルガン伴奏入りでしたが、前回は「無音声」。 なんでも、長らく過剰な音楽と説明字幕版しかなかったこの映画(上映当時、カトリック教会の思惑で大幅改編されたとか)、紛失していたオリジナルフィルムが1980年代に発掘されたそ

映画『怒りの日』 (ネタバレ感想文 )なぬっ!?邪悪な力となっ!?

テオドールなんだかセオドアなんだか、ドライヤーなんだかドワイヤーなんだか、日本語での呼び名がいまいち確定していなかったんですが、カール・テオドア・ドライヤーでいいんですかね?昔はカール・ドライヤーって教わってたんですけど、検索してもパナソニック製品しか出てこないし。 ま、ショーン・コネリーも昔は「シーン・コナリー」だったしな。 「奇跡の映画 カール・テオドア・ドライヤー セレクション」にて鑑賞しました。ザジフィルムズさんありがとう! 1943年のデンマーク映画ですが、映画

映画『悪なき殺人』 (ネタバレ感想文 )まずは体の関係から。

よく練られた話です。面白かった。 各章は一人の登場人物に絞った「視点」で描かれます。 観客は、その章の主人公と同じ立場で、同じ情報しか入手できません。 しかし映画全編を見終えた時、観客は全貌を知る「神」の視点に至るのです。 こういう手法は珍しくはありません。 黒澤明『羅生門』(1950年)を引き合いに出す人もいますが、あれは「同じ出来事なのに人によって言い分が違う」「真相は藪の中」という別な意図を孕んだ複雑なやり口なので、例としては正しくない。 むしろ「実は裏側でこんなこ

映画『仁義なき戦い 広島死闘篇』 (ネタバレ感想文 )北大路欣也の「雄呂血」

仁義シリーズ2作目。前作からわずか3ヶ月後に撮られたという作品。 前作に続き日本映画専門チャンネル放送の4Kリマスター版(の2Kダウンコンバート版)を録画で鑑賞。 繊細さを増した「翻弄される若者」 この作品も1作目同様「大人に翻弄される若者」の物語です。 なんならガッツリ坂東妻三郎の『雄呂血』(1925年)ですよ。 ま、北大路欣也の父親はバンツマじゃなくて『旗本退屈男』市川右太衛門ですけどね。バンツマの息子は、高廣、正和、亮の田村3兄弟(<だんご3兄弟みたいな言い方)。

映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』 (ネタバレ感想文 )エゴとけじめと贖罪

4Kデジタルリマスター版を観ました。最近のリマスターブームの中で最も楽しみにしていたので早速。 公開時以来、約20年ぶり。再びスクリーンで堪能できて興奮しています。 いやー、久しぶりに観ても、相変わらず嫌な話(笑)。 当時は、ラース・フォン・トリアーがどんな監督か知りませんでした。 「初めまして」ではなく、以前『ヨーロッパ』(91年)を観ていて「二度目まして」監督だった(ということは後から気付いた)んですが、まさか世界屈指の「珍味監督」だったとは。映画を食事に例えるなら、こ

映画『パーフェクト・ケア』 (ネタバレ感想文 )介護物と思ったらアウトレイジ。

ウチのヨメが「ゴロゴローゴロゴロー(づんの飯尾さん風に)、あーあ、年寄り騙して小銭稼げないかなあ」と言っていた矢先にこの映画があったので、早速映画館に足を運びました。 結果、「小銭を稼ぐなんてしみったれた野望じゃダメだ」と決意を新たにしたようです。 (ちなみにウチのヨメは、高齢者の介護ではなく、障がい者の介助を仲介する事業所を経営しています) 映画、面白かったです。情に流されたり半端な改心とかしない所がいい。 全員悪人。まるで『アウトレイジ』(2010年)。 まさに『仁義な

映画『恋する寄生虫』 (ネタバレ感想文 )なかなかSF。孤独なファイト・クラブ。

私は小松菜奈を「ジャンヌ・モローになれる逸材」だと思っています。 いやもう「日本のジャンヌ・モロー」と呼んでもいい。 『渇き。』(2014年)の小松菜奈が最高で最強すぎて、私の頭には未だその幻影が寄生しています。彼女は常に男を翻弄する立場であってほしい。 そんな理想の「ツンデレ小松菜奈」が見られる映画です(<頭に虫が湧いてる感想)。 誰もが生きづらさを感じる時代が生んだ作品 この映画はSFです。 「生きづらさ」を抱えた人がいることを知ってもらうことが目的ではありませんし、

映画『仁義なき戦い』 (ネタバレ感想文 )教科書に載らない日本史を描いた映画史に残る映画。

実は私、この超有名シリーズをほとんど観たことがないんです。 この1作目をほぼ四半世紀前に一度観た限り。 今回、日本映画専門チャンネルで4Kリマスター版(の2Kダウンコンバート版)を毎月1作ずつ連続放送してくれるそうなので、感謝しながら全部観る気になりました。本当はスクリーンで観たかった。 とは言え、これも録画して1ヶ月遅れでやっと観たんですけどね。 映画が面白けりゃなんでもええんじゃ 何故このシリーズに食指が動かないかというと、そもそも任侠物が好きじゃないというのもありま

映画『ガメラ3 邪神(イリス)覚醒』 (ネタバレ感想文 )前田愛ちゃん超可愛い(<俺の邪心覚醒)

平成ガメラ3部作は、「序破急」だと制作サイドが言ってた記憶があります。伊藤和典が言ったのかな? しかしこの「急=終章」、私は納得しておらず、実は公開時以降再鑑賞していませんでした。 今回22年ぶりの再鑑賞。4K HDR版。HDRって何?(<もういいよ) 1999年という世紀末に作られた本作を、東日本大震災やコロナ禍という厄災経験を経て2021年に再鑑賞した結果、やっぱり納得できなかった(笑)。 納得できないと言うか、「特撮最高、ドラマが弱点」というのが正直な感想です。 特

映画『アンドレイ・ルブリョフ』 (ネタバレ感想文 )タルコフスキー君、まだ青い。

タルコフスキーの長編2作目。私は今回初鑑賞。 タルコフスキー34,5歳頃の作品なんですが、完成まではスッたモンだあったとかで、実は企画を始めたのは29歳か30歳頃だったとか。共同脚本はアンドレイ・コンチャロフスキー。アンドレイがいっぱい。そういやコンチャロフスキーなんて『暴走機関車』(85年)しか観てねーや。 正直、この映画は難しかった。 タルコフスキー独特の難解さ以前に、人物・歴史が分からない。 1400年頃のロシア史も知らなければアンドレイ・ルブリョフという人も知らない

映画『エターナルズ』 (ネタバレ感想文 )セルシはクロエ・ジャオ。

今年は3人の素晴らしい女性監督に出会いました。 『17歳の瞳に映る世界』(2020年)のエリザ・ヒットマン。 『燃ゆる女の肖像』(19年)、『トムボーイ』(11年)のセリーヌ・シアマ。 そして『ノマドランド』(20年)のクロエ・ジャオ。 アメリカ、フランス、中国と、それぞれの国籍は異なりますが、40歳代前後の(映画監督としては)若い世代の彼女たちは、女性らしい視点で今という時代を切り取る監督たちだと思っています。 マーベル映画を(たぶん)観たことがない私が映画館に足を運んだ

映画『ガメラ2 レギオン襲来』 (ネタバレ感想文 )大人の国防映画。

これも4K HDR版で鑑賞。HDRって何? でも綺麗でしたよ、水野美紀が。てゆーか、スカート短すぎない? 映画早々、言うわけですよ。 「制動?あまり気持ちのいい話じゃないな。」 もう泣いてますよ(<何故?)。 仙台から飛んできて勢い余ったガメラ横すべり火球3連発。号泣ですよ。 何度観ても痺れる。何度観ても好きすぎて泣く。 可哀そうに、勢い余ったガメラ横すべりで足利市壊滅です。 あしかがフラワーパークなんか怪獣の足の下ですよ。 そういやあしかがフラワーパークの近くに栗田美術

映画『惑星ソラリス』 (ネタバレ感想文 )ソラリスはいい塩梅。

デジタルリマスター版で再鑑賞。約30年ぶり(<最近そんなのばっかり)。 私は、タルコフスキー好きッ!とか言ってる監督至上主義のいわゆる「シネフィル」系の嫌な野郎なんですが、巨匠・名匠と呼ばれる監督を神格化するのもどうかと思っています。 いや、それも自分が年齢を経たからだな。 若い頃はやっぱりタルコフスキーを神格化していたよ。 『惑星ソラリス』(72年) 製作時、タルコフスキー40歳。俺より全然年下。あいつ小難しいこと言って年下のくせに生意気なんすよ。 てゆーか、タルコフスキ

映画『ストーカー』 (ネタバレ感想文 )科学・芸術・宗教の珍道中

配信で倍速鑑賞しても遅いし眠い(だろう)でお馴染み(?)タルコフスキー。全7作の長編映画のうちの5作目。亡命以前のソ連時代最後の作品。 これも30年ぶりくらいの再鑑賞。 私はこの映画を、最も黒沢清っぽい作品(黒沢清が影響を受けたであろう作品)だと思っています。タルコフスキーを理解するのに黒沢清を媒介にするのもおかしな話なんですけどね。 タルコフスキーに心酔する黒沢清(最近は顔まで似てきた)は、常に「この世界は不安定である」ことを描いていると思うんです。 この『ストーカー』