マガジンのカバー画像

私の映画鑑賞録2023(ネタバレ感想文)

83
年間84本鑑賞(新作34本 旧作50本)。内再鑑賞26本、劇場鑑賞71本。新作ベストは邦画『春画先生』、洋画『バービー』。
運営しているクリエイター

記事一覧

2023年マイベスト映画

正直言うと「マイベスト!」的なことって意味があるのか?と思ってるんです。著名人とか文化人とか、自分の憧れの人がリスペクトしている何かは興味深いと思うんですが、私のマイベストなんか誰が知りたいのさと思いつつ、ベストを選ぶのは楽しい作業なので、正月昼から酒呑んで酔った勢いで書きます。(新作(2023年日本公開)限定) いかに私の頭がオカシイか知っていただければ幸いです(<幸いか?) 洋画 1.『バービー』(グレタ・ガーウィグ監督) 2.『枯れ葉』(アキ・カウリスマキ監督)

映画『枯れ葉』 愛に溢れた映画。泣いちゃったよ(ネタバレ感想文 )

星5評価していますが、カウリスマキ作品の中で突出しているかというと、そうでもありません。 しかし、最近の、特に今年の(私が観た)新作の中では突出した作品です。 シンプルな話で、私の感想もシンプルです。 愛に溢れた悲喜劇です。 カウリスマキの映画愛、音楽愛、そして世の中と市井の人々に向ける愛の眼差し。 世界は悲劇と喜劇が隣り合わせていて、でも、生きていればいいことがかならずある。そういう愛に満ちた映画。 ネタバレになるので詳しくは言いませんが、最後に出てくる犬の名前が、

映画『サタデー・フィクション』 コン・リー・ノワール(ネタバレ感想文 )

ロウ・イエ作品は『シャドウプレイ』(2018年)しか観ていないのですが、嫌いじゃないんです。まあ、大好きってほどでもないけど(笑) ロウ・イエ観てる俺が好きってことも無いわけじゃないですが、真の動機はオダギリジョーとコン・リーです。 オダジョーなんか、映画初主演作の黒沢清『アカルイミライ』(03年)から観てますからね。古い付き合いですよ。鈴木清順の遺作『オペレッタ狸御殿』(05年)とか。 コン・リーに至っては、『紅いコーリャン』(1987年)、『菊豆』(90年)、『秋菊の物

映画『PERFECT DAYS』 上を向く人。世は並べて事もなし(ネタバレ感想文 )

私はヴェンダースが苦手です。 『ことの次第』(1982年)でも書きましたけどね。 でも、最近『ことの次第』を観たことは大きくて、私も年を取って、少しヴェンダースが分かるようになった気がします。 だから本作は役所広司ウンヌンは別として観に行く気になりましたし、実際かなり好意的に観ました。 劇中、「世界は一つじゃない」的な話が出てきますが、このシンプルな話も多面的な捉え方ができるように思います。 少なくとも私は4つの物語に切り取れるように思いました。 まずヴェンダース的な側

映画『お葬式』 あるある映画と見せかけたありあり映画(ネタバレ感想文 )

何を今さら伊丹十三を語ることがあるのか自分でも疑問ですが、先般CS放送をなんとなく観ていたら、面白くて、つい最後までしっかり観てしまったので感想を書きます。 (もっとも、なかなか筆が進まなかったのですが) この映画を観るのは、公開時と、その後、二十数年前に観て以来。初見時に高校生だった私は、高瀬春奈の尻がデカい!というのが一番の感想でした。 あまり観ていない理由は、伊丹十三、あんま好きくないから。 いや、嫌いでもないんですけどね。 この監督デビュー作は、衝撃をもって受け

映画『首』 アウトレイジかと思ったら風雲たけし城だった(ネタバレ感想文 )

北野武監督作品は、『アウトレイジ 最終章』(2017年)以外は全部観ています。 なので、北野武作品を観るのは『龍三と七人の子分たち』(15年)以来。 また、観た作品の中で、唯一映画館で観ていないのが『アウトレイジ ビヨンド』(12年)。有り体に言うと『アウトレイジ』(10年)が死ぬほどツマラナかったので、北野武作品から離れていて、この映画も予告を観る限り『アウトレイジ』の匂いがしたので、心配だったんです。 ちょっと話は脱線しますが、映画マニアに言わせれば、『首』と言えば橋

映画『ほかげ』 少年が大人の狂気を垣間見る物語(ネタバレ感想文 )

印象的なタイトルバックです。 カウンターの上に横たわる趣里の「片腕」。 そして映画後半には、森山未來演じる「片腕(右腕)」が不自由な男が登場します。 このメインキャスト二人の「腕」繋がりは意図的のように思えるのですが、それが何を意味するのか、私には読解できませんでした。 ただの偶然かもしれませんけど、私は、塚本晋也を「都市と肉体を描く作家」だと思っているので、やはり「腕」は彼が描こうとする「肉体」と無縁ではないように思うのです。 塚本監督曰く、『野火』(2014年)『斬、

映画『ゴーストワールド』 自意識痛い系思春期映画(はぁと)(ネタバレ感想文 )

どういうわけだか22年ぶりの(たぶんデジタルリマスター)上映。 おかげで、公開時以来22年ぶりに鑑賞しました。 好きな映画です。星4だけど。星5を付けるほど完璧な映画ではない。 でも、ものすごく思い入れのある映画です。 好きなんですよ、この手の映画。 『レディ・バード』(2017年)とか。 青春映画というと「汗と涙!」的なイメージなので、私は「痛い系ティーン女子映画」あるいは「自意識痛い系思春期映画」と呼んでますがね。 私の中でその基準であり最高峰が、この映画。 当時、

映画『ガタカ』 SF版リプリー。こちとら抜け毛の多い年齢じゃ(ネタバレ感想文 )

20数年前に観て以来の再鑑賞。 実は最初に観た際も(そして今回も)TV画面だったので、いつか映画館で観たいと思っている作品。 シュボボボー!って花火みたいに打ち上がるロケットを大画面で眺めたい。 今回改めて観て、これは『リプリー』(1999年)なんだと気付きました。 まあ、ジュード・ロウ繋がりで『リプリー』言うとりますが、要するに『太陽がいっぱい』(60年)。 持たざる者が恵まれた者に成りすます物語。 この話がSF(サイエンス・フィクション)として秀逸なのは、SF設定の根

映画『アメリ』 奇跡を積み重ねた奇跡の映画。または幸せになるアダルト映画(ネタバレ感想文 )

原題(Le Fabuleux Destin d'Amélie Poulain,)は「アメリ・プーランの素晴らしい運命」という意味だそうです。 2001年4月にフランスで公開され大ヒット。日本でも2001年11月17日に公開されました。 まったくもって私事ですが、私は、今はなき渋谷シネマライズにて2001年(平成13年)12月11日に鑑賞。約1ヶ月後の12月25日に二度目の鑑賞。年明け1月7日に三度目の鑑賞をしました。 1ヶ月で三度も同じ映画に足を運んだのは、後にも先にもこの

映画『ロスト・イン・トランスレーション』 ソフィアの東京見聞録(ネタバレ感想文 )

2004年の公開時以来の再鑑賞。いまや貴重な35mmフィルム上映でした。 そういや、女性映画監督の歴史の中で重要な位置を占めるという話を書きましたね、『バービー』(2023年)で。 今やソフィアと呼んで、欠かさず観ている監督です。大好きソフィア。 こっちをお向きよソフィア(<それは山下久美子)。 でも、当時は「コッポラの娘」と呼んでました。 まあ、親の七光りと軽く馬鹿にしてたんですよね。 ほら、彼女は女優としてラジー賞も獲ってるし(笑) ところが、この映画のファーストショ

映画『私がやりました』 ワイルダーならどうする?(ネタバレ感想文 )

映画の舞台は1935年。 劇中で主人公たちが映画を観に行きます。 作品はビリー・ワイルダーの『ろくでなし』(1934年)。 正直言って、今回初めてその名を知った作品です。 そもそもビリー・ワイルダーがこの年に映画を撮っているとは思っていなかったんです。やはり1950~60年代のイメージでしたから。 調べたら、監督デビューしてまだ間もない頃で、当時フランスに亡命していて、フランスで撮った作品のようですね。 何が言いたいかというと、この『私がやりました』は、フランソワ・オゾンの

映画『ザ・キラー』 フィンチャーはヒッチコックの進化系(ネタバレ感想文 )

日本のオムニバス映画で『KILLERS キラーズ』(2003年)ってのがありましてね。その一編で『.50 Woman』ていう押井守が監督している珍作(?)があるんですが、延々と標的を待つ殺し屋の話なの。 この『ザ・キラー』の第1エピソードと一緒。 もっとも、本作のストイックな殺し屋が食べるのはタンパク質を摂取するためのバンズ抜きのマクドナルドですが、『.50 Woman』はコンビニのおにぎりや菓子パンで、エンドロールに殺し屋が食べた物が紹介されるという作品(だったと思う)。

映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』お前がJ・エドガーだったろ?(ネタバレ感想文 )

私は熱心なスコセッシファンではないので、彼の新作を追っているわけでもないのに、何故この3時間26分もの長尺を観なきゃいけない義務感に駆られて映画館に足を運んだのか分からないんですがね。 結果、面白かった。 長尺なのに全然飽きない。あっという間。 何て言うのかな、「映画」でした。 最近流行りなのは小手先が派手な「映像」ばかりなんですが、これは見事な「映画」。 スコセッシ爺さん、さすがに最近お年を召されましたねと思っていたのですが、いやいやどうして、前作『アイリッシュマン』