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"i" #8

そうして、一年近くが過ぎた。
あの公園には、あの日以来行っていない。そもそも、高校生になってしまったから、公園で遊ぶということすらしなくなった。
それに、あの日のことを思い出すから、行きたくなかった。

けれども、僕はあの日のことを再び思い出すこととなった。
一番、嫌な形で。

高校一年よ秋から冬に変わろうとする時期だったと思う。
サッカー部に入っていた僕は、帰りが遅くなることがほとんどだった。家と高校もそれなりに離れていて、どんなに自転車を飛ばして帰っても30分はかかる距離だった。だから、例え夜7時に部活が終わったとしても、帰ってくるのは7時半以降。田舎だから、その頃には辺りは真っ暗になっていた。
この日も、そのくらいの時間に帰宅する予定だった。
しかし、部内で風邪が流行っていること、そして、テストの一週間と一日前だったことから自主練へと変更され、テスト勉強を心配する部員はすぐに帰ってしまった。
いつもなら僕は一時間でも残って練習をするのだが、この日は何故だか、母親の家事を手伝おうという気持ちになった。だから、他の部員に断って、授業が終わるなり一直線に家へと向かった。

後から思えば、この行動が僕の人生を変えたのだ。

僕は、父と母、そして、この時高校3年で受験を控えていた兄、それと僕の4人家族だ。
父は仕事で夜に帰ってくるので、夕方には母親と勉強している兄が家にいることになる。
そう、僕が帰った時、確かにその二人はいた。
血塗れの母親と、必死になって侵入者に抵抗する兄が。

思考が止まった。
それと同時に、時間も止まったような気がした。
何が起こったのか分からなかった。
けれども、さらに思考を混乱させる出来事が起きていた。
必死の兄に刃を振り下ろそうとしている人間。そう、その横顔は紛れもなく、一年ほど前に公園で見た時から何も変わっていない『彼』の顔だった。

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