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ElevationSpaceの設立とその未来[小林稜平]

2021年2月3日。
僕は新たな宇宙ベンチャーElevationSpaceを立ち上げ、学生起業家になった。それも宇宙というとてつもなく厳しい領域で。

今回は僕の起業に至った背景と想いを書いていこう。

宇宙建築との出会い

遡ること約4年前の2017年10月、僕は秋田高専にいた。その当時は5年生で環境都市工学科という土木と建築両方を学べる学科に在籍していた。当時の興味は、超高層ビルなどの建築構造で、東日本大震災の経験からも地震に強い建物を作ることだった。そのため、卒業後の進路は東北大学の建築・社会環境工学科に3年次編入することが決まっており、東北大学でダンパーと呼ばれる地震が発生した際に建物に加わるエネルギーを吸収する装置の研究をしようと思っていた。

編入学試験が終わり、卒業まで半年ほどとなった僕は、新しい熱中できるものを探していた。日々、いろんなニュースや本を読んでいた。そんなとき、人生を変える大きな出会いが訪れる。それはウェブ上にたまたま現れた「宇宙建築」という4文字だ。

ここで宇宙建築を簡単に説明しておくと、宇宙建築とは、地球圏外に建設される人が居住するための構造物のことである。すでに存在しているものとしては国際宇宙ステーション(ISS)などがあり、これから想定されているものとしては宇宙ホテルや月面基地などがある。

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第五回宇宙建築賞にて最優秀賞を受賞した月面都市(小林らチーム作成)

僕は宇宙への興味はもちろんあったが、それは理系の学生であれば誰もが持っている程度の興味だった。ただ、「宇宙建築」というワードには僕の好奇心をくすぐるには十分な力があった。

建築への興味を突き詰めていくと、地球上でだれもが知っているような大きな構造物を作りたいという理由だった。例えば、スペインバルセロナにあるサグラダ・ファミリアは世界中のほとんどの人が知っている有名建築物で、わざわざそれを見に世界中から人が集まってくる。日本で言えば東京スカイツリーがそうである。そのくらい建築物は地球上で大きなプロジェクトであり、多くの人を魅了するものだと感じていた。そういった建築物に関わるのが僕の夢だった。

それに対して宇宙建築の持つスケールは非常に大きい。そして何より、まだほとんど実現してなく、ちょうどこれから数十年で必要になってくるというのだ。実際に学問としてはほとんど体系化されておらず、世界で見ても宇宙建築を学べる場所はほとんどない。これはチャンスだと思い、宇宙建築の活動を東京でしている学生団体「宇宙建築学サークルTNL」に連絡し、秋田からオンラインで活動に参加し、たまに東京のイベントに顔を出すような生活が始まった。

今思うと普通のことだが、実は当時の僕にとってそれは大きな出来事だった。それまでの僕は、秋田の田舎で育って、親や先生の言われたとおりにちゃんと学校に行って勉強し、良い点数をテストで取って満足していた、いわゆる普通の学生だった。当然、Skypeなどのオンラインツールも使ったことは無いし、そもそも学生団体とかそういったものも全く知らなかった。

そんな僕が、使った事の無いSkypeを使い、よくわからない学生団体に秋田からオンラインで活動に混ぜてくれと連絡したのだ。今思うと、それくらい宇宙建築との出会いは衝撃だったんだと改めて思う。

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宇宙建築学サークルTNLでの活動の様子(左から4番目が小林、左から2番目と5番目がそれぞれSpace Seedlingsの穂積君と長谷川君)

起業という選択肢との出会いと決意

同じく、2017年10月の高専5年生の時にもう一つの大きな出会いがあった。それはNewsPicksという経済メディア、ニュースサイトとの出会いである。このサービスでは、ニュースに様々なコメントを実名ですることが出来、それらを見てニュースを多角的にとらえられるのが特徴である。今でこそ多くの方が利用しているサービスだが、当時はまだ利用者は少なく、経営者や学生の中でも情報感度の高い学生などが中心に利用していた。そういった学生は団体を立ち上げて、代表をしていたり、海外にインターンしたり、大学に通いながら起業していたりすることを知り、「このままのんびりとしていたら、就職活動の時に何もしてない自分は勝ち目が無くなってしまう」と危機感を感じたことを今でも覚えている。

いつの間にかNewsPicksで彼らのコメントを読んでいるうちに学校外での活動は当たり前の選択肢になっており、実際に大学に編入学してから1年間で2つの団体の立ち上げ、2つの長期インターンを行うようになっていた。特にenspaceという仙台にあるシェアオフィス・コワーキングスペースでのインターンは2年以上続けていた。その際に経営者と話す機会が多くあり、起業は進路の一つの選択肢として当たり前のものになっていた。

もちろん宇宙建築にはどんどんはまっていき、東北大学に編入学してわずか3か月ほどで大学院から航空宇宙に専攻を変えることを決意し、誰もが宇宙で生活できる世界を創ることが僕の夢になっていた。

ただ、ここで問題が出てきた。新しい分野であるがゆえに、進路がほとんどないのだ。取れる選択肢は大きく二つで、研究者として宇宙建築に関わっていくか、もしくは起業家として宇宙建築事業をやっていくかだ。そこで僕は大学4年の4月にある決意をした。それは、大学院に在学しているうちに、研究と経営(スモールビジネス)の両方をやってみて、自分に向いている方に進むという決意である。

それから大学院入試の準備をする傍ら、経営の勉強とアイディア探しをする日々が始まった。途中から学年が1個下でこれまで複数の団体で活動を一緒にしていた葛野(Space Seedlings所属)と二人で事業の検討をするようになった。スモールビジネスの規模で出来ることを探していたため、衛星データを解析するサービスなどを当時は考えており、後の共同創業者で取締役 / CTOである東北大学の桒原先生に衛星データに関して質問しに行った。その際に僕と葛野のことを桒原先生は気に入ってくださり、3人で12月にある東北大学のビジネスプランコンテスト向けに人工衛星を使ったビジネスプランを応募しようということになった。そうして応募したプランは無事に入賞することとなった。

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ピッチイベントでのプレゼンの様子

しかし、ここで問題が出てきた。やはり宇宙ビジネスには多額のお金がかかってしまい、到底スモールビジネスの規模では出来そうにないのである。もうこの時には研究よりもビジネスの方が向いているし、楽しいと感じていた。そこで、研究者の道ではなく経営者になる道を選ぶと決意し、同時にスモールビジネスではなくて自分が本当に人生をかけられる宇宙建築に関連するビジネスをやろうと決意した。

ElevationSpaceの立ち上げ

東北大学のビジネスプランコンテストに応募したプランは詰めが甘い部分が多くあった。そのため、様々な方からいただいたアドバイスを元に複数の事業を検討した。そこで見つかった課題が国際宇宙ステーション(ISS)の退役という課題だ。

ISSは1998年から組み立てが開始され、もうすでに20年以上の歳月がたっており、現在は2025年以降の運用継続は寿命の関係から未定となっている。もし、ISSが無くなればそこで行われている様々な実験等の実施場所が無くなってしまう。現状の科学的な実験だけでなく、これからの宇宙旅行時代には異分野企業の宇宙参入が必須であり、宇宙実証は欠かせない。今後はこういった民間の需要もどんどん増えてくると予測される。そのため、ISS退役は宇宙産業の大きな課題であり、参入チャンスだと感じた。

そこで、小型人工衛星内で宇宙実験等を行い、その後地球に帰還して実験物を回収できる小型宇宙利用・回収プラットフォーム 「ELS-R」のアイディアにたどり着き、2021年2月3日にElevationSpaceの設立に至った。

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サービスの流れ

このサービスを実現するためには、地球に帰還してくる技術である地球再突入技術が求められる。燃え尽きないための材料の工夫やスラスターの開発、軌道上での姿勢制御などの通常の人工衛星よりもより高度な技術が求められる。そのため、現在は技術実証機を開発しており、地球再突入技術の構築を目指している。

ELS-Rは無人での小型宇宙環境利用サービスであるため、高頻度な利用や回収までの期間の短さ、安全審査の簡略化などが出来、宇宙実験や製造等の無人で可能な範囲においては最も利用しやすいサービスになれると確信している。

ElevationSpaceの描く未来

前半でもお伝えした通り、僕自身が一番興味ある分野は宇宙建築だ。これから数十年で人類が地球だけでなく複数の衛星・惑星上で生活している未来が必ずやってくる。僕はElevationSpaceでその世界を実現させたい。

そのため、ElevationSpaceのELS-Rは最初の一歩にしか過ぎない。ここで培った技術を基に軌道上への輸送、建築事業へ展開していくことを目指している。

ElevationSpaceのミッションは「誰もが宇宙で生活できる世界を創り、人の未来を豊かにする」である。このミッションにはElevationSpaceとしてELS-Rから始まり宇宙建築事業へ展開していく決意、そしてそれによって人類の未来に貢献していくという想いを込めている。また、「人の未来を豊かにする」には地方から23歳の学生起業家率いるElevationSpaceが宇宙というフロンティアに挑戦していく過程を見せることによって、多くの人に夢や希望を与えていきたいという意味も込めている。

ミッションの実現に向けて、これからも一日一日を全力で駆け抜けていきたい。


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小林稜平
株式会社ElevationSpace 代表取締役 / CEO

1997年秋田県潟上市生まれ。秋田高専卒業後、東北大学に編入学し建築学と宇宙工学を専攻。大学在学中には人工衛星開発に従事し、宇宙建築において世界2位を獲得。2021年2月に株式会社ElevationSpaceを起業。

株式会社ElevationSpace:https://elevation-space.com/
宇宙建築学サークルTNL:https://tnlabsa.wixsite.com/tnlab
Tohoku Space Community:https://tsctohoku.wixsite.com/tohokuspacecommunity

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