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火星のサンタ

あと何回、みーちゃんのサンタさんをできるかな。プレゼントを買うとき、そんなことを思った。彼女はもう小学1年生。僕は3年か4年で衝撃の真実を知ってしまった。妻は1年生で知ってたらしい。みーちゃんはまだ疑う気配も見せないが、せいぜいあと数年か。

サンタさんにお願いしたのはプリンセスのスーツケース。4年連続でディズニー・プリンセスのグッズである。この記録も今のところ、途切れる気配はない。そして今時の小学生はアマゾンで勝手に見つけてくる。しかしミーちゃんの在宅中に配送されたらバレてしまうではないか。そして同じ品物は店には置いていなさそうだ。

そこで近所のスーパーのWebsiteに載っていた類似品を見つけてきて、

「ミーちゃん、こっちのはどう?ベルもちゃんといるし、サイズも大きいよ!」

「ん〜、でもアリエルとラプンツェルがいないからダメ」

スリートップが揃うのが必須条件らしい。

「え〜、でもさ、サンタさんアマゾンのもの届けてくれるのかな?」

「くれるよ。だって北極に取り寄せればいいじゃん」

なるほど現代ではプレゼントはエルフが作るんじゃなくて、アマゾンに北極まで配送してもらうのね。

結局、近くに住んでいる同僚の家に届けさせてもらって、ミーちゃんが不在の時に取りに行くことにした。

一方、3ヶ月になったゆーちゃんにとっては、はじめてのクリスマスである。まだ何が欲しいとも嫌だとも言わないので楽だ。先日、みーちゃんに内緒でショッピングモールへプレゼントを探しにいった。人生最初のクリスマスプレゼントは長く残るものにしたいと思い、木のおもちゃを買った。

小野家ではパパとママも「いい子」にしていたらプレゼントが届く。年に一度、妻に文句を言われずにおもちゃを買うチャンスである。今年はStar Warsのレゴ!妻には化粧品の詰め合わせ。

家に帰ったらプレゼントをラッピングして(アメリカでは店がラッピングしてくれないことが多い)、ミーちゃんの背が届かないクローゼットの一番上にプレゼントを隠した。

さあ、これで準備完了。あとは24日にミーちゃんが寝るのを待って、そぉっとツリーの下に置くだけ。

子どもの頃、サンタさんが来るのを待つのが楽しかった。親になって、自分がサンタさんになるのも同じくらい楽しい。サンタさんとは世界中の人を楽しくさせてくれる素敵なウソなのだ。

ちなみに、みーちゃんは「本物のサンタ」と「フェイクのサンタ」を見分けることができる。毎週末、地元の商店街のテントの中に猫背で座っている人はフェイク。2週間前のクリスマスパレードの大トリで消防車の上から手を振っていたのが「本物」だったらしい。

NASA

26ヶ月ぶりに火星が地球に接近している。クリスマス・パレードで「本物のサンタ」を見た後、公園に望遠鏡を持っていって、みーちゃんの友達も誘い天体観測をした。普段操作しているローバーがあの小さな赤い点の中にいる。何度考えても現実離れした感じがする。

その火星ローバー・パーサヴィアランスも、まもなく「クリスマス・プレゼント」を届けに行く。贈る相手は次に火星にやってくる着陸機。そしてプレゼントは、岩やレゴリスのサンプルである。

NASAと欧州宇宙機関 (ESA) が共同で進めている火星サンプルリーターン計画は、現在のところこのような構成になっている。まず、現在火星で稼働でしているパーサヴィアランスが岩やレゴリスのサンプルを集め、チューブに入れる。2020年代後半にNASAの着陸機がMars Ascent Vehicle (MAV)という二段式ロケットを抱えて近くに降り立ち、パーサヴィアランスがそこまでサンプルを届ける。そのサンプルはMAVの先端のカプセルに入れられ、火星軌道に打ち上げられる。待ち構えているESAのオービターがカプセルを軌道上でキャッチ。はやぶさのようにイオンエンジンで地球に帰還し、2030年代前半にカプセルを地上に落とす。

しかし、着陸機が来る前にパーサヴィアランスが壊れてしまったらどうするのだろう?そのためのバックアップとして、今年12月から1月にかけ、10本強の予備のサンプルを火星の地面に置いていくのである。もし本当に壊れてしまったら、着陸機が持っていく二機の小型ヘリコプターがこのサンプルを着陸機まで運ぶことになる。

そんな未来への「クリスマス・プレゼント」を届けに行く作業が、ちょうどこの原稿を書いている12月中旬から始まる。サンプル・チューブを置く場所は、ヘリコプターの着陸に適した、あらかじめ決められた場所である。順調にいけば作業は1月には完了する。

最終的にこのプレゼントを受け取るのは、2030年代に活躍している地球の科学者たちだ。もしかしたらそれは、今宇宙に憧れている子供たちかもしれない。

遠い未来、火星に人が住むようになった時、もちろんサンタさんは火星の子供たちにもプレゼントを届けてくれるだろう。毎年、地球暦の12月24日の晩に地球の北極からトナカイのソリで宇宙空間を飛んできて、エアロックから火星都市を覆う透明なドームの中にこっそり入り、子供たちのいる家のクリスマスツリーの下にプレゼントを置いていってくれるはずだ。

NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS
砂丘の奥に広がっている平らな場所が、サンプルを置いていくThree Forksという場所

小野雅裕
技術者・作家。NASAジェット推進研究所で火星ローバーの自律化などの研究開発を行う。作家としても活動。宇宙探査の過去・現在・未来を壮大なスケールで描いた『宇宙に命はあるのか』は5万部のベストセラーに。2014年には自身の留学体験を綴った『宇宙を目指して海を渡る』を出版。
ロサンゼルス在住。阪神ファン。ミーちゃんのパパ。好物はたくあんだったが、塩分を控えるために現在節制中。


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