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宇宙飛行士挑戦コミュニティ AIM (後編)[中澤淳一郎]

5月号の前編では、AIM設立の経緯から活動内容を語って頂きました。
『宇宙飛行士挑戦コミュニティ AIM (前編)』
6月号はそれに続く後編。
AIMのあり方、宇宙飛行士に求められる資質とそれに対するAIMアプローチについて、内山さんにさらに切り込んで質問していきます。

ーまずは書類選考が行われますが、落選者の扱いについてはどのようにお考えですか?

 そこはまだ未定ですね。でもAIMメンバーの中に、そこまで考えて、たとえ落選しても応援側に回ってコミュニティに貢献したいといってくれる方がいました。それに、まだまだ宇宙飛行士選抜にチャレンジしたいというモチベーションのある人にはAIMに居続けてほしいとも思います。しかし、そこまで考えたくない方もいるので、そこについてはその方の意思を尊重したいですね。僕の方からこうしてほしいなんて話はとてもできないです。なので、この時点(2022年4月初旬、書類審査前)で応援側に回っても、、、と言ってくださる方がいるというのは本当にすごいことだと思っています。

ーただ、失敗した後のリスクケア、マインドセットも宇宙飛行士に求められる資質ではないでしょうか。

 もちろんです。熱意があることは大事ですが、そればかりに集中してしまって、プランBをもっていないのはリスク管理的に甘すぎます。もちろん熱い想いを持っていて挑戦することは非常に大切ですが、たとえ選抜の結果期待にかなわなかったとしても、それを糧にして自分は前にすすめるという考えの人こそが強いですし、ここでどれぐらい成長できるかを楽しめる人であるべきです。AIMにいる人達は、たとえ明言していなかったとしても、みんな考えているだろうと思います。

やはり宇宙飛行士選抜への挑戦は夢物語ではない「現実」であるがゆえ、落選してしまうメンバーもいらっしゃいました。AIMのSlack上では、落選してしまったメンバーから、5年後の捲土重来を誓い、人生を見つめ直すことに全力を注ぐとの投稿が。自身の存在を賭して宇宙飛行士選抜に挑んだ人間にしか綴れない、魂のこもった言葉に圧倒されてしまいました。そしてその投稿は、選抜に共に挑戦した仲間への熱いエールで締めくくられています。これがすべてを表していると感じました。

ー宇宙飛行士選抜試験で鍵となるのはどのような能力だと考えられますか?

 JAXA側がどこをどう評価しているのかは完全には分かりませんが、試験ではチームの中での役割、特に、チームがピンチに陥った際に誰がどのように打開していくのかが見られると思うんですね。チームをピンチから救うのは誰のどの一言なのか。そのひとがチームに与えた結果が評価されます。なので、与えられた課題だけをみるのではなく、チームの状況を見てどう動くかを考えて行く必要があります。その際には、チームに対して自分がどのような貢献ができるのかについて、「こういうストレスがかかったときは自分はどうなる」というのを客観的に理解した上でリスクをケアしつつ考えて行動する、というところが大事ですよね。かつ、それを様々な経歴の猛者たちがいるところでいろいろなパターンで実践できる人が強いと思いますし、そういうところが見られています。このあたりはやはり経験が大きいでしょう。

ーAIMでもこうしたチームでの役割を意識した訓練を実施する予定はありますか?

 やりたいと思っています。ですが、運営側としてどうやったらそうした能力を効果的に磨けるのかについては素人なので、やり方については考え中です。もちろんJAXA側も、選抜試験をどう設計すればそこの差がでるかを工夫しています。それを踏まえてAIMもやりたいですが、ノウハウがないのが現状です。その観点では、社内研修など、人材育成に関わる方や、中途採用などの採用側の人間が強いのでは、、、その業界の方々にお話を聞きながらやらないとむずかしいよな、なんてことも考えています。笑

ー宇宙飛行士選抜試験の応募資格である「社会人経験3年以上」というのもこのようなチームでの役割を知る経験の重要性から設けられた要項なのですね。

 やはり、社会に出てすごくつらい思いや修羅場を乗り越えて人格が形成されてくる、というのはあると思います。すごく賢くて宇宙飛行士の素質があったとしても、つらい経験を乗り越えていないと、世界中の猛者たちとともに訓練に放り込まれてやり遂げられる訳がないですよね。そういう経験をどれだけしているかがすごく重要ですし、そこからどう這い上がったのか、選抜でもまさにその過程を聞かれます。そういう経験が、宇宙飛行士に求められる資質なのかもしれないです。
 こういうことが大切だ、というのはエントリーシートからも推察できますよね。特殊な経験とか、なぜこれを書かせるのか、というのはやはりそういうことなんですよね。これまでの人生を振り返って、そうした経験がどれだけあったかを見返して、語れるようになることが大切なんでしょうね。

取材時の様子:質問に答える内山崇さん(左)。
中澤(右)は学生の立場から聞きたいことがあるようだ

ーそう思うと、宇宙飛行士選抜試験への応募資格がない学生が、AIMに参加することについてはどうお考えですか?

 ぜひぜひ、学生でもAIMに参加したらよいと思います。そうやって頑張っている先輩たちを見ることもすごく勉強になると思います。忙しくても文句言わずに頑張っているライバルたちがいたら頑張りますよね。AIMはその環境を提供しているだけなんです。けれど、それが可能なのは参加者のみなさんが本気で挑戦しているからこそなんですよね。これこそ宇宙飛行士選抜の魅力ですし、みなさんにそういう体験をしていただければいいなと思っています。
 もちろん、AIM参加者は宇宙飛行士選抜にエントリーしている方だけじゃなくてもいいとも思います。宇宙飛行士という目標も、それだけが特別な目標という訳ではなくて、みなさんそれぞれが持つ目標とも共通することが多いと思っています。目指すからにはこういう風に頑張るよね、そして挑戦した結果、目標に届く届かないかは実はそんなに重要ではなくって、結果までに至るプロセスで、自分がたくさんのことを得ていて、それを自分がどう活かすかが大事で。そういう意味では何にでも当てはまるものなんだろうなと感じています。

ー最後になりますが、内山さんが考えられる「ファイナリスト」とはどういった概念なのでしょうか。

 そうですね、まず一つとしては、ライバルであると同時に、共に協力しながら高みを目指す関係ですね。そしてもう一つは、結果が出た後によく分かることだと思っています。選抜の結果、全員が宇宙飛行士になれるわけじゃないですよね。けれども、結果が出た後も、同じ関係性が続いていく。宇宙飛行士になった人でも、なっていない人でも、刺激を受け合いながらその後の人生を共に歩んでいく。けれども、それができるかどうかは、どれだけ同じ思いを持って議論しながら、切磋琢磨しながら、本気で挑戦する時間を共有できたかによると思うんですね。そこまでやりきれるかどうかというのが、AIMの目標でもあり、そういった繋がりができたら素晴らしいなと思っています。

ーありがとうございました。

多くの方々が今回の宇宙飛行士募集に注目している中で、本気で宇宙飛行士を目指す人が集う『宇宙飛行士挑戦コミュニティ AIM(Astronaut In the Making)』。AIM設立者である内山さんのインタビューを通して、非常に質の高い横のつながりが展開されていることが垣間見えます。その本質は、「本気の挑戦」。今はまだ宇宙飛行士の応募資格が無い学生諸君も、宇宙飛行士に限らず自分の目標に脇目も振らずに突き進む読者のみなさんも、是非ともAIMに参加してみてはいかがでしょうか。

内山 崇
第5期宇宙飛行士選抜ファイナリスト。
1975年新潟生まれ、埼玉育ち。2000年東京大学大学院修士課程修了、同年(株) IHI入社。2008年からJAXA。2008(~9)年第5期JAXA宇宙飛行士選抜試験ファイナリスト(10名)。
宇宙船「こうのとり」フライトディレクタ。2009年技術実証機〜2020年最終9号機までフライトディレクタとして、9機連続成功に導く。現在は、新型宇宙船(HTV-X)開発に携わり、月ステーションGatewayを目指す。
趣味は、バドミントン、ゴルフ、虫採り(カブクワ)、ラーメン。宇宙船よりコントロールの効かない2児(小学生)を相手に、子育て奮闘中。

◆著書『宇宙飛行士選抜試験 ファイナリストの消えない記憶』(SB新書) https://www.amazon.co.jp/dp/481560522X/

◆ 宇宙飛行士挑戦コミュニティ(AIM)運営


中澤淳一郎
総合研究大学院大学5年一貫博士課程2年。JAXA宇宙科学研究所にてアストロバイオロジーを志し、宇宙生命探査のためのサンプラー開発に従事している一方、個人的興味から彗星の爆発現象やダイオウイカの生態についても研究している。宇宙生命探査の探査対象天体であるエウロパやエンセラダスといった海洋天体について解説するYoutubeチャンネルも運営中。

海洋天体の歩き方Twitter
https://twitter.com/Hitchhike_guide?t=_lfWIi0X9a3ni9-Li5O-qw&s=09


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