Blue Spots 抜粋編

天狗様千手様毘沙門天様

母が祈る時の呪文だ。


神棚の棚を残して、地蔵の仏頭がひとつ。「あんたもお祈りしなさい」そういって母が置いていった。自分は海を見ながら温泉に入る生活をしたいと言って出て行った。


神棚は母の面影が強く、視界に入ると気分が落ち着かない。いらいらとふわふわの中間。所在なさと反感に溢れる。そんな私を地蔵が眺める。凹凸の少ない顔面の仏頭だが、顔は綺麗で頭の球体はするりと艶やかだ。

私は仏頭の首を掴み、頭に触れる。表情は一切変わらない。微笑んでもないし、睨み付けもしなさい。ただただ、見つめてくる。こちらの感情の滞りをわかっているかのように。

一体、私の何がわかっているというのか。馬鹿にしている。わかったような顔をして、何一つ出来ないくせに。

頭の球体は何度撫でても、木肌が柔らかい。木だけどふわりとしている。木肌に爪を少し立てる。爪を軽く押し込んだ。なんだへこむじゃないか。

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