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裂け目のうた

むかしむかし あるところ


大地がふたつ 裂け目がひとつ

まっくら闇の大陸と のどかな花の浮き小島

ひねもす小島に寝そべれば はるか大陸は蚊帳の外


されど暗闇の霧深く 小島をとらえ渦を巻く

繰り返す波のような日々 にじり寄る霧に果てはなく

怯えた子らは裂け目に落ちて かなしみの歌がこだまする


ある朝見知らぬ来光だ 雲を背負った来光だ

月かあるいは太陽か 大陸も島も飲み込んだ

光は注ぐ三日三晩 裂け目に海ができたとさ


ああここはひと続きの世界なのだ

へただりのない楽土なのだ

わが浮島の花ごよみ

讃えたまま暗い大陸をわたる


あのとき来光はきいた かなしみのこだまを

その響きは

大地の裂け目をうるおすのに充分な歌だった


やがてふたつの大地はひとつとなり

風にのって大陸に花びらを

浮き島に財貨をもたらした

往来する船はめざす

あの来光の彼方へとゆこう

まばゆい光とあつい雲とを

天空でひとつにむすぶのだ


船の行方は人知れず

残るは瓦礫か本懐か

世界はあれからひとつだと

証拠の海はいまも満ち引く


むかしむかしあるところ

いまもいまもただここに

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