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『この列車は楽園ゆき』感想-紅玉いづき『15秒のターン』より-

■はじめに

本エントリは、読書仲間との読書会のために作成されたものです。普段は公開していませんが、今回はなんとなくこういうオープンな場に書いてみようと思い至って書いています。
そういう目的なので、既読の方を想定読者としており、未読の方には配慮されていない内容となっています。ご了承ください。

■課題作の選択

小説を毎日のように読んでいた学生時代ははるか遠く、卒業して就職してからは日常的に本を読まなくなっている状態。ただ、本屋さんにはときどき吸い込まれることもあるので、そこで目に付いた本をたまに買って読んでいる。そんな感じだと、「お、あの作家さんの新作出てるやん」的な感じで手を出すことも多く、本課題作もその例に漏れない。
課題作にする(みんなに読んでもらう)ということはこの本について語りたいことがあるのか、というと、あんまりそういう観点では選んでない。ひとつは、自分は面白かったと思ったけどすっと言語化できない部分があったので、課題作にすることで自分に言語化を強いた、ということ。もうひとつは、読書会であまり選ばれない雰囲気の本だったので、放り込んだらどうなるか見てみたかった、ということ。私はそういうことをやりがち。前回も「みんながあまり触れない流行り物」というので『medium』をチョイスしたりしていた。今調べたら『medium』はコミカライズされてるのね。びっくり。そしてなんか表紙がめっちゃキャピキャピ(死語)している。

■感想

本来大事にすべきものを大事にできていなかった少女が、大事にできないまま(=少女のまま)大人になって困ったときに、かつて自分を大事にしてくれていたヒーローがかけつけて助けてくれるお話。だと思った。

茜子さん:主人公。自分のことが好きじゃない、大事にできない。なので周りに合わせて惰性で過ごしている。
高根くん:ヒーロー。自分を素直に表現できる。
芽依沙さん:友達。「周り」の代表。でも友達。

話のつくりをこうして考えて書いていると、自分の価値を相手にゆだねる茜子さんに好感を持つポイントが正直あんまりないな、と思う。でも、読んでいて茜子さんにイラっとしたとかはなくて、むしろ思っていることをスッと理解できたし、共感もしていた気がする。そこをなんでだろうと考えてみたけど、結局のところ茜子さんがそういう人になった背景が描かれていて、それに自分が納得できたんだろうと理解した。多分それがなかったらなんやこいつと思っていたかも。

キーワードとして出てきていたのは「大事なことを大事にする」と「楽園」のふたつ。「大事なこと」は、睡眠もあったけど、食べ物が絡んでいることが多かった。甘いものを食べることは、自分が好きじゃないものを周りに合わせて食べること。ラーメンを食べることは、自分がおいしいと思うものを食べること。朝ご飯を食べないことは、自分を大事にしないこと。「楽園」は、意味するものがだんだん変わっていっていた。小さい頃は、全部があるけど遠くて簡単にはいけない場所、東京、お父さんがいるところ。高校生の頃は、なんにもない自分が縋れる場所。子供を連れて実家から東京に帰るときは、自分を大事にしてくれる人がいたあの日。ラストシーンでは、自分を大事にしてくれる人がいるところ。

個人的には、自分ではできない、自分を大事にすることを他の誰かにしてもらう、その方法を恋しか知らなかったところから、そうじゃなくてもいいと言えたところの変化がとても印象的。

■少女小説とは

・調べる前の私のなんとなくの理解
恵まれない境遇で苦労してたけど困難乗り越えて王子様とハッピーエンド的なものもあり、彼氏の取り合いみたいなのもあり、恋愛からまないものあり、正直どうまとまっているのかよくわからん。ただ、女の子主体で周りとの関係性やその変化、それに伴う感情の揺らぎとかに焦点を当てたもの、というような気がする。

・調べてでてきたもの
レーベルで言えばコバルト文庫、X文庫ホワイトハート、ビーンズ文庫とか。作家や作品で言えば、『マリア様がみてる』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』とか。思ったよりライトノベル的なのが挙がってて、そうなんやと。もう少し調べてみると、壁井ユカコさん、佐々木丸美さんの名前も見つけられた。『雪の断章』なんかは、そういう文脈で見るとラストの解釈は(作者も言及してたけど)ストレートなハッピーエンドなんだなと。

児童文学の一ジャンル。児童文学を文学的児童文学と大衆的児童文学に大別した場合、後者に属し、とくに少女を読者対象に書かれた作品群をいう。少女小説は、歴史的には、前近代的モラルや生き方を要求された少女を主人公に、少女読者特有の好みであるセンチメンタリズムに彩られ、独自の内容と世界をつくりあげた。

小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)


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