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No.119 1981年 専門性としての社会科教育起点の授業 3年生社会科「私立小学校ならではの地域学習」初等科教師1年目の実践

 前回に引き続き教師1年目3年生での実践について書きます。社会科の1年間の取り組みです。今回の実践も依頼され1982年6月4日に行われた日本私立小学校連合会東京地区研修会(成城学園初等学校)の社会科部会で「私学における地域学習の一試案―3年生の全体計画・学習書・具体的実践・児童の資料―」として発表したものと日本私立小学校連合会『昭和57年度 教育研修集録124』(1983年2月)に書かせて頂いたものを基に執筆致します。ライフワークの1つである社会科教育の原点になる授業をご紹介致します。

1.3年社会科の目標と教材編成の視点
 「地域社会」とは空間的及び人々の生活にとって一定の共通の社会的特色を持った地域的な広がりであると捉えています。3年生の社会科では、地域の地理的特色、地域の歴史の学習を通して、現実的・歴史的に一定の広がりの地域の中に必ず自然と生活があることを理解させます。私自身としては自然と生活を人の生きる姿(特に人の働く姿)を軸とした人間と人間の関係として捉えたいと考えています。そのために、子どもたちに調査の方法論を習得させることが重要です。日常の生活のレベルを一般化することに調査の位置づけがあります。子どもたち自らが行う調査を通した地域における自然と生活の理解を通して地域の望ましいあり方を考えてくれればと思います。
 
2.3年社会科学習の基本的方法
 私学の多くの子どもたちにとって学校所在地の地域学習は日常の生活が行われている地域の学習ではなく、生活の基盤としての地域という把握が難しいように考えられます。半面多様な地域の様子が、個々の子どもの口から聞けることによりいろいろな地域と比較、検討でき地域には多様な生活形態があることを理解させやすいと考えます。さらに、通学途中においてもいろいろな町の様子に気づいているはずです。また、休暇中にはいろいろな地域に旅行に出かけ、多様な地域に触れる機会も多いと思われます。このように行動範囲が特定の地域に限定されることがあまりなく、多様な地域の比較ができ地域の自然と生活の一般的な理解は私学の子どもたちにとっても十分可能です。このような観点から以下のような学習の基本的方法を立てました。
1)学習課題の理解
 何を学習するのか、何を学習したいのかを明確にして学習意欲を持ちます。
2)研究方法の理解
① 予想
② 見学・調査
③ 子どもたちが作成した資料の活用
④ 表現化
⑤ 集団での作業
⑥ 比較・対比
3)学習書の活用
 学習書は一定のパターンを押し付けるものではなく、調査の方法やまとめ、自由課題など子どもたちの主体的を重んじるよう構成しました。また、形成的評価の1つとして活用します。
4)概念くずし
 子どもたちの既成の概念をくずすような教材を設定し、地域の中での人の生きる姿を追究します。また、地域の歴史の中で戦争を取り上げ平和教育の1つと場とします。
5)形成的・総括的評価
 学習書から子どもたちの課題を明確にして軌道修正を図ると共に、総括的評価ではレポートや記述式テストで思考力の深まりを見ていきます。

3.3年社会科年間の実践(全72時間)
 聖心では週5日制(1974年から)、英語が2時間必修などのため、3年社会科は週2時間の配当になっています。
1)港区と私の住んでいる町(22時間)
(1)屋上から見た学校のまわり
① 学校の屋上から何が見えるか(予想)
② 学校の屋上からの見学(見学・調査)
③ 見学のまとめ(発表)
④ 学校のまわりの様子(写真)
(2)自分が住んでいる町の様子
① 自分が住んでいる町の絵地図
② 学校の周りとの相違点
③ 家から学校までの様子
(3)地図の学習
① 地図の歴史
② 地図の種類と役割
③ 地図の見方・地図記号
④ 地図記号の作業
(4)学校の周りの調査
① 調査のオリエンテーション
② 調査の実施
③ 調査のまとめ

学校の周りの調査
記録をとる

(5)港区の様子
① 港区の概観
② 土地の様子
③ 土地の使われ方
④ 交通の様子
以上1学期(2011年度までは3学期制)
夏休みの課題 
夏休み中にでかけた地域の調査
社会科見学のコースを考える
 
2)地域の人々の仕事(20時間)
(1)家族の仕事調べ
(2)商店の仕事調査
① 店と私たちの生活のつながり
② 商店街の調査オリエンテーション
③ 商店街の調査実施
④ 商店街の調査まとめ
⑤ 家族の買い物の工夫
⑥ 港区の商店街
(3)工場の仕事調査
① 工場と私たちの生活のつながり
② 工場の調査オリエンテーション
③ 工場の調査実施
④ 工場の調査まとめ
⑤ 港区の工場 


木工所の見学
金属工場の見学

3)私たちが計画した社会科見学(8)
(1)社会科見学オリエンテーション
(2)社会科見学実施
① 港区めぐり
② 東京タワー
③ 東京都中央卸売市場
(3)社会科見学のまとめ
 

東京タワーで記録
 停車中のバスで記録

4)他の地域のくらし(6)
(1)みんなが調査した地域の様子

発表の様子

(2)江戸川区の様子
(3)奥多摩町の様子
以上2学期
 
5)学習発表会「わたしたちがした調査(発表と展示)」(学校行事扱い)
(1)研究の課題と方法
(2)みんながした調査
① 屋上から見た学校のまわり
② 学校のまわりの調査
③ 自分が住んでいる町の様子
④ 家から学校まで
⑤ 商店街の調査
⑥ 工場の調査
⑦ 私たちが計画した港区めぐり
⑧ 私たちが調査したいろいろな町の様子
(3)これからの課題
6)学校と港区の歴史(15時間)
(1)聖心女子学院の歴史
① 聖心女子学院の歴史を通して何を学ぶか
② 学校の創立から関東大震災まで
③ 戦争のころ
④ 戦後の聖心
⑤ 先生・シスター・当時児童だったお母さんに聖心の話を聞く
⑥ アンケートによる調査
⑦ 「聖心女子学院の歴史年表すごろく」大会
(2)港区の歴史
① 鉄道が走り始めたころから市電が走ったころ
② 関東大震災のころから戦争のころまで
③ 戦後の港区
④ 港区の人工のうつりかわり(グラフにする)
⑤ 聖心女子学院と港区の年表のまとめ
 
7)私の町と港区のかかえている問題(1時間)
 
8)3年社会科のまとめ レポート作成(課題)
テーマ「3年社会科から学んだこと」
わたしたちがした調査、聖心女子学院の歴史の2項目は入れ、あとは自由に書く。
以上3学期
 
4.終わりに
 ひとりの子どものレポートの一部をご紹介致します。
「わたしたちは、のさか先生、シスターやぎした、お友だちのお母様から昔の聖心のお話をききました。むかしの聖心は、今の聖心より広いそうです。今よりもおぎょうぎがよくて、せいふくはブラウスのそでまで夏でもおろしていたそうです。わたしから見ればただの「へー。うそみたいだ」ですけど、本当にやってみたらすごいだろうと思います。お友だちのお母様は「すごかったんだからー。あなたたちにわかるー。もうあせなんてすごいのよ!!」本当にそのとおりだと思います。それから、とてもおどろいたのは、ぶつかったら「あら、ごめんあそばせ」この言葉はわたしの口からはとてもじゃないけどでないと思います。わたしは今の聖心に入って本当によかったと思います。だってしょっちゅうぶつかって「あら、ごめんあそばせ」なんていやになる。それでなくても、まわりが言わないから「あの人ちょっとおかしいわね」だと思います。でもシスターやぎしたは、さぞぎょうぎがわるくてざんねんがっているかもしれません。」
 いやいや、あなた方もきちんとしたお嬢さんでしたよ。
ひとりひとりのレポートを読むとこの1年しっかり学んでくれていることが分かりました。
 初等科教師1年目の初めての社会科の授業。子どもたちの能力が素晴らしくとても楽しく充実した1年間の授業でした。39年間を振り返ると3年生担任はこの時が最初で最後でした。ですから、この1年とっても思い出が残っているのです。また、どこかでご紹介致しましょう。

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