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ムカデと子猫

夏の終わりに
ムカデと出会った。
夜、ひとりでテレビを見ていたら
目の前の床を猛スピードで
走って行った。

何日かして、また会った。
(同じムカデ?)
今度は台所で、床と調理台の
細~い隙間に細~くなって動かない。
(隠れているつもり? でも、丸見えだよ)

あまり動かずにいるので
ほんとに足が百本もあるのか、
数えてみようとしゃがみ込んだら
相手と目が合った(?)。

ムカデは見慣れぬ生きものに、
「足、四本しかないの? ヘンなの……
 まあ、どうでもいいけど、
わたし、とってもしんどいの。
土のお庭に帰らせてくれない?」

そっと箒の穂先を使って
勝手口まで案内した。
しばらく扉のそばで丸くなったり
長くなったりしていたけれど、
細めに開いた扉と床の隙間に
クネっと全身を寄せたかと思うと
すぐに見えなくなった。

            🌼

あれは、ずいぶん昔のこと。
小春日の気持ちいい
午後だった。

同居ネコたちが居間で
大騒ぎしている。
何か生きものを引き戸の隙間に
追い詰めたらしい。

懐中電灯で照らした先には
コロコロに太った大きなムカデ。
身の丈も十五センチはゆうにありそうな、
チラッと見えたお腹は鮮やかなオレンジ色。

その時も、箒の穂先で
掃き出し窓まで誘導して
環視のなか
ガラス戸を開けて 
出て行ってもらった……

と、その途端
何やら灰色のかたまりが急降下。
音もたてずに地面を掬って急上昇、
あとには ”洗い出し” の小石が
つやつや浮かび上がっているばかり。

灰色のかたまりは、たぶん、ヒヨドリ。
野鳥は、突然目の前に現れた虫を呑んで
「やったー」とか「ラッキー」とか
叫ばなかったけれど、思っていたかもニャー。

捨身飼虎。
飢えたトラの母子に
身を捨てて供した修行者は
来世で仏となり、
衰弱した老人を養おうと
進んで薪の炎に包まれた野ウサギは
月の兎となった。

聖者たちのように
進んでそうしたわけではないけれど
大地に愛された小さな生き物は
与えられた時の終わりに
野鳥のささやかな餌となり
野の鳥は、須臾の僥倖に浴した。

いのちの連なりの
無数の結び目、
出会い。

あなたと出会えて
よかった。

よかったと
思ってもらえて
よかった。

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