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ブラームス/4つの小品 Op.119


ブラームス(1833~1897)の最後のピアノ独奏作品で、彼はこの小品集を「自らの苦悩の子守歌」と呼び、生涯を静かに見つめたものとなっています。

第1曲:間奏曲 ロ短調

人の間でもがく苦しみを受け入れ、抗わず、孤独を引き受けた穏やかな境地が感じられる作品。集が心をつたうような柔らかな憂いに包まれています。彼は敬愛してやまなかったクララ・シューマンに「あなたがきっと喜んでくださると思い、あなたのためにピアノの小品を書こうとしていました。(中路)全ての音から愛鬱が吸い込まれるかのように、そして不協和音から官能的な悦びが起こるかのように聞こえなければなりません。」との手紙を送りました。クララはこの曲を「悲しくやさしい」「灰色の真珠、曇っているが貴重なもの」と評したということです。

第2曲:間奏曲 ホ短調

晩年のブラームスの死への不安や、何かに縋ろうと切に手を伸ばす焦燥が作品を支配しています。中間部では甘やかな思い出と天国への憧憬に心がほどけ溶かされていきますが、それも長くは続かず、冷たい風が吹くほの暗い場所へと引き戻され、最後は幸せな幻想が形になることなくはらはらと消えていきます。

第3曲:間奏曲 ハ長調

子どものころの無垢で素直な心を愛おしむような、優しいまなざしに包まれた作品。彼は、ここにかつて存在し何度も夢に見た、しかしもう手に入れることのできない理想郷を描いたのかもしれません。

第4曲:狂詩曲 変ホ長調

自らの生涯を育定し。来世に希望を託すような勇ましい冒頭に始まります。これまでとは一転、オーケストラのような壮大で重厚な響きが輝かしいものとなっています。しかし「はたして自分の人生は本当にこれで良かったのだろうか」とふと生じた疑念は、それをなんとか払拭したいという気持ちとともに葛藤をけび起こし、とうとう限りなく暗い淵となり果てていきますが、彼はそこに飲み込まれることを拒否し、そこから這い出ようともがき続けます。ほとんど本能のようなそれは痛々しくも勇ましく、やはり苦しく、そして人間らしいものとなっています。

2020.02.01 茨城音楽文化振興会 第17回演奏会
《ヴァレンタイン コンサート Vol.2》より
於:茨城県総合福祉会館 第1ホール

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