見出し画像

セツジツ祭


セツジツ祭

日付:2023年6月10日、11日
天気:晴れ、くもり時々雨
場所:ニシイケバレイ(西池袋)

概要

6月10日・11日に西池袋のニシイケバレイで開催された「セツジツ祭」で、pH7は詩のワークショップを行った。

成り行きとしては、またしてもアラマホシ書房に誘ってもらい、「セツジツ祭」というセツジツな人たちのためのお祭りを共同で企画することになった。アラマホシ書房が活動を通して出会ってきたセツジツな人たちが、各々のブースで物を売ったりワークショップを実施したりする中、会場の中央ではトークイベントが常に行われるという構成だった。

「切実さ」というテーマ

ネーミングの由来である「切実さ」という言葉について、アラマホシ書房は「差し迫った深刻なことというよりも、創作活動が生活に深く入り込んでいることや、自分の信念を追い求める真面目さ」を意図している。この背後には、pH7.1に掲載し「ポエジーたちのいるところ」で朗読した、片田甥の「切実さ」という詩が木霊していたと言う。

祭りを貫くテーマについて話し合った際、共同で制作や活動を行うこと、加えてそれを継続していくための場を作ることに対するセツジツさという共通性、一方で継続することを第一目的とすることと資本主義との共犯性といった話題に及んだ。その問題への意識もまたセツジツであり、地域通貨のようにセツジツ祭の中でのみ流通する独自の通貨を採用するという案に飛躍したが、その案は見送ることになった。

pH7はpH7.2の販売、以下の二つのワークショップの開催を行ったほか、8組のゲストを順番に招いたトークイベントの聴き手をアラマホシ書房と分担で務めた。

ワークショップ①文体収集(ニシイケバレイ・スタイル・コレクション)

コンセプト、ルール

文体収集は、レーモン・クノーの『文体練習』に着想を得たゲームで、用意されたオリジナルの文章(200字程度)を、カードに書かれたお題に従って書き換えていくものである。

お題はメンバー全員で思いつくままにリストアップし、実行可能性を考慮して64個を選定した。例を挙げれば、「自慢げに」(口調)「無駄に詳しく」(書き足し・引き)「未來の話に」(論理的操作)「実況中継」(なりきり)といったものがあり、おおむね指示の難易度(取っつきやすさ)に応じて3段階に振り分けた。一回のワークショップにつき、同じ元文を使用しながら複数のターンを行い、ターンが進むにつれてお題の難易度が上がる。最終段階ではそれをジャンルごとに書き換える、すなわち同じく言語表現の俳句やライトノベル、はたまた非言語表現である写真、ダンスへの翻訳に挑戦する。

各ターンの流れは、参加者の全員がお題のカードを引いた後、制限時間の10分で1枚の紙に手書きで元文を書き換えていき、それが終わると出来上がった作品をシャッフルして、一人ずつ朗読するというものである。元文からお題への書き換えだけでなく、それを書いた人とは別の人が読み上げることで、再書き換えが起こる。元文は多少飛躍のある散文であるが、ワークショップでは、会場にリソグラフの印刷機が導入されていたことから、終了後すぐにその場で個々の作品を印刷し、それらをまとめて冊子にして参加者に持ち帰っていただいた。

ワークショップで生まれた傑作

オリジナル文章の制作

なお、pH7が用意したオリジナルの文章【1.写生】は、メンバーの共同制作によるもの。これはpH7.2でも採用した、Google Sheet上の同時編集による三段階式の制作方法である。今後のワークショップでは、この元文の制作段階から始めてみることも可能だろう。

この制作の際に留意しなければならなかったのは、オリジナルの文章自体がある種の文体を含み持っているということである。どれだけニュートラルな文章に見えようとも、完全にニュートラルな文章というのは有り得ない。「文体のなさ」は即ち一つの文体になってしまう(星野太『崇高の修辞学』はこの問題意識から、日常的言語使用に潜む崇高について論じている)。したがって、オリジナルの文章は必然的に「お題」を伴う。いくつかの案が考えられたが、あるがまま、見たままを忠実に描写する「写生」という概念を、正岡子規が俳句や短歌の手法として導入した経緯なども踏まえながら、元文のタイトルとして採用することにした。

【1.写生】
朝。30代くらいの女が出勤しようとしている。マンションの4階から降りるエレベーターが、ボタンを押しても一向に動き出さない。扉は閉まっていて外にも出られない。緊急時連絡用の番号に電話してみるが、なかなか繋がらない。スピーカーからは美しく青きドナウが延々と流れている。カッとなってケーブルを噛みちぎると、機械音声が流れた。「グーテンターク、ここはベルリンです。」しかしここはベルリンではない。

制作:pH7

ワークショップ②マイ潜在詩手帖


言わずもがなの現代詩手帖をオマージュしたもので、私たちが手帳と聞いてイメージする本物の手帳(ダイアリー)の形で、肩肘張らずに毎日詩を書く、書けるようにしてしまうための手帖を作る。

リソグラフで刷ったカバー

参加者は潜在詩手帖用のリフィルに、思いつくままに言葉の断片を書き連ねてオリジナルのページを作り、加えて過去の参加者が作成したものも好きなだけ選び、その数に応じた期間分の手帖を制作する。

これから詩を書くための手帖でありながら、その手帖作りの段階、すなわち言葉の断片を書いていく段階から詩作は始まっているのだ、ということを身を持って体感することを狙いとした。手帖の使用に際しては、日々のスケジュールのメモや起こった出来事の雑記に、過去の自分や会場に居合わせた他人の言葉の断片がタイトルとして偶然くっつくことで、詩的な効果が生れることを期待したい。

リフィルのデザインについては、1ページを7つの欄で区分けする週単位のものを作ったが、一般的な手帳のような縦・横の均等な区切りではなく、外側から渦巻状に様々なサイズの欄を置き、文字の向きもリフィルが有する四方向に対応させた。

カラーは3色から選べる

参加者の感想

セツジツ祭というイベントで「潜在詩手帖」というのを作った。カレンダーにキーワードを入れておき、その日が来たら連想された単語や文を書く、創作ツール。ソロジャーナルゲーム?にも近い。他の参加者が書いたキーワードも混ぜられるのがおもしろい。

触覚かるた

潜在詩手帖を1週間トライ。初日(日曜)はタイトルから発想して詩をつくったが、潜在詩とは文章を書くだけで「タイトルの魔力で詩に引き寄せられる」らしいので、月曜以降は単純に日記として使った。綴られた労働の辛さにポエムみが出たかは不明。

触覚かるた2


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?