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抗がん剤投与患者の排泄物ケア

 ある日、抗がん剤投与を受けている患者さんの奥様から問い合わせ。
「病院の看護師さんから『旦那さんがトイレを使った後は、便器や壁・床を拭いてください。服用中と服用後3日後までは。』と言われた。そんなに怖い薬なの?」
と。

 当該患者さんが使用してた抗がん剤はカペシタビン錠。
 カペシタビンの排泄機構は以下の通り(インタビューフォームより)

 結腸・直腸癌患者20名にカペシタビン1,250mg/m2を経口投与したとき、投与後24時間までに投与量の69~80%に相当する量が尿中へ排泄された。
 このうち未変化体の尿中排泄率は約3%と低値を示し、FBALは約50%を示した。
 固形癌患者6名に14Cで標識したカペシタビン水溶液2,000mgを食後単回経口投与したとき、7日目までの尿中累積排泄率は投与量の96%に相当し、投与量のほとんどが尿中に排泄された。
 尿中排泄は、大部分(平均84%)が投与後12時間以内に排泄され、約144時間で完了した。
 尿中で認められたカペシタビンの代謝物は5’-DFCR、5’-DFUR、5-FU、FUH2、FUPA及びFBALであった。

※主な活性代謝物は、5’-DFCR、5’-DFUR、5-FUの3種で、5-FUの活性が最も強く、次に5’-DFURである。5’-DFCRと未変化体はほとんど活性がない。FUH2、FUPA及びFBALは、5-FUの代謝分解物。

 つまり、投与されたカペシタビンの未変化体および代謝物のほとんどが尿中排泄されるため、患者の排泄した尿の飛び跳ねから抗がん剤の暴露リスクがある。

 そのため、
✔ トイレは座ってすること
✔ 2回流すこと
✔ 流すときは蓋を閉めてから
ということを患者に伝えている医療機関は少なくない。

 上述のように「144時間(6日)で排泄完了」とのことなので、服用終了後6日目にはほとんど尿中には残ってないと考えると、せめて服用後3日目までは、曝露対策は必要だろう。

 ただ、きちんと座って用を足すなど、「飛び散り」の配慮さえしておけば、床や壁を拭くことまで改めて指導する必要性は感じない。
 本症例のように、患者家族(患者自身も含め)の不安を煽るリスクの方が大きくなるかも。
 トイレの床と壁の拭き取りは、普段の掃除等で1日1回できていればいいだろう。最低1日1回は拭き取ってほしいが。

仕事より趣味を重視しがちな薬局薬剤師です。薬物動態学や製剤学など薬剤師ならではの視点を如何にして医療現場で生かすか、薬剤師という職業の利用価値をどう社会に周知できるかを模索してます。日経DIクイズへの投稿や、「鹿児島腎と薬剤研究会」等で活動しています。