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PT-INRの基準値は3つある??

 INRの基準値って、0.8~1.2とか、1.6~2.6とか、2.0~3.0とか、どれが何やったっけ?・・・ってことでまとめてみた。

 推奨値は、ACC/AHAやESCが出しているガイドラインで提唱されているものが広く使われている。JCS(日本循環器学会)のAF(心房細動)ガイドラインもそれらをもとに作成されているようだ。
 ※ACC:米国心臓病学会、AHA:米国心臓協会、ESC:欧州心臓病学会

 なので結局、JCSのAFガイドラインに従うわけだが、それによると以下のように基準値が分けられている。
 70歳以上:1.6~2.6(エビデンスレベルB)
 70歳未満:2.0~3.0(エビデンスレベルA)
 僧帽弁狭窄症人工弁:2.0~3.0

 ※AFガイドラインでの推奨値なので当然ワーファリン服用患者の基準値。
 ワルファリン(WF)を服用してない人のINR基準値は0.80~1.20だが、この数値を基準に判断することは現場では少ないのでは?肝機能状態の参考になる程度か。

 さて、JCSのAFガイドラインではなぜ上述のような基準値になっているのか。以下、当該ガイドラインからの抜粋。

 70歳以上の設定値は、非弁膜症性心房細動による脳塞栓症の再発予防を目的にした観察研究によると、PT-INR が2.6を超えると重篤な出血頻度が急激に上昇し、PT-INRが1.6を切ると重篤な脳梗塞や全身性塞栓症が観察され、その多くが70歳以上であったとする報告に基づいている(1)。このPT-INR1.6という値は、PT-INR1.5未満の低用量WFの有効性を検討した研究で、その有効性が示されな かったこと、凝固系がPT-INR1.5~2.5では抑制されるのに1.5未満では抑制されないこと、さらに重篤な心原性脳塞栓症は、発症時のPT-INRが1.6未満でみられやすいとする報告と合致するそう。

 70歳未満や人工弁の設定値は次のような根拠からだそう。

 欧米で行われた6つのランダム化比較試験のメタ解析によると、非弁膜症性心房細動におけるWF療法では、脳梗塞はPT-INR2.0未満で多く、重篤な出血はPT-INR3.0超で多く発症していた。またPT-INRが2.0以下に低下してくると、脳塞栓症発症予防効果が相対的に下がる。
 さらに、70歳未満では一度脳塞栓症を発症すると長期にわたってハンディキャップを背負い家族の負担が増すことや、PT-INRが2.0以下に低下してくると日本でも 脳塞栓症発症予防効果が相対的に低下すること(2)、PT-INR3.0以下であれば若年者では出血性合併症をきたしにくいことから、PT-INR2.0~3.0 を目標とすることが望ましいと考えられる。

 ただし実臨床では、70 歳以上ではガイドラインに従ってPT-INRが1.6~2.6 に占める割合が66.2%と最も多かったが、70歳未満ではガイドラインで推奨されているPT-INR2.0~3.0の占める割合(37.0%)よりも1.6~2.6の占める割合が65.8%と高く、日本では70歳未満でもPT-INRを低めでコントロールしている実態が示されている。

【出展】
1. Yasaka M, Minematsu K, Yamaguchi T. Optimal intensity of international normalized ratio in warfarin therapy for secondary prevention of stroke in patients with non-valvular atrial fibrillation. Intern Med 2001; 40: 1183-1188.
2. Inoue H. Under-use of warfarin for patients with non-valvular atrial fibrillation in Japan. Intern Med 2004; 43: 529-530.

【2018/9/20記載】

仕事より趣味を重視しがちな薬局薬剤師です。薬物動態学や製剤学など薬剤師ならではの視点を如何にして医療現場で生かすか、薬剤師という職業の利用価値をどう社会に周知できるかを模索してます。日経DIクイズへの投稿や、「鹿児島腎と薬剤研究会」等で活動しています。