NDMA

薬に含まれるNDMAの影響を検討した報告書がでています。

「N-ニトロソジメチルアミンが検出されたラニチジン塩酸塩製剤又はニザチジン製剤の使用による健康影響評価の結果等について」
https://www.pmda.go.jp/files/000236355.pdf

これまで、NDMAが検出されたことでバルサルタン、ラニチジンやメトグルコが回収になっています。

これに対して、服用されていた方からの問い合わせもあります。

発がん物質が含まれていて回収された、と報道されると、不安になるのは間違いありません。

とはいえ、NDMAは水道水にも含まれています。水道水のもとになる原水にも含まれています。ざっくりいうと、1リットルあたり、数ngのNDMAが含まれている可能性があります。含まれる濃度は、浄水場(原水)や時期の影響も大きいようです。

「未規制物質等の水道における存在実態調査について」https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/houkoku/suidou/101201-1.html

なお、水に含まれるNDMA除去には活性炭処理が有効ともされているので、活性炭処理ができる浄水器はNDMA低減にある程度は有効かもしれません。

人間の胃の中で、食べたもの(魚、野菜)からNDMAが生成されることもあるようです。

普通に生活していても、体重50kgの人で、2ng/日くらいのNDMAは体内に入ってくることになります。

そもそも摂取量を0にはできないものであり、許容できる摂取量を設定することが求められます。

まず、動物に投与して、TD50という値を求めます。TD50とは「ある物質を生涯にわたり投与した場合、投与なしであれば腫瘍を発生しないはずの動物数に対し、その半数に腫瘍を誘発する用量(mg/kg 体重/日)」のことです。

NDMAの場合、TD50は発がん性データベースより0.0959mg/kg/dayとされています。

この数値は、例えば「第4章 国内外の主要な化学物質毒性データベース - 食品安全委員会」(https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=cho20150030001&fileId=090)に案内されていますが、実際はここで案内されたデータベースは直接はアクセスできなくなっており、データをFTPでコピーして確認する必要があります。細かいところですが、データベース上では0.0959m,vとされており、添え字のmは複数のデータの調和平均であることを示します。vはばらつきが大きいことを示します。

TD50はその量を生涯にわたり毎日摂取すると、2個体に1個体(2人に1人)の割合で腫瘍を生じさせる量といえます。

実際の許容量を定める場合は、摂取量が半分になれば、腫瘍を生じる確率も半分になるだろう、1/4になれば腫瘍を生じる確率も1/4になるだろう(線形外挿)と考えます。

ここで、1/100000の確率ならまあまあ許せるんじゃない、とざっくり考え、1/2の確率を1/100000にするために、TD50を50000で割ります。

(医薬品規制調和国際会議「潜在的発がんリスクを低減するための医薬品中DNA反応性(変異原性)不純物の評価及び管理ガイドライン」(ICHM7ガイドライン)においては「おおよそ10万人に1人の増加」のリスクは許容可能、としているようです。)

すると許容できる量は、0.000001918mg/kg/dayとなります。標準的な体重として50kgを想定し、これをかけ、単位を見やすくすると、0.0959μg/dayとなります。

TD50を求めた実験動物の生涯と人間の生涯の長さの差が考慮されているのか?、など、わからない点はありますが、一応はこの値であれば、生涯(人の場合は70年を想定)にわたり毎日摂取したとしてもがんを引き起こす可能性は許容範囲、と考えるようです。

上で書いた水道水などから日々体に入る量はこの許容量に対して少ないので、大丈夫でしょう、ということになります。

今回の基準でも、薬にNDMAが入っていたらだめ、ということではなく、入っているのはしょうがないけど、1日用量としての最大規定量(ラニチジンの場合は300㎎)を使った場合でも、許容量を超えるNDMAが入らないようにしましょう、ということになります。

今後はこの規定量を上回ってしまう濃度でNDMAを含む薬は出回らないようにチェックされるので、今後についてはひとまず安心、となります。

とはいえ、これまではこの許容量を上回るNDMAを含む薬が使われており、その影響も評価されています。

各社のラニチジンを分析したところ、メーカーごと、ロットごとにばらつきがあり、最大で、28.7ppm、平均値は0.24~5.91ppm(メーカーごとに求めており、メーカーごとに平均値が異なる)だったようです。

https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000651728.pdf

(ラニチジン塩酸塩又はニザチジン製剤の使用による健康影響評価について 令和2年7月27日資料2-1別添3 発がん性物質N-ニトロソジメチルアミンが検出されたラニチジン製剤及びニザチジン製剤の使用によるリスク評価)

短期間の影響を評価するにあたっては、同じロット(1回にまとめて製造する単位)のもののみを服用するであろうと考え、最大値である28.7ppmを使って評価しています。長期間の影響を評価するにあたっては、ロットごとのばらつきで平均化されることを考慮して平均値のうちの最大値である5.91ppmを使って評価しています。

上では、NDMAの量が半分になれば、腫瘍を生じる確率も半分になることを想定しましたが、さらに、服用期間が半分になれば腫瘍を生じる確率も半分になることを想定します。例えば8週間(0.153年)のみの服用であれば、70年間では10万分の1である腫瘍発生確率を(0.153年/70年≒0.002)倍に下げることになります。10年間のみの服用であれば1/7倍に下げることになります。

これによると高濃度(28.7ppm、300㎎のラニチジン服用で8.61μgのNDMAが体内に入ることになり、これは上記1日許容量の約90倍に相当する)でNDMAを含んでしまっているロットのラニチジンを短期間(治療期間として8週間を想定しており、これは70年間に対し約0.002倍に相当する)服用した場合の腫瘍発生確率は、1日許容量を70年間毎日服用した場合の腫瘍発生確率を、(8.61μg/0.0959μg)×(0.153年/70年)倍、すなわち約1/5倍になります。50万人に一人、腫瘍発生者が増える見当になります。

様々な原因で人には腫瘍が生じますが、その発生確率はNDMAによる10万人に一人という確率よりもはるかに大きく、相対的にNDMAのある程度の含有は認めましょうということです。

もちろん、その薬に服用する意義があることが前提となります。服薬の効果を充分に評価して、服薬を続けるか否かを決定すればよいと思います。





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