見出し画像

1冊目はアラーキーさん。 2冊目は蜷川実花さん。 乳房再建手術経験者の私が写真集を作る理由

NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー/E-BeCの理事長、真水美佳と申します。

「乳房再建手術」への正しい理解と普及、乳がん患者さんのQOL向上を目指して、2013年から活動しています。
 
みなさまに支えられて11年目を迎えました。節目となるこのタイミングで、私がこのような活動をしている理由と、かなえたい夢について書かせていただきます。

乳がんと診断され目の前が真っ暗に

2007年12月26日、私は両側乳がんと診断されました。
 
手術を受けたあと、右の乳房は全摘するためたいらに、左の乳房は温存するため左上にひきつれると言われ、外見の変化を受け入れられず「このまま治療せず、天寿を全うしよう」と思い詰めていました。
 
精密検査を受けた病院の医師から「うちは乳房再建手術をしていないので、もし再建したければ自分で納得のいく病院を探して下さい。紹介状はいくらでも書きます」と言われ、そこで初めて乳房再建手術の存在を知りました。
 
私は外見が変化することを受け入れられず、とにかく胸を失わない方法を探していたので、乳房再建手術をしたいと思いました。

乳腺外科医から乳房再建手術を全否定され、心が折れる

その後、乳房再建手術に関する情報をネットで調べるものの、当時は詳しい情報がなく、手術難民状態になっていました。
 
友人にすすめられセカンドオピニオンを受けたところ、乳腺外科医から「ここでは乳房再建はしません。必要ありませんよ」と乳房再建手術を全否定され、心が折れてしまいます。
 
サードオピニオンを受けた病院の乳腺外科医は、私のがんについてイラストを描いてていねいに教えてくださいました。そこでようやく私は自分の病気を受け入れることができたのだと思います。
 
その病院では、乳房切除と同時にエキスパンダー(組織拡張器)を入れ、その後にインプラントあるいは自家組織で再建手術を行うため、手術は最低でも2回必要と言われました。
 
当時は施設によって手術の方針が違うことも知らず、「手術は最低でも2回必要」と思い込んでいました。それならばまず全摘をして、その後どこかで再建手術を受けようと考えました。
 
そこで、乳房再建を専門に行っている形成外科医に話を聞きに行ったところ、その場で乳腺外科医を紹介していただきました。
 
私は形成外科の先生に「再建は少なくとも2回の手術が必要ですよね?」と聞いたところ、「1回で全部できます」と言われ、ここしかない、このお二人にお任せしようと思いました。

その先生は自家組織再建を中心に手術を行っていて、また私はインプラントを入れることに抵抗があったので、お腹の脂肪をドナーにした穿通枝皮弁(せんつうしひべん)で再建することに迷わず決めました。

乳房再建手術を経験して感じたこと

乳房再建手術を受けることが決まってからは、仕事の引き継ぎなどに追われ慌ただしかったことを覚えています。
 
2008年3月3日、

左乳房温存
右乳房全摘と同時にお腹の脂肪を使って乳房再建手術
 
を受けました。
 
術後3日間は、お腹に5寸釘が入ってるんじゃないかと思うくらいの激痛でしたが、睡眠薬と痛み止めでやりすごしました。もともと手術を受ける前から「痛いのは仕方がない」と思っていたので、こんなものなのかと思い、なんとか耐えることができたのかもしれません。
 
手術によって悪いところを取り除き、さらに術前と変わらない胸があることで精神が安定し、私は前を向くことができたのだと思います。


写真家・アラーキーこと荒木経惟氏と出会い、
写真集『いのちの乳房』を発刊

2010年の秋、NPO法人E-BeCの前身であるSTPプロジェクトで1冊の写真集を発行しました。
乳がん手術を経て、「乳房再建手術」と出会った19人の女性たちの姿を撮った写真集『いのちの乳房 -乳がんによる「乳房再建手術」にのぞんだ19人-』です。
 
https://www.e-bec.com/inochino-chibusa-official
 
写真集を制作することになったきっかけは、STPプロジェクトのメンバーである私が乳がんになり、「乳房再建手術」を受けたことで再び前向きになれた経験を、一人でも多くの乳がん患者さんに知ってほしいと感じたことからでした。

写真集撮影時の荒木経惟さん。

写真集の出版をきっかけに、乳房再建に関するボランティア活動をする中で、首都圏と地方との乳房再建手術に関する情報格差を実感しました。
 
別のNPO法人が、月に1回東京で開催している乳房再建ミーティングのお手伝いをしていた時、大阪や四国、九州などから参加している人たちがいました。
 
大阪でも乳房再建手術をしている先生はいらっしゃるのですが、その情報が行き届いておらず、東京でしか手術を受けられないと思い、参加されたようでした。
 
地方にも乳房再建の正しい情報を届けたいと考え、「乳房再建手術」の正しい理解と乳がん患者さんのQOL向上を目指しエンパワリング ブレストキャンサー/E-BeCを設立するに至りました。

アンケートから見える乳房再建手術の「ハードル」

ところで、乳房再建手術が保険適用であることをご存知でしょうか?
 
2006年、自家組織再建が保険適用に
2013年、インプラント(人工物)再建が保険適用に
 
それぞれ10年以上経過しているにもかかわらず、乳房再建手術が保険適用になっていることを知らない患者さんも多くいます。
 
さらに、E-BeCが2013年から実施しているアンケート調査結果から、乳房再建を考える際にさまざまな「ハードル」があることがわかりました。


以下、アンケートで寄せられた声です。
 
施設や医師がいない
・居住地に近いところで希望する手術を受けられる施設がない。
・地域格差が大きく、実績や経験、得意分野、専門の医師を探すのが難しい。
・都会へ行けば経験豊富な形成外科医や乳腺外科と連携のとれた病院に出会えるのかも
 しれないが、仕事もしており、家族もいることから術後の通院の負担も考えるとなかなか県
 外の病院探しは困難。
 
周囲の無理解
・夫はがんを切除するのは必要だと理解しているようだが、再建手術は費用が高いので
 必要な手術なのか疑問を持っている。そのため相談もしづらい。
・乳房がなくても生きていけるので、反対されないまでも理解されず豊胸と同じに捉えられる
 事もある。
・再建は病気ではないので休職希望を言いにくい。
 
アンケートの回答にあるとおり、乳房再建手術について周囲の理解が得られず、手術を諦める患者さんが一定数いらっしゃいます。
 
「乳房がなくても生きていけると言われる」「豊胸と同じに捉えられる」
 
手術によって胸を失うと、着替えや入浴のたびに鏡に映った自分の姿を見て「乳がん患者である」ということを思い知らされ、つらい思いをする人が多くいます。
 
私は、「乳房再建手術までが乳がん治療」だと思っています。乳がん後の長い人生を自分らしく豊かに生きていくための大切なアピアランスケア(外見の変化に対するケア)なのです。
 
乳房再建手術について知ってもらうために!
写真家・蜷川実花氏による写真集企画スタート

2013年より、乳房再建に関する理解を広げ、再建を望む人は誰でもどこでも一定水準の再建手術を受けることができる社会を目指し活動してきました。
 
10年経過した現在も、社会全体の理解と医療の均一化が進んだとは言いがたい状況です。
 
E-BeCでは、乳房再建手術についてより広く知っていただくために、写真家・蜷川実花氏による写真集第2弾の企画をスタートさせました!
 
第1弾同様、乳房再建手術を受けた方のありのままの姿を写真に収めます。
 
私は、写真集が広く話題になることで多くの人に乳房再建手術について知ってもらい、再建に対する思い込みや偏見をなくしたいと思っています。
 
また、写真集を出版して終わりではありません。出版後は写真展の開催も視野に入れています。こちらから全国各地に出向いて写真展を開催し、できるだけ多くの人に乳房再建について知ってもらいたいと考えています。
 
乳がん・乳房再建とは一見関係のないと思われる人たちや企業に応援していただくことで、乳房再建は決して特別ではないことをわかってほしいと思っています。
 
乳がんに罹患する人の多くは、30~50代の家庭や社会で大きな役割を果たす年代の女性です。
 
乳房再建手術があることを知り、乳がんとわかっても前向きに治療を受け、その後の長い人生を家族とともに幸せに生きてほしい。術後もこれまで通りに活躍できる社会であってほしいと願っています。

■プロフィール
真水美佳(ますい・みか)


NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー/E-BeC 理事長
国家資格キャリアコンサルタント/2級キャリアコンサルティング技能士
両立支援コーディネーター/NPO法人キャンサーネットジャパン認定乳がん体験者コーデネーター
2008年、両側乳がんに罹患し手術。
2010年、自身の乳がん体験をもとに写真集『いのちの乳房-乳がんによる「乳房再建手術」にのぞんだ19人』 (撮影:荒木経惟、発行:赤々舎)を 企画・出版。
2013年1月、NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー設立。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?